デジタル化で、未来のIDはどう進化する? 高校生とスマート学生証について考えてみた

私たちが「自分」を証明する「ID」は、デジタライゼーションの加速に伴い、さまざまなデジタル情報と紐付けられるようになった。

そのデジタル情報とは住所、電話番号といったプレーンなものだけでなく、購買情報や位置情報、ヘルスデータなど多岐にわたる。IDに紐付けられたこれらのデジタル情報を活用することで、私たちはその属性に応じた最適なサービスを受けることができるようになった。利便性に秀でた現在のIDは、これからどのような進化を遂げるのだろうか。

「会社の課題」と「社会の課題」を同時解決するソリューションを提供するソーシャルビジネススタジオSIGNINGは、そんなIDの未来について考えるべく、3月12日に多くの若者が行き交う渋谷で、高校生たちが参加する『未来のスマート学生証ワークショップ』を開催。高校生にとって身近なIDである「学生証」の拡張の可能性を探った。

学生証ってなんだっけ? 高校生と一緒に考えるデジタルID

今回のワークショップのテーマとなる「ID」とは、同一であることの証明、身分証明を意味する「identification」という英単語から生まれた用語で、自分の情報をほかの人に伝えることで、さまざまなサービスを使えるようにするものだ。私たちの身近なIDはマイナンバーカードや健康保険証、運転免許証、ワクチン接種証明書などが挙げられる。

現在、日本のIDにはいくつかの問題点がある。例えば、顔写真や住所が書かれていることで個人情報流出の危険が潜んでいたり、更新のため手続きが面倒だったりする。それでは「安心・安全」で「便利」な未来のIDとは、どうあるべきなのだろうか。

今回のワークショップに参加したのは、東京と神奈川の高校生10名。まずはSIGNINGの牧貴洋が登壇し、現在のIDの活用事例を高校生にインプットするところからスタートした。

高校生にとって一番身近なIDは、高校に在籍していることを証明する学生証だ。牧が高校生に「学生証の使い道」を問いかけると、「カラオケで学割が使える」「定期券を学割で買える」「英検の申し込みをするときに使った」などの回答があった。

日本では学生証のほかにショップカードやポイントカードなど、多くのIDで財布がぱんぱんに膨れてしまうこともしばしば。それでは世界のID事情はどのようになっているのだろう。

まずは北欧の事例から。スウェーデンでは出生時に国から個人識別番号が付与される。この番号は銀行口座や電話番号と紐づけられており、官民問わずさまざまなサービスでIDとして利用されている。たとえばスーパーで買い物するときにこの番号を端末に入力すると、アプリでポイントを受け取れたり、給付金を申し込むときなどにも、この番号を使って本人認証を行なったりできる。

IDが統一されデジタル化が進んでいるため、日本のようなID / パスワード管理の煩雑さも防げるし、お財布にショップカードやポイントカードをたくさん入れて持ち歩く必要もない。

またノルウェーでは病院での既往歴がデータ化されているうえに、処方箋が電子化されているためオンラインで薬を購入できる。日本でも全国の医療機関で電子カルテ情報の共有を可能にするシステムの構築が検討されているが、現在はまだ共有されていないため、毎回問診票を書いて既往歴などを自己申告しなければならないのが現状だ。

さらに韓国では選挙のデジタル化も進んでいる。日本では投票用紙を一枚一枚、点検して開票作業をするが、韓国の場合はタブレットで選挙投票をするため、非常に集計が便利だ。

こうしたデジタルIDの世界の事例のように、日本の高校生の学生証を、スマートフォンと組み合わせた「スマート学生証」に進化させたらもっと便利になるかもしれない。

もしも学生証がスマホに入ったら。未来の「スマート学生証」を考える

こうした事例を踏まえたところで、いよいよワークショップがスタート。スマホアプリになった未来の学生証「スマート学生証」のサービスについて考える。「スマート学生証」のメリットは、高校生であると証明できるだけでなく、プライバシー情報を隠すことができ、高セキュリティーで安心なこと、さらにアプリにすることでできるサービスが増えるという点だ。彼らは高校生起業家になったつもりで「スマート学生証ができたら嬉しいこと」を考えていく。

各チームの個人ワークやグループワークから出たアイデアの大きな傾向としてみられたのは、①学校や家族の予定を確認するためのスケジュール系、②学割サービス系、③勉強サポート系だ。

まずはAチーム。「友達のスケジュールが知りたい」「登下校の交通機関の混雑を知りたい」「高校生だけ無料で使える音楽サービスがほしい」「模試の成績で購買割引」というアイデアから、「『やらかした数』をペナルティーとして購買の商品が値上げ」という斬新なアイデアも。

彼らのイチオシは「先生の位置情報がわかるサービス」だった。提出物を渡すために、学校内のどこかにいる先生を探すのは大変で、GPS機能で先生の位置を知りたいという意見が他チームからもあった。一方で、先生の位置情報は知りたいけれど、自分の位置を知られることはNGという意見もあり、自分の位置を知られないための「ゴーストモード」を搭載したいというアイデアも。

続いてBチーム。「自販機や売店での購買履歴から人気商品がわかる。在庫管理がラクになるサービス」「先生のお知らせや課題を配信」「自分が進みたい進路の卒業生OBと情報交換」「進路に役立つ課外活動の記録」「校内放送ではなく、呼び出しを個別に」「自習室の入退室時間が親に通知がいく」という意見があった。

彼らのイチオシは「スマート学生証をかざすと教室のドアが開く」というもの。近年の学校はセキュリティー面が厳しく、ドアを開けるために先生を呼びにいくことも多いのだという。また、Bチームからは、それぞれのサービスにおいて「家族や先生への情報公開の段階を決めるべき」というプライバシーに配慮したアイデアがあったのも特徴的だった。

最後はCチーム。このチームは他チーム同様に「部活オフの日を知る」といったスケジュール系、「お店の利用頻度が多いと割引」という学割系のほかに、「レストランでアレルギーのあるものを抜いてもらえる」「重い病気の人は割引」といったヘルスケア面のアイデアが見られたのが目立った。ほかにも「将来の夢が似ている人を探せる」「共通の話題(推し)の友達を探せる」という校内限定SNSやマッチング系のアイデアも挙げられた。

このチームのイチオシは「授業内容を知ることができる」というもの。欠席したときにノートを借りずに済むし、わからないところは先生に質問できる。すでに「Google Classroom」を使って授業がデジタル管理されているという彼らは、それらの機能を拡張するようなサービスを求めているようだ。一方で堅実に「開発にはお金をかけない」という意見も飛び交うなど、地に足のついた開発から実装までを考えているのもユニークだった。

高校生ならではのアイデアが続々。スマート学生証のある1日を想像

次のワークは、これまで上がったアイデアを「スマート学生証」を使って、「未来の高校生の1日の生活を考えてみる」というもの。

3チームが考えた「スマート学生証」を使った1日は下記の通り。

「やらかした数」がペナルティーになるという斬新なアイデアを出したAチームは、朝に1日の予定を入力。電車が遅れていないかを確認し、高校生だけが使える音楽サービスで音楽を聴きながら登校。昼はいろいろやらかしてしまったけど、委員会に入っている割引がきいて、購買の金額はプラスマイナスゼロ。提出物が渡すため先生を探し、下校中に友達とのスケジュールを入れる。夜は課題を確認。

Bチームは、朝に出席日数を確認。教室に入るときはIDをかざす。昼は学割のきく購買、自販機に行く。先生からの呼び出しのあと、先輩の進路を聞く。大学入試で高校での慈善活動の記録が必要なので、課外活動記録をチェック。自習室を出たことが親に通知され、帰宅後、課題スケジュールを確認し、優先順位を決めて宿題をする。

Cチームの休みの日は、朝に病院に行き、検診を受けて、コンビニで学割を受ける。昼はファミレスでアレルギーのあるものを抜いてもらい、急な部活で学校に行き、先生との面談の資料を確認。夜は常連で学割のきく店で夕食を食べる。

このように「スマート学生証がある1日」を考えてみると、学校と家族、友人とスムーズな意思の疎通ができ、学校や学校の外でも多くのサービスを受けられることがわかる。「スマート学生証」があることで、高校生が効率よく、充実した1日を送れるようだ。

ワークショップを終えた彼らに、課題の提出やスケジュールを管理されることについて、「先生に管理されている気にはならないか」という質問を投げかけると、「あまり気にならない。それよりお得な方がいい」「課題は自分でやるよりも良くなると思うから、先生に管理してほしい」という意見が出た。

とはいえ「先生にすべての行動記録を共有される」ことに関しては、「先生や家族に見られたくないものは、見られなくなるような設定をする」というプライバシーに関する意見もあり、情報管理に対する意識の高さも伺えた。

また、高校生からの感想には「スウェーデンのように、IDをひとつにまとめたほうがいい」という意見と、「便利だけどセキュリティーが心配」という意見に分かれた。打開策として「顔認証、指紋認証ができるためスマホ自体のセキュリティーが高くなっているから、むしろ安心だと思う」という意見もあった。

さらに、「安全面を強化するのは当然だが、そもそも学校ごとに方針が違うと難しい」という意見も。学校の外でも使うことを考えると、学校間でのルールを決めていかなければならない。彼らは「ルール的にできないことはたくさんあるかもしれないけれど、まずは学校には自分たちの意見をきいてほしい」と言う。

学校生活での先生とのやりとり、友だちとの連絡手段や、勉強のために使うなど、このワークショップで出たアイデアは大人にはなかなか出てこないものばかり。そしてプライバシーの問題、ルールづくりというのは、学生の枠を超えて、社会全般でも考えていかなければならない視点だ。

高校生たちも日常の何気ないことからアイデアを膨らます今回のワークショップは刺激を受けたはずだ。彼らの意見を取り入れた、便利で安心、安全な未来のスマート学生証ができれば、より豊かな学生生活が送れるはずだ。



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