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Adobe、過去最高の売上もフリーミアムに進出
Adobeは、写真編集ソフト「Photoshop」をより多くのユーザーに使用してもらうため、ブラウザ上で動作する「ウェブ版」を無料で提供するテストをカナダで開始した。2021年10月にリリースされたウェブ版は当初、ファイル共有や閲覧、簡易な編集に特化した「コラボレーションツール」という位置づけだったが、その後機能が拡大。現在は、新規にドキュメントを作成することができるようになっている。
無料版はAdobe IDがあれば、誰でも利用することが可能。有料会員向けの一部の機能は利用できないものの、中心となる機能は十分備わっているという。「The Verge」によると、Adobeはこのサービスを「フリーミアム」と表現しており、有料会員への移行をうながすのが目的のようだ(*1)。
Adobeは遡ること2011年、サブスクリプションサービス「Creative Cloud」の提供を開始し、従来の売り切り型のソフト販売からビジネスモデルを転換。売上高は右肩上がりで、2021年度は157億9,000万ドルと過去最高を記録した(*2)。
一見順調そうに見えるAdobeはなぜここに来て、Photoshopでフリーミアムに進出しようとしているのだろうか?
「フリーミアムで口コミの宣伝力を最大化」徳力基彦さんに訊く
noteプロデューサーでブロガーの徳力基彦さんは、AdobeがPhotoshopウェブ版でフリーミアムに進出した要因が2つあると分析する。1つは企業としての成功体験だ。Adobeは前述の通り、ビジネスモデルの転換に成功した企業の筆頭の一つ。「いま上手くいっているからこそ、新しい領域に挑戦できる余力があります。ジリ貧状態だったら、リスクを取ることは難しいでしょう」と語る。
もう1つは、競合の存在だ。以前から無料の画像編集ソフトはあったもののクオリティーが追いついていなかった。しかし近年は、Canva(キャンバ)といった豊富なテンプレートを揃えた無料のウェブ版のデザインツールが続々と登場してきた。「ライバルが本当の脅威になる前に、市場に打って出る考えはあったのではないでしょうか」と徳力さん。
「フリーミアム」という概念が世界中に広まったのは、クリス・アンダーソン著『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』がヒットした10年以上前のこと。現在、「フリーミアム」のビジネスの可能性はさらに広がっているという。SNSの普及により、口コミの宣伝力が強くなっているからだ。
誰かにサービスをすすめるとき、フリーミアムは有料のものより圧倒的にハードルが低くなるだろう。現在、AdobeはテレビCMやネット広告を打っているが、徳力さんは「宣伝コストを広告に掛けるより、フリーミアムにして口コミの効果を最大化させたほうが、じつは投資対効果が高くなる可能性があります」と見解を述べる。口コミにより、バイラル係数(既存のユーザーが生み出した新規ユーザーの数)を大きくすることができれば、広告に宣伝コストをかける必要がなくなる可能性すらあるのだ。
フリーミアムは現在Adobeの手がけるようなソフトウェアだけでなく、ネットメディアや電子コミック、ゲーム、音楽などあらゆるジャンルで「常識」になってきている。例えば、現在世界で3億5,000万人の登録ユーザーがいるFortniteは基本プレイ無料であり、コスチュームなどへの課金で利益を上げるビジネスモデルを取っている。「ネットビジネスはいま、フリーミアムの時代に確実になっています」と徳力さん。
Photoshopウェブ版、無料化のテストはカナダ以外への展開は現在のところ未定だ。
*1:The Verge「Adobe plans to make Photoshop on the web free to everyone」
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