新たなクリエイターエコノミーの時代が到来している。YouTubeやInstagramやTikTok、各種ライブ配信アプリなどさまざまなメディアプラットフォームの定着とともに、個人のクリエイターがウェブ上で自らの表現や創作活動を発信し、そこから収益を得ることのできる経済圏が大きく拡大している。
そんな中、ユニークな活動形態でファンを増やしてきたのが、作曲家の森田交一だ。フリー音楽サイト「魔王魂」の創設者にして「中の人」であり、株式会社ジョーカーサウンズ代表取締役社長でもある森田は、現在、登録者数20万人を超えるYouTubeチャンネル『魔王魂公式チャンネル』でアーティストとしてオリジナル曲を配信。多くのYouTuberが“シャイニングスター”などの楽曲を動画のBGMに使ったことをきっかけに、人気を獲得してきた。2021年6月にはBitfanにて「森田交一公式ファンクラブ 魔王軍」を開設。2022年1月には音声プラットフォームVoicyにて「魔王魂の脳内ギャラクシー」をスタートさせている。
これまでの音楽ビジネスのあり方が大きく変わりつつある今、森田はフリー音楽サイトの運営からどのようにアーティスト活動の道を切り拓いてきたのか。その背景にある「クリエイターが主役となる」時代の潮流とはどういうものか。森田とBitfanを運営する株式会社SKIYAKIの小久保知洋社長、株式会社Voicyの緒方憲太郎代表取締役CEOに語り合ってもらった。
ビッグアーティストでなくとも、ファンクラブはつくれる
―「森田交一公式ファンクラブ 魔王軍」開設から1年が経ちましたが、振り返って、どうですか?
森田:これまで曖昧だったファンとの距離感がすごく明確になった気がします。もちろんファンクラブに入っていなくても応援してるよって方もいらっしゃるんですけど、ファンクラブができてからはグッズをつくったり、ファンミーティングがあったり、ライブで実際にチケットを販売してファンの方と触れ合ったり、ファンとの距離が近くなって、コミュニケーションが一気に活性化しました。
ミュージシャンって、グッズに限らず「自分みたいなのがやってもしょうがない」って思ってファンサービスに迷いがあったりするものなんです。でも、ファンクラブがあって、月額で課金してくれてる人は絶対ファンなので、こっちも自信を持ってサービスを提供できる。そういった面でプラットフォームとして活用させてもらいつつ、アーティストの活動としてのメンタリティに変化が起きた一年でした。あらゆるアーティスト活動がやりやすくなったと思います。
―ファンクラブって、メジャーレーベルや大手事務所に所属して大掛かりな活動をしているアーティストが持つものというイメージがまだ根強くあると思うんですけれど。森田さんがファンクラブをつくろうと思った最初のきっかけはどういうものだったんでしょう?
森田:最初はYouTubeの生配信でチラッと「ファンクラブをつくるのが夢なんです」って言ったら「普通に入ります」ってコメントが来て。みんなが後押しをしてくれたというのが大きかったですね。
小久保:実は、今おっしゃった「ファンクラブというのは大きなアーティストがやるものだ」というイメージは我々にとって大きな課題なんです。本当はニーズがあるのに、特に日本では「ファンクラブ」という名前や歴史が長くその概念が強すぎるせいで、一歩踏み出すのに躊躇される方が多い。それがもったいないというのをぼくらとしてはよく思っていて。
森田さんのようにファンが後押ししてくれるパターンもあるんですけど、コロナになって活動ができなくなったからつくりましたという方も多いんですね。でも、ファンクラブをつくるのに言い訳を必要としなくていいと思うんです。みんなが楽しめる場所、濃いファンのための場所があって、みんなの毎日がそれで楽しくなるなら、いいことしかないはずなので。
―森田さんがBitfanのプラットフォームを選んだのはどういう理由でしたか?
森田:いろいろなプラットフォームを探したんですけれど、Bitfanさんがぶっちぎりで格式が高くて上品な感じがしたんです。ファンの熱量を可視化してそれを収入に変えていくというシステムにも誠実さを感じました。私はどのプラットフォームを使うかにおいてアーティストのブランド感をとても大切にしているので、であればBitfanさんが一番相性がいいなと思いました。
―「ファンの熱量を可視化する」という森田さんの言葉がありましたが、サービスの設計のときからそういうビジョンはありましたか?
小久保:まさにそれは我々がBitfanを最初につくったときのコンセプトとしてありました。というのも、昔のファンクラブって、一律月額300円で、チケット先行があって、ブログみたいなものはあるけれど、コメント欄すらなかったりするんですよ。そういうものと今はコミュニケーションの形が変わってきているのに、プラットフォームはずっと一緒だったんですね。
なので、スーパーファンを認識しよう、そういう人にもっとファンダムを起こしてもらおうというところで2018年にBitfanを立ち上げたんです。当初のコンセプトとしてはいかにファンの熱量、お金と行動をポイント化して可視化するかということをやっていたんですけど、とは言っても、それでファンを差別するわけにもいかないし、可視化してどうするんだということになってしまって。だから、その考え方自体は大事なものとして残しつつ、今は熱量の高いファンがやれることを増やしていくことを目指しています。
Voicyはなぜ無編集、無加工の声にこだわるのか?
―森田さんは今年からVoicyでの配信も始められたわけですが、そのきっかけと意図は?
森田:Voicyは「家でラジオをやってみませんか」というオファーをいただいて始めました。適当に雑談でもするかと思って登録したら、Voicyさんは誰でもパーソナリティになれるわけじゃないので、著名な方も多いし、レベルの高いラジオばっかりで。
でも「ミュージシャンの日常を喋っていただくだけでもファンからは喜ばれると思うので、そこから始めてみたらどうですか」というご依頼だったので、そこから始めました。ついついサボっちゃう日も多いんですけど、平日は毎日アップするのを目標にしています。
―音声プラットフォームのVoicyはどんな考えのもとに立ち上げたサービスなんでしょうか?
緒方:ぼくたちは音声のプラットフォームと捉えられがちなんですけど、自分としては、どちらかと言うと「人をそのまま届けるプラットフォーム」だと思っているんですよね。声だけで、しかも編集ができないので、間の使い方も含めて、加工されていないその人の内側の全てが出てくる。いろんな魅力的な人が日々思っていることを発信して、それを聞きにいける、生き様を得られる場所にしたいと思ったんです。
なので、役に立つ情報がたくさんあるということよりも、その人の生きているスタンスが届く世界にしたいと思っていて。そのためには発信者の手間をかけないかたちにしたい。ボタンを押して録音するだけという、全てのプラットフォームの中で最も手軽に発信できて、その一方で聞いた人の反応がめちゃくちゃいいという、コスパが最大級に高いものをつくろうと思いました。
というのも、YouTubeにしてもTikTokにしても、加工したり余分なものを削ったりしたほうが良い、編集に時間をかければかけるほど良いものになるという世界になると、暇な人しか発信しないようになって、リアルが充実して人生が楽しい人のコンテンツがインターネット上にほとんどなくなってしまうと思ったんですね。なので、忙しい人や、何かに熱中してる人、一生懸命な人たちのために発信する場所を作りたいという思いもありました。
―声だけというシンプルな形だから、その人のパーソナルな側面が伝わるということなんですね。
緒方:そうですね。で、やってみたら、編集できないというのが思った以上に効果的だったんです。発信者がちょっと緊張してるのもわかるし、他のサービスに比べて多くの人に届けられるわけじゃないけど、しっかり理解者や共感者が増える。そういう声の力があるんだというのは、ぼくらもやりながら気付いたところでした。
たとえば、オンラインサロンをやってる方でも、人によっては流入経路の8割ぐらいがVoicyだという話がある。声というのはスローなメディアなので、パッと見て面白そうだからクリックして買ってもらうというものではないけれど、深くて温かみがあるポジショニングになっていると思います。
アーティストとしての意識を持ちながらフリー音源を配布。無料だからこそできること
―森田さんはこれまで独特なかたちで音楽活動を行なってきたわけですが、どのようにして熱量の高いファンと出会っていったんでしょうか?
森田:私の音楽を聴く人は二種類いまして、利用者とファンなんです。というのも、私はフリー素材として音楽をリリースしてきたので、みんなが自由に使えることで音楽が広がってきた。だから、まずは利用者かファンかの境目を見極めなければいけない。ホームページから入ってくれる人は利用者が多いけれど、YouTuberさんが広めてくださったことで入ってきてくれたリスナーの層はファンになってくれやすいというのはありますね。
―そもそも、普通にアーティストとしてデビューして成功する道を目指すのではなく、フリー音源サービスの運営を始めたというのはどういう経緯だったんでしょう?
森田:アーティストになる正しい道順として、東京に行ってオーディションを受けたり、ライブをしてスカウトされたりという経路があるじゃないですか。私は天然でそれとは全然違う道を通ってしまったんです。
インターネットが普及してきた高校生の頃に「ここに出したら誰かが聴いてくれるんじゃないだろうか」と音楽を無料で出したら「使っていいですか」と言われたのがきっかけで「いいですよ。じゃあ他の人もどんどん使ってね。名前は書いてね」という風にしていたら、ある日ゲームをしたときに自分の曲が流れてきたことに感動して。そこで自分の音楽の聴かれ方のパターンが成立しちゃったんです。
―その当時のフリー音源というのは歌モノでしたか?
森田:歌モノもあるし、BGMもあるし、いろんなものを出してました。ただ、最初の頃はゲームの音楽とかに使われることが多くて、歌モノは当時そこまで評価されてなかったと思います。
―でも今の魔王魂は“シャイニングスター”などの歌モノが代表曲になっているわけですよね。これはどんな転機があったんでしょうか?
森田:音楽活動していく上で一番大切なのはアーティストとしての活動をどうやって収益化するかというところにあると思っていて。当初はフリーで音楽を出すことによってホームページにアクセスが集まるので、そこから私が立ち上げた作曲の会社に誘導して、そこで依頼を受けてつくるという流れで事業化していたんです。
とはいえ、依頼で書く曲はなかなか好きなように書けるわけではないし、クライアントさんの意向もある。自分のやりたいことはアーティストとして自分の作品を出すことなんですけれど、それとギャップが出てきたと思うようになってきた時期があって。だったらYouTubeで音楽を出してそれを収益化したらアーティストとしてもっと活動できると思ったんです。
そこで2016年に1日1曲BGMを作って動画にしてアップするというのを365日やったんですけれど、チャンネル登録者が3000人くらいまでしか増えなかった。継続することは大切だと思うんですけど、やり方が間違ってたなと思って。盗作されるのが怖くて60点から80点くらいの出来を狙って作ってたんですけど、YouTubeで出せば著作権は保護されるわけだから、2017年から90点以上ばかりを狙って出していった。その時に出したのが“シャイニングスター”や今人気の曲だったりしたので、このやり方が正しかったんだなと思いました。
―“シャイニングスター”やその他の人気曲は実際どんな風に使われているんですか?
森田:YouTuberさんが自分の動画のエンディングで流してくれたりとか、いろんなシーンで流してくれるのが圧倒的に多いですね。
―そういったYouTuberの方は、メジャーレーベルからリリースされているような他の楽曲をエンディングに使うということは、ないわけですよね?
森田:それも可能なんですけど、YouTubeにはコンテンツIDという仕組みがあって、それをすると元の楽曲制作者の方にも収益が入るようになる。うちはそれを切ってるんです。
―なるほど。だからこそいろんな動画で使ってもらえる。
森田:“シャイニングスター”までいくと、イントロとAメロとサビがそれぞれ全然別の動画で使われてたりするので、コメント欄で「やっと見つけたと思ったら、イントロもこの曲だったんだってわかって感動した」って言ってる人がいて。最近では「この曲と“シャイニングスター”の作曲者が同じだったのか」みたいなコメントもたくさんもらっていて、ちょっとずつつながってきてるなと思っています。
―森田さんとしては、フリーのBGMとして誰にでも使えるようなフラットでユニバーサルな曲をつくるという意識と、自分のアーティスト性や自己主張を込めた曲をつくるという意識では、どちらが強いんでしょうか?
森田:それは100%「アーティスト」ですね。私はBGMも含めて自分が書きたい曲だけを書いているので。ピアノからしっとり始まっても途中でロックになったり、実はBGMには使いづらいんですよ。
森田:他のフリー音楽家と会って話したりするんですけれど、話を聞くと、大半の方が結婚式シーズンに合わせて結婚式の曲を書いたり、花見シーズンに合わせて花見の曲とかを書いたりして、広告のクリック率とか単価を気にしてらっしゃる。私のようなパターンは少ないです。でも、そういうやり方でも売れてる曲があるので、ラッキーだなと思ってます。
コアなファンはどのようなアーティストにつくのか?
―小久保さん、緒方さんのお二人から見て、森田さんのやり方やスタンスについては、どんなふうに感じましたか?
小久保:濃いファンが楽しめる場が長く続く方というのは、一本の哲学がある方だと思ってるんです。うちはかなりの数のファンクラブをやってるんですけど、ジャンルによって有料会員の数は違うんですよ。
例えばInstagramのフォロワー数が何万人、Twitterのフォロワー数が何万人いるかに対して、ファンクラブだったらどれぐらいの有料会員数が見込まれるかというコンバージョンレートの数字もあるんですけれど、それもジャンルによって違う。傾向としては、話を掘り下げていっても表の顔と変わらないような人は、コアなファンがつきづらいということもあります。
で、森田さんはやってることがそもそも特殊だし、「音楽をフリーで出すってどういうこと?」みたいなことに対しても自分の哲学で話されている。こういうタイプの人はコアなファンが長く続く。みんな「魔王軍」の一員で嬉しいというところがあるんだろうと思います。
小久保:何かのファンになるというのは、帰属意識を持つことで満たされない日常が楽しくなるということだと思うので、それが強烈であればあるほど引き寄せられる。かつコンテンツがいっぱいあるし、当然のようにファンサービスの精神も持っている。なかなか真似できないと思いますけれど、教科書のような方だと思います。
森田:身に余る光栄です。
緒方:森田さんは、新しいタイプの方だなと思っています。アーティストとして自分の世界を主張したいというのはブレずにある一方で、ユーザーの反応がめちゃくちゃ気になるし、喜ばせたいし、できるなら全員とコミュニケーションしたいという、そこの部分とのバランスもある。
その循環が上手く回っていくから、深いところで根強いファンができてきて、ファンの方も魔王魂というコンテンツを消費しているのではなく、一緒に走ってるパートナーという感じになってるんだろうなと思います。こういう人って、昔はそんなにいなかったと思うんです。そうできるツールが少なかったと思うんですね。
でも、社会がちょっとずつ変わってきて、どんどん個人が活躍できる世の中になってきた。最近ではクリエイターエコノミーと呼ばれたりもしますけれど、時代は確実に変わってきた。でも、個人が活躍するための教育なんてものはどこにもないので、上手くやれる人はなかなか少なくて。
―というと?
緒方:たとえば、最近流行ってるライバーさんだったり、向こうの要望に応え続けるタイプは、どんどん受け手の寂しさを紛らわすためのプレイヤーになってしまったりしがちなんですね。逆に「俺はこうなんだ」って自分の世界を打ち出したい人は、受け手とのコミュニケーションがうまくできなかったりする。
クリエイターエコノミーと言われて「個人が活躍する時代が来た」と言われるんですけれど、ほとんどの人はYouTuberのトップクラスの人しか見ていなくて、一方で下の方では消えていってる人も山ほどいるし、人気は欲しいけど何もできない人もたくさんいる。プレイヤーが増えた中で残っているのは、自分の独自性とファンとのコミュニケーションとを両立できる人なんです。森田さんはその中で一人の個性的な代表選手になってくるんだろうなと思います。
クリエイター活動を四つに分けて考えると、プラットフォームの役割が見えてくる
―BitfanとVoicyは共にクリエイターエコノミーの時代を前提にしたプラットフォームであるわけですが、小久保さんと緒方さんはお互いのサービスをどんな風に捉えてらっしゃいますか?
小久保:ぼくらとVoicyさんでは、役割としてのレイヤーが違うものであるとは思っています。ぼくらはオーディエンスを集めるというよりも、その後にどうやって深堀りするか、どう経済的に持続可能にするかというプラットフォームであるので。
Voicyさんの中にも課金がありますけれど、基本的にはメディアプラットフォームであるので、我々のやってるマネタイズのプラットフォームとはレイヤーが違う。ただ、Voicyさんってぼくの中では特殊だと思っているんです。YouTubeとかTikTokとか、他のメディアだと基本的にはアテンションをどう惹くかということにポイントがある。
でも、先程もスローなメディアとおっしゃってましたけど、そうじゃない感じがするんです。Voicyさんの配信者の方って、リスナーをどう集めて、どうやって自分のファンにさせていくような感じなんでしょうか?
緒方:ぼくたちはどちらかというとエンゲージメントプラットフォームだと思います。プレイヤーが多くの人にリーチするというよりは、エンゲージメントを上げるということを大事にしている。ぼくたちはとにかくパーソナリティーファーストで作っているので、発信者の世界観をずっと出し続けることを担保できるように設計してるんですね。
そもそも、ほとんどのサービスって受け手が自由に楽しめるようにつくってあるんですけれど、それをやると発信者は自分を曲げて受け手に合わせたものをどんどんつくるようになってしまいがちなんですね。そうすると数字が伸びるので、だんだんみんながプラットフォームのアルゴリズムに合わせたことをやり始めてしまう。
うちは逆に、いかにハックできないサービスにして、本人らしさを出し続けられるかというところにかなりこだわりを持っています。とにかく自分の世界観を出していくことにコミットしているんです。
―先ほど小久保さんがBitfanとVoicyでは役割のレイヤーが違うとおっしゃっていましたが、それを詳しく解説していただけますでしょうか?
緒方:クリエイターエコノミーの世界は四象限にわかれています。まず発信者が自分のコンテンツをつくる作業をするところが第一象限。それが受け手にリーチするところが第二象限、そこからファンができたりエンゲージメントが上がるというところが第三象限になっていて、それをマネタイズするのが第四象限。
そこで入ったお金をまた制作に投入するわけなので、その4つの象限をぐるぐる回っているのがクリエイターエコノミーだとぼくは思っています。
で、例を挙げるならば、TwitterとかInstagramは発信者がコンテンツをつくることと届けることをひたすらやっているので、第一象限と第二象限になる。そこで認知を増やすことはできるけれど、受け手はとりあえずその人のことをフォローしているという人が多いと思います。
Voicyは理解者が増えてファンが増えるというエンゲージメントが上がるところに力を入れているので第三象限のところですね。で、Bitfanさんはすでにエンゲージメントの高いファンを持っている発信者さんがどうマネタイズするかということをやっているので、第四象限になる。
YouTubeに関しては化け物なので、モノをつくれて、多くの人にそれを届けることもできるし、さらにその人のことを好きになりやすいという第三象限のところまでリーチしているプラットフォームなんじゃないかと思います。
―ちなみに、緒方さんと小久保さんは、CDからストリーミングへと変わってきた今の音楽ビジネスの状況をどういう風に見ていますか?
小久保:ぼく自身は音楽業界にずっといた人間ではないんですけれど、使ってくださっている方の大半がアーティストだし、インディーズのアーティストを支援するということに力を入れているので、一体それが今どれくらいできているのかというのはものすごく気になっています。
でも、このあいだとあるYouTuberの歌い手さんとお話をしたときに、「ところで、この方稼げてるんですか?」と事務所の社長にストレートに聞いたら「ぼくより稼いでますよ」と言われたことがあった。CDをリリースしたりしなくても、いわゆるYouTubeの広告と我々のようなツールや、ライブとグッズなどを組み合わせて稼げている人はたくさんいるし、それだけでアーティストが自由に活動を続けられるようになってきている。
小久保:ぼくらももっとそこに貢献できるようにツールや武器を増やしていきたいと思っています。インディーズのアーティストのみなさんはオーディエンスを増やしたいという切実な悩みがあるわけなので、これに対して何がどこまでできるかというのはすぐには難しいと思うんですけど、とはいえCDが売れなくなったからアーティストが食えないという悲観的な状況ではない。
ぼくは以前からケヴィン・ケリーが言う「1000 True Fans」の世界、それも1,000人はキツいので300人くらいでちゃんと暮らせるということを目指したいと思っていて。その目標に対しては今の段階で5合目くらいまで来ているかなという感じではあります。
ストリーミング以降のアーティストが持つべき資質とは? これからを生き抜くプレイヤーの条件
―ぼくは2016年に『ヒットの崩壊』という新書を出していて、そこでも書いたんですけれど、だいたい2016年から2017年頃が「CDが売れない、音楽不況だ」と言われていた時代からサブスクのストリーミングサービスの普及期への切り替わりの時期だったんですね。
―で、2018年から2019年頃からTuneCoreなどのディストリビューションサービスを使ってインディペンデントなアーティストがストリーミングで曲を配信して収益につなげる潮流が本格的になってきている。その流れの中に森田さんもいると思うのですが、どうでしょう?
森田:まさに、私がTuneCoreを使って魔王魂としてこれまで出した曲を全部サブスクでリリースしたのも2018年から2019年にかけての頃でした。
それまではフリー音楽として発表していたので参入するかはだいぶ迷ったんですが、やれるものは全部やりたいなという思いもあったので。で、その時の最初の収益を見た時に結構びっくりして。「もう作曲依頼も受けずにこっちでいけるじゃん」と思ったし、「CDは記念グッズとして売る時代が来たんだな」って感じました。
―2020年代に入って、インディペンデントなアーティストにとってもストリーミングからの収益はある種のベースラインになってきていると思います。ただ、それだけでは活動を支えるのにはどうしても足りないという声も多い。その上でどう活動の幅を広げ、どうマネタイズするかというところを考えてきたのが森田さんの現在につながっているのではないかと思います。その辺りはどうでしょうか。
森田:TuneCoreでサブスクに出したときにすごく収益があがって、こんなに聴いてくれるんだというところから新しいことをもっとやろうかなというのはありました。あとは、コロナ禍になって、それまでメンタルブロックのせいでやらなかったことをやってみようということがあって。私にとっては生配信がそうだったんです。
フリー音楽家が生配信で顔を出してもいいかなと思って、それで出してみたら、みんながコメントくれたりとか、ファンのリアルタイムな反応を聞けて、それがファンクラブの話につながっていった。いかにそれまでの自分が狭いところで限られた活動をしていたんだなというのを実感しました。
―緒方さんとしては、音楽ビジネスの変化についてはどう見ていますか?
緒方:僕は二つの流れがあると思っています。一つはCDじゃなくても音楽を届けられるようになったことで、中間にかかるコストが少なくなった。
それはユーザーとしては嬉しいことなんですけど、ということは、流通なども含めたトータルのマーケット規模が小さくなって、お金の総量が減るということでもあるんですね。広告だったりいろんなものに使える金額は下がるし、そこに関わる仕事で食える人が減っていく。
そういう市場のシュリンクの流れの中では、関わる仕事のプレイヤーたちがどんどん減っていかざるを得ない。ミュージシャンが自分たちで活動する社会にならないといけないのに、関わる人たちが自分たちの給料をキープしようとするから音楽業界が苦しいというだけのことなんじゃないかということは思ってます。
緒方:で、もうひとつの流れとしては、とにかくプレイヤーが大衆化したというのが大きいですよね。昔は事務所やレコード会社に所属しないとミュージシャンやタレントになれなかったわけですけれど、今はなろうと思えば誰でもできるようになった。
誰でもなれるということは競争になるわけで、そうなると、セルフプロデュースの能力がある人だけが伸びてくる。自分がどう見られているのか、どうすれば改善できるのかという、マーケティングも含めて自分のことを自分でコントロールできる人たちが上がってきている。
総じて言うと、既存産業で悲観的になっている人はどんどん淘汰されて、その一方で新しいマーケットがどんどん生まれて、トータルの市場規模としては大きくなっていくんだろうなというのが僕の見立てです。プレイヤーに主軸が変わるというのはそういうことだと思いますね。
- サービス情報
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オールインワン型ファンプラットフォーム「Bitfan」
「Bitfan」は、誰でも無料でクリエイター活動に必要なサービスを利用できる、新時代のファンビジネスを支えるプラットフォームです。オフィシャルサイト、ファンクラブ、ECストア、チケット販売、ライブ配信、グループチャットなど、これからのクリエイター活動に必要な機能をオールインワンで提供しています。多言語翻訳、他通貨決済、海外送金などのグローバル対応を実現することで、2020年11月に、革新的な優れたサービスを表彰する「第3回 日本サービス大賞 総務大臣賞」を受賞しました。
音声プラットフォーム「Voicy」
「Voicy」は、人や社会を豊かにする声が集まる音声プラットフォームです。どんな発信よりもシンプルな収録で、編集しない声だからこそ本人性や想いが届く新しいコンテンツを生み出しています。特徴として、応募通過率5%前後の審査を通過したパーソナリティのほか、ニュースが声で聴ける「メディア放送」、企業の人柄までも伝わる「オウンドメディア」が集まることで、日々を豊かにする信頼できる声とだけ出会える環境になっています。また、ながら聴きができることで、忙しいなかでも人や情報に触れる機会が生まれ、平均聴取維持率は80%超。多くの方が放送を最後まで楽しむ文化となっています。2022年5月時点の会員登録者数は、前年比2倍の約150万人。
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