シンガーソングライターのSIRUPと音楽プロデューサーのShin Sakiuraが新曲“FOREVER”を発表した。“FOREVER”では、二人がフィールドレコーディングを通じて採取したさまざまな自然の音が使われているのが特徴だ。
この曲は、二人が国際環境NGOグリーンピース・ジャパンとともに取り組んだ『Nature Sound Project』を通じて制作。本作の楽曲配信の売り上げは、アーティスト個人を通じて、グリーンピース・ジャパンに寄付され、環境・平和活動に充てられる。
環境問題に対する関心が高まる一方で、私たちが暮らす日本にも、気候変動による影響が迫っていることを意識できている人はまだまだ少ない。今回の楽曲は、その問題を知る糸口をつくり、人々のアクションを促すことをミッションとしている。里山を舞台に、さまざまなスポットをめぐりながら、現地で働く農家とも対談した二人。制作の背景や楽曲の要素、そこに込めた想いについて聞いた。
SIRUP × Shin Sakiura“FOREVER”を聴く(Apple Musicはこちら)
二人は音楽家と社会との距離をどのように考えているのか?
―今回のプロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか?
SIRUP:ぼくはアクティビズムに興味を持っているので、自分のSNSでもメンタルヘルスや社会問題、環境問題に関するアカウントを普段からシェアしていて。そのなかにグリーンピースさんのアカウントがあって、その縁もあってこの企画に声をかけてもらったんです。
ただぼく一人では曲はつくれないし、彼(Shin Sakiura)は自分の近くで一番そういう話をする仲間の一人だったので、声をかけて二人でやろうとなりました。
Shin Sakiura:誘ってもらったときは、ただ曲をつくって出すだけじゃなく、里山で自然の音を集音するとか、ウェブサイトをつくってオンラインの導線も用意するとか、構想がしっかりしてきた段階で。その時点でめちゃくちゃ面白いなと思いました。
あと、自分はプロデューサーとして楽曲をつくることが多いので、自分の言葉や考えをリリックにしたり、アーティストとしてアティチュードを示したりということはあまりやってこなくて。だから、めちゃくちゃいい機会やなと思いました。
―プロジェクトは、気候変動や環境破壊などの危機を多くの人に伝えることを目的にしています。アクティビズムに興味があるという言葉もありましたが、お二人は、音楽家として社会課題に関わることをどう考えているのでしょうか。
Shin Sakiura:「ミュージシャンが政治の話をするな」という話をされることもありますけど、そもそも音楽をしている人間は、世の中の事象に対して思っていることが本当はあるはずなんですよ。
Shin Sakiura:それに音楽って、生まれ育ちとか、自分がどういう仕事、暮らしをしてきたかというストーリーがあってこそできるものだと思うんです。
海外のアーティストはそういう側面が強いけど、日本においては、その哲学とか信じているものを表に出すことがちょっと忌避されている風潮があるように感じていて。ただグッドミュージックであることだけが求められるというか。
「個人が感じていることと音楽をつくることは、地続きであるべき」。二人に共通する音楽家としての姿勢
Shin Sakiura:もちろん波風立てないために言わないことも、単純に意見がないから言わないという選択をすることもいいと思うし、言わないほうが「美徳」とされている風潮もある。音楽自体がただ好きだから、自分のあり方とつくるものは切り離して考えたいって人がいても全然それはいいと思う。
だけど、いまここに存在している個人がーーぼくやったら「サキウラ シン」がーー感じていることと、ミュージシャンのShin Sakiuraとして音楽をつくることは本来地続きであるべきだと思っていて。ぼくら二人は、そう感じているほうのミュージシャンなんですよ。
Shin Sakiura:そういうこともあって、今回のこのプロジェクトはすごくやる意味があるなと思っています。今回は気候変動の話だけど、それがぼくらの音楽家としてのアティチュードのひとつになるというか、そういう感じですよね。
SIRUP:音楽でやることと、こういうインタビューの場所で喋るみたいな他の活動が、いまの時代的にもはや「別」ではないんですよね。ミュージシャン一人とっても、音楽そのものだけでその人すべてを100%表現することはできないと思っていて。
いまはSNSとかで多角的に見られてはいるけど、まだ日本は音楽家は「音楽をする人」としてフォーカスされる傾向がある。でも、本当はその人の全部があっていいと思うんです。そうじゃない人ももちろんいていいんですけど、それはもう個性なんで。ぼくらは……あ、もうぼくらでいいですか?
Shin Sakiura:うん。
SIRUP:ぼくらは、この取り組みに関わらせていただいて、こうして話す機会があって。ここで話していることまで全部セットで、つくった曲を通じて何か意味をもたらすことができたらいい。かといって、それがなければ音楽が成り立たないわけではないんですよね。
全部を見たうえで、音楽を聴いて、ぼくらもまだ気づいてないものが見つかるかもしれない。そういう音楽のすごいところにもっと気づいてもらうために、いろいろこうして説明しているという一面もあるかもしれないです。
「教え」を説くための曲ではない。踊れる曲調の背景にある想い
―“FOREVER”では、長野県大町市のフィールドワークで集めた音が使われているそうですね。現地にはいつ頃行かれて、どういった活動をされたんですか?
Shin Sakiura:去年10月に1泊2日で行って。音を録ったのと、りんご農園の農家の方に会って、話も聞けました。農家の方は、やっぱりぼくらとは比べものにならないくらいに自然との距離が近くて。
気温が少しでも上昇することで病気が流行るリスクが高くなるとか、環境の変化一つひとつが日々の生業に影響する。そこと向き合っている人の話を聞く機会があったことは、すごくありがたかったですね。
フィールドレコーディングでは、川の音も録ったし、湿地にも森にも行きました。
SIRUP:「共存」をテーマにしたかったから、自然の音だけじゃなくてそこで生きている人たちの音を入れたかったんです。だから、りんごをかじる音や、囲炉裏があるような日本家屋で畳の音を録ったりもしました。鈴がじゃらんじゃらんって鳴る熊除けの音とかも。
―「共存」というテーマも込められているんですね。楽曲をつくり上げていくプロセスでは、どんなことを意識しましたか?
SIRUP:誰もが聴けて、楽しめて、「間口」が広いものにしたいという思いはありました。
こういう取り組みで制作をするとき、ミュージシャン的な視点ではアンビエントっぽいものとか、実験的なものっていうのになりがちで。そういうゆっくり聴くようなものではなくて、ただ気分を上げるためだけでも聴ける曲にしたかった。
SIRUP:あと歌詞は上から目線になりすぎないようにすることは意識しましたね。かといって抽象的にしすぎず、逃げてはいないし。どう向き合っていくかをちゃんと歌っている。そのバランスはすごく考えました。
Shin Sakiura:結構そこは悩みましたね。二人で整理していくうちに、自然とのつながりを再確認できるような曲にするべきだというところに立ち返りました。
集めた音の素材は100個くらいあったんですけど、すごく明るくて豊かな印象で。その自然音を取り入れながらシリアスにするのは、相当わざとらしいものになってしまうんじゃないかとも考えましたね。
―気候変動というシリアスなテーマでありながら、踊れる楽曲に仕上がっているのにはそんな背景があったんですね。
Shin Sakiura:それに、ぼくたちは「教え」を説くような人では全然なくて。一緒に学んで生きていって、一緒に背負っていかないといけないという立場だから。そういう認識なので、「我々はこうしなくてはならない」ってまるでSIRUPが命令しているみたいな曲にはしたくなかったんですよね。そういう話はずっとしていました。
歌に関しては、メッセージはめっちゃ込めたいし、自分たちが感じたことは入れていきたい。けど、説教臭くなるのはマジで間違ってるし、一緒に学んでいくということと、自分たちが考えたことを率直に曲に盛り込めたらいいよね、という話をすごくしていて。そのバランスを崩さないように丁寧につくっていきましたね。
Shin Sakiura:環境問題がいまどれだけシビアな状態になってるか、それをドラマチックに重く伝えることももちろんできる。でもそれはぼくらがやるべきことではないと思うし、やりたいことでもなくて。
この先もずっと続く問題だということを考えると、重くて苦しくて、聴く度に体力がいるものよりは、こういうものにしたかったという感じです。
「仲間がいる」そんな想いを込めたかった
SIRUP:全額売り上げを寄付することももちろんですけど、こういう曲をつくるときは、ずっと聴いていけるうえに、生活に寄り添っているものにしたかったんです。
アンセムと言ったら大袈裟ですけど、これから何かアクションを起こしたいという人のテンションを一緒に上げることができるような曲にしたいという意識があった。
SIRUP × Shin Sakiura“FOREVER”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
SIRUP:環境問題も社会問題に関しても、いままで無意識に消費や加担してきたものをどうやって自戒して、その認識を剥がしていくかという作業が必要になってくると思います。だから絶対疲れるんですよ。活動を続けていくことは本当に疲れるし体力がいる。
そういう意味でも「せめて音楽を聴いているあいだだけは」と思うんですよね。「仲間がいるんだよ」とか、この曲を聴いているあいだだけは活動をしていることに対してポジティブな気持ちになってほしいとか、そんな想いを込めたかったんです。
―連帯を広げていくというのは本当に大事ですよね。そのように間口を広げつつも、歌詞のなかには<もういいやは言わない>という意志を感じるようなフレーズがあったのも印象的でした。
SIRUP:ただ、すごく細かい話をすると、そのひとつのラインは譜割り上では途中で切れるようになっているんです。
「<もういいやは言わない>を絶対伝える」ってなってしまうとちょっと強いじゃないですか。「メロディー的には韻が合ってるから、たぶんこう言ってるよね」くらいイージーに聴けるけど、リリックを読んでみると実はメッセージが入ってくる。そういうのも個人的には意識していて、その遊びは楽しかったですね。
気候変動と環境破壊の危機を前に、個人は何ができるのか? 批判を引き受けてでも音楽家としてアクションを起こす
ー環境問題は大事だと思いつつも、一方で、この問題はやっぱり国や企業が大きなステークホルダーになっていて、個人ができるアクションにどこまで意味があるのかと無力感を抱く人もいると思うんです。その点についてはどう思いますか?
Shin Sakiura:たとえ無力感があったとしても……政治も環境問題もそうですけど、結局は個人個人が選択していった結果、世の中の風潮とかが変わっていくと思うので。
個人の行動が積み重なっていくと思うから、一人ひとりが何か行動をすることはめちゃくちゃ大事だと思います。
Shin Sakiura:自分で政党を選んで投票するということも環境活動のひとつだと思うし、環境に配慮したサステナブルな製品を選ぶとか、それを調べるという行動だけでもいい。
SIRUP:個人レベルでは変えられないけど、個人レベルでしか変えられないというか。
やっぱり、数年後はいまよりももっと環境問題はシリアスになると思うし、日本もやらないとヤバイってなると思うんですよ。そして、それは自分自身と地続きの問題ですよね。それこそ自分の世代もそうだし、もっと下のこれから社会に出る世代の人たちの生活に関わってくる話だから。
いまから社会に出る世代は何もしていないのに、いきなり「ここからハードモードなので」ってやられるんですよ。これから先ツケを払わされることになってしまう子らのためにも、個人ができることは大きいし、俺らももっとできたらいいなと。
SIRUP:この活動を通じて、こういう携わり方もあるんじゃないかという、ひとつの提案になったらと思います。楽曲がリリースされて、プロジェクトが世に出てからの反応が楽しみですよ。
社会的なことを発信することで批判があるかもしれないけど、社会問題も環境問題も、一生突き詰めないとあかんから、誹謗中傷はさておき、むしろ批判がないとダメだと思う。次にいけないから。だからなんべん批判されてもいいし、批判されたら「もう一度学べる」という気持ちでいます。
- プロジェクト情報
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『Nature Sound Project』
国際環境NGOグリーンピース・ジャバンが主体とする環境問題への活動にフォーカスしながらも、音楽を通してシェアしていくことで、よりフラットに、そして身近に「学ぶこと・考えること・知ること」へのきっかけになって欲しいとスタートした、SIRUPとShin Sakiura、グリーンピースによるコラボブロジェクトです。特設ページでは、SIRUPとShin Sakiuraの里山でのフィールドレコーディングのドキュメンタリーを見ることができるほか、特設ページからLINEで友だち登録すると、スペシャルレポートを受け取ることができます。
- リリース情報
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SIRUP × Shin Sakiura
『FOREVER』
2022年4月20日(水)配信
- プロフィール
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- SIRUP (シラップ)
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ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、そして自身のルーツであるネオソウルやR&Bにゴスペルとヒップホップを融合した、ジャンルにとらわれず洗練されたサウンドで誰もが「FEEL GOOD」となれる音楽を発信している。1st EP『SIRUP EP』リリースから5周年を迎える2022年11月、初の武道館公演『Roll & Bounce』を開催することを発表した。
- Shin Sakiura (シン サキウラ)
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東京を拠点に活動するプロデューサー / ギタリスト。バンド活動を経た後、2015年より個人名義でオリジナル楽曲の制作を開始。SIRUPや向井太一、iri、土岐麻子、Aile The Shota、アイナ・ジ・エンドらの楽曲のプロデュース / ギターアレンジ / プログラミングを手がけるなど活躍の場を広げ、アパレルブランドや企業のPV、CMへの楽曲提供も行なっている。
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