自閉症のある女性弁護士の奮闘を描いた韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』が話題だ。Netflixで配信されている同作は、日本でも週間ドラマランキング1位になるなど人気を博している。
今年6月末にドラマは始まり、8月18日で全16話が終了した。韓国でのドラマの平均視聴率は5%のなか、最高視聴率は15.8%(第9回)を記録。ファンからの人気に押され、すでにシーズン2の製作が2024年に計画されているとの現地メディアの報道もある。ミュージカルとしての作品製作も発表された。
心優しくあたたかな登場人物やユーモアあふれるストーリーが魅力的な作品だが、自閉症への偏見・差別といった人権問題や、女性の労働問題、学歴中心主義など韓国社会の課題も映し出している。
※本稿には、作品の内容に関する記述があります。
メイン画像:Netflixシリーズ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』独占配信中
自閉症のある弁護士が、次々と事件を解決――。爽快な法廷ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士』
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(韓国語原題は「おかしな弁護士ウ・ヨンウ」)の主人公、ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)は新人の弁護士(数え年で27歳)で、発達障害の一つである自閉スペクトラム症を抱える。
ソウル大学のロースクールを首席で卒業し、司法試験にはほぼ満点で合格。法律や裁判例は一度ですべて記憶できるという天才的な頭脳(IQ164)を持つ。大手法律事務所「ハンバダ」に就職し、周囲の助けを借りながらさまざまな事件を解決し、弁護士として成長していくというストーリーだ。
ウ・ヨンウは自閉スペクトラム症から、社会性に難を抱え、相手の言ったことを繰り返す癖がある。共感することや感情表現も苦手。歩き方はぎこちなく、回転ドアが大の苦手だ。そして、クジラが大好きで、クジラの話をし始めると止まらない一面も。クジラは本作のキーポイントになっており、ウ・ヨンウが天才的なひらめきをするときは必ず、大きなクジラが画面上に現れる演出がなされている。
ドラマでは毎回、1話につき1つの事件がテーマになる。遺産相続問題、子どもの誘拐事件、脱北者の暴行事件、女性の労働問題……など、ウ・ヨンウはその天才的で自由な発想を駆使して、さまざまな事件を解決していく。その姿は見ていて爽快で、俳優パク・ウンビンのチャーミングな演技も大きな魅力の一つだ。
第1話のあらすじを簡単に紹介しよう。ウ・ヨンウは新人弁護士として法律事務所を初めて訪れるが、事務所が入るビルの回転ドアに挟まれそうになるなど、大苦戦する。先輩弁護士相手にはいきなりクジラの話を延々としてしまい、相手を怒らせる。
初めて任された事件は、妻が日常的に暴言を吐く認知症の夫をアイロンで殴り殺そうとしたという容疑の殺人未遂事件。執行猶予が取れそうな簡単な事件に思えるが、ウ・ヨンウは「殺人未遂事件で有罪になると遺産相続されない」という民法の規定をすぐさま思い出し、「殺人未遂容疑では無罪主張をして傷害罪を目指す」と宣言する。はたして、ウ・ヨンウは無事、傷害罪を獲得できるのだろうか。初めて法廷に立つウ・ヨンウの懸命の弁護に注目だ。
ウ・ヨンウ弁護士をサポートする男性職員のイ・ジュノ。作品が表す現代的な男性のあり方
本作は法廷でのドラマが中心なのだが、法廷劇ばかりかというとそうではない。ウ・ヨンウのほかにも愛らしくて等身大のキャラクターたちがドラマを彩る。
特に、法律事務所の訴務チームで働くイ・ジュノ(カン・テオ)との恋愛模様が見ものだ。第1話で回転ドアの前で立ちすくむウ・ヨンウに対し、イ・ジュノは「ワルツを踊るようにしたら?」と提案する。「ズンチャチャ、ズンチャチャ。ズンチャチャ、ズンチャチャ」。ワルツのリズムをとりながら、イ・ジュノがウ・ヨンウの手をとって回転ドアを通るシーンは感動的で美しい。第1話でぜひ見てほしいポイントだ。
弁護士であるウ・ヨンウを優しくサポートするイ・ジュノは、現代的な男性のあり方を表しているともいえる。男性が強引にリードするのではなく、主体はあくまで弁護士であるウ・ヨンウ。イ・ジュノは訴訟準備を補助する法律事務所の職員である。
彼はサポート役として、時にウ・ヨンウに振り回されながらも、その役割を楽しくこなしている。相手を気遣うことができるイ・ジュノが、ウ・ヨンウに妙に引き付けられるという設定もリアルだ。
また、親友のトン・グラミ(チュ・ヒョニョン)との掛け合いも楽しい。ウ・ヨンウと会うたび、「ウ to the ヨン to the ウ」「トン to the グ to the ラミ」とポーズを取りながら踊る振付は、TikTokでも真似をする人が続出。トン・グラミは高校の同級生で、いじめられていたウ・ヨンウを助けてくれた唯一の友達だった。ウ・ヨンウとトン・グラミとの「シスターフッド(女性同士の連帯)」は本作のポイントでもある。
優れた才能を開花させていくウ・ヨンウ――。『のだめカンタービレ』との類似性
本作は、自閉症があるというストーリーから、映画『レインマン』と比較されることがある。しかし、筆者はむしろ、日本でドラマ化や映画化もされた人気漫画『のだめカンタービレ』に類似していると考える。
『のだめカンタービレ』は天才的な音楽の才能を持つ主人公・野田めぐみが、指揮者を目指す音楽大の先輩・千秋と出会ったことで才能を開花させていくストーリーだった。
のだめもやはり社会性や感情表現にやや難を抱え、おっちょこちょいな一面もあるが、一度聞いた曲はすべて暗記できるという特性を持っていた。IQ164の頭脳を持ち、法律文を丸暗記しているウ・ヨンウとの共通点は多い。上野樹里のチャーミングな演技も記憶に新しいが、その点も似ている。日本では『のだめカンタービレ』と似ているといったほうが親しみを持ちやすいのではないだろうか。
「わずか80年前には私たちは生きる価値のない人だった」。作品が突きつける差別の歴史
韓国社会の状況や現実をうまくストーリーに落とし込んでいるのも、本作の見どころの一つだ。
例えば、第3話では、自閉症の弟・ジョンフンが兄・サンフンを殺してしまったという容疑(傷害致死罪)の事件が描かれる。ジョンフンは21歳で巨漢だが幼く見え、意思疎通が難しい。自閉スペクトラム症は人によって千差万別であるため、ウ・ヨンウはあらゆる手を使って意思疎通をはかる。実は、ジョンフンは兄を殺そうとしたのではなく、自殺を図った兄を救おうとしていたことが明らかになる。
ソウル大の医学部に進学した兄のサンフンだが、試験に追われる毎日に「生きる意味がわからない。死んだらいい」と自殺を図ったのだった。学歴社会であり、競争の激しい韓国では中高生の多くが「勉強と外見」に悩み、4分の1が「日常生活を中断するほどの憂鬱感や絶望感」を感じたと答え、数え歳で13〜18歳の死亡原因の1位は9年連続で「自殺」となっている(2021年の統計庁の調査)。
そんな韓国の現実をよく表しているエピソードだ。
また、第3話では、自閉症のある人が直面する困難も描いている。自閉症を研究したドイツの医師、ハンス・アスペルガーは「正常でないからといって劣っているわけではない。自閉症患者は独創的な思考と経験で驚くべき成果を上げうる」という言葉を残している。
しかし、アスペルガーはナチスの協力者であり、「生きる価値のない人」を選別していた。「生きる価値のない人」とは、障害者、不治の病の患者、精神疾患者であった。ウ・ヨンウは「わずか80年前には私たちは生きる価値のない人だった。それが私たちの背負う障害の重さです」と劇中で語る。
ウ・ヨンウと歩くイ・ジュノが知人に「ボランティア活動ですか」と勘違いされるシーンもあり、自閉症がある人に対しての偏見を鋭く突いている。4話には、「自閉症のヨンウは役立たずです。味方をすると負けます。いないほうがいいんです」とウ・ヨンウが語るシーンもあり、その後イ・ジュノが放つセリフは胸を打つので、ぜひご覧になって確認してほしい。
もしすでに『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を見た人であれば、次にオススメしたい韓国の映画は『無垢なる証人』だ。
同じ脚本家のムン・ジウォン作品で、やはり自閉症のある女子高校生ジウと弁護士との心の交流を描いている。ジウの将来の夢は弁護士だ。そう、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、「もし『無垢なる証人』のジウが大きくなって弁護士になったら」という想像から生まれた作品なのである。本作と見比べれば、自閉症への理解が深まるだろう。
本稿で紹介したエピソードのほかにも印象深いエピソードが多く、楽しいキャラクターたちがいきいきと躍動している。とにかく楽しいドラマなので、「Netflixに加入しているけど、どのドラマを見たらいいかわからない」という人はぜひ1話目を見てほしい。これから見るあなたも、気づけば「ウ to the ヨン to the ウ」と踊っているかもしれない。
- 作品情報『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』
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Netflixシリーズ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』独占配信中
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