ジャニーズ事務所を創業し、2019年に亡くなったジャニー喜多川氏の性加害疑惑に注目が集まっている。4月12日には元ジャニーズJr.の岡本カウアン氏が都内で記者会見を開き、喜多川氏の自宅マンションで複数回にわたって性的被害を受けたと主張した。これまで「直視」されてこなかった疑惑について、日本のテレビ局など大手メディアやジャニーズ事務所がどう対応するのか、その姿勢が問われている。
岡本カウアン氏が会見。喜多川氏から被害を受けたと訴え
外国特派員協会で記者会見を開いたのは、2012年から2016年にかけてジャニーズJr.(以下、ジュニア)として活動していた岡本カウアン氏だ。
岡本氏は会見に先立ち、喜多川氏の性加害疑惑を1990年代から報じてきた『週刊文春』の取材を受けている。同誌から「日本のメディアは残念ながらこの問題を極めて報じにくい状況にある。BBCが報じたように、外国のメディアなら取り上げてくれるのでは」と伝えられ、日本における外国人記者クラブである外国特派員協会で会見することを決めたという。
岡本氏は、ジャニーズ事務所に入社した2012年から2016年にかけて、「合計で15〜20回ほど、喜多川氏から性的被害を受けた」と主張。当時、多くのジュニアたちが渋谷区にある喜多川氏の自宅マンションに宿泊しており、ほかのジュニアが被害を受けているのを目撃したとも証言した。
岡本氏は会見の場で、「ジャニーさんのおかげで人生が変わったし、ぼくのエンターテインメントの世界はジャニーさんが育ててくれたものだと思っている」と述べ、喜多川氏への感謝の気持ちをいまも持っていると語った。法的措置をとることも考えていないという。
一方で、「(当時15歳だった岡本氏に対して)性的行為を行なったことは悪いことだと思っています」と話し、「事務所のいまのトップの人たちや事務所自体に認めてほしい。ジャニーズだけじゃなくて芸能界はたくさんそういうことがあるのをわかっているので、なくなるような方向にいってくれたらと思います」と訴えた。
『週刊文春』やBBCが報じた問題。「セクハラ行為」を事実認定した裁判とは
ジャニー喜多川氏の性加害疑惑をめぐっては、イギリスの公共放送BBCが元ジュニアらを取材したドキュメンタリー番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop」が3月7日に放送されたことで、注目が集まるようになった。(同番組はAmazon Prime Videoでも4月18日まで見逃し配信中。)
しかし、日本国内でこの疑惑は数十年前からたびたび取り上げられてきた。2000年代には、ジャニーズ事務所が『週刊文春』を訴えた民事裁判で、喜多川氏の「セクハラ行為」を報じた記事の真実性を認める判決が確定している。
『週刊文春』は1999年10月から14週にわたってキャンペーン報道を展開し、元ジュニアらの取材をもとに、喜多川氏の性加害疑惑などを報じた。ジャニーズ事務所は記事が同社や喜多川氏の名誉毀損にあたるとして、損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて発行元の文藝春秋を提訴。
2002年3月、東京地裁は喜多川氏の「セクハラ行為」の記述について真実と認めず、文藝春秋に対し、ジャニーズ事務所・喜多川氏それぞれに440万円ずつ支払うよう命じた。双方が東京高裁に控訴し、2003年7月に言い渡された控訴審判決で、状況は一転する。東京高裁は「少年達が逆らえばステージの立ち位置が悪くなったりデビューできなくなるという抗拒不能な状態にあるのに乗じ、セクハラ行為をしているとの本件記事については、その重要な部分について真実であることの証明があったものというべきである」と認定。一審・東京地裁判決を変更し、文春側に対し、賠償額を減額しジャニーズ側・喜多川氏にそれぞれ60万円を支払うよう命じた。ジャニーズ側は「合宿所などで少年らに日常的に飲酒、喫煙をさせている」などの記述についても名誉毀損を訴えており、こうした記述の真実性は認められないとした。
判決文によると、喜多川氏は裁判で「彼たち(※発言ママ)はうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです。はっきり言って」などと証言した。
ジャニーズ事務所は上告したが、2004年2月、最高裁第三小法廷は上告を棄却。二審の判決が確定した。
BBCの取材に『週刊文春』側も協力し、番組には当時取材を担当した元文春記者も出演した。放送後も、同誌は被害を訴える元ジュニアたちの新たな証言を報じつづけている。
「記者会見や第三者委員会の調査を」。識者の見解は
過去に性加害行為を認める司法判断がなされたにもかかわらず、ジャニーズタレントが数多く番組出演するテレビ局をはじめ、大手メディアでこの問題は報じられてこなかった。
元ジュニアが公の場で顔を出して被害を訴えたことで風向きが変わる可能性はあるが、ポピュラー文化やメディアに詳しいジャーナリストの松谷創一郎氏は、今後の報道について「テレビと新聞をまず分けて、さらにテレビはNHKと民放を分けて考えています」と話す。
「新聞は、共同通信の配信で済ませているところも多いですが、岡本さんの会見を受けてすでにほぼ全紙が報道しました。テレビに関しては、NHKは岡本さんの会見で記者が質問していたこと(*1)が目立っていました」
会見翌日の13日、NHKはこの件を16時のニュースとウェブサイトで報じた。松谷氏は以下のように推察する。
「このケースは報道局と制作局でやはり駆け引きがあったのでしょう。いまNHKではジャニーズ所属タレントが出演する大河ドラマ『どうする家康』を放送していますが、報道としては当然やらないといけない。このへんで駆け引きが行なわれた結果、会見日の12日は報じないという判断になったのでしょう。翌13日の夕方に報じましたが、夜の『ニュース7』や『ニュースウォッチ9』では報じていません。それがNHK局内の政治的な駆け引きのうえでの落としどころだったわけです」
一方、民放テレビ局は14日正午時点でこの件を報じていない。松谷氏は先月30日の『朝日新聞GLOBE+』の寄稿で「民放が官邸や政府よりもずっと怖れているのは間違いなくジャニーズ事務所」と指摘したが、今後、民放テレビ局がこの問題を報じるかどうかにも注目が集まっている。
また松谷氏は、ジャニーズ事務所の対応について、代表取締役社長の藤島ジュリー景子氏ら経営陣が記者会見を開いたり、第三者委員会を開くべきとも指摘する。
「『文春』を先頭にネットメディアや新聞の追及によってこの問題は収まりませんし、海外メディアも報じ始めました。この問題を避けたままだと状況は悪化するだけに思います。社長や副社長の記者会見、第三者委員会による過去のジュニア全員に対する調査、そのうえで補償等の対処が必要だと思います」
CINRAではジャニーズ事務所に対し、岡本カウアン氏が会見で訴えた性被害の事実関係や、『週刊文春』とBBC報道についての同社の見解、今後の対応について問い合わせているが、4月14日時点で回答はない。
共同通信の取材(*2)に対し、「本年1月に発表させていただいておりますが、経営陣、従業員による聖域なきコンプライアンス順守の徹底、偏りのない中立的な専門家の協力を得てのガバナンス体制の強化等への取り組みを、引き続き全社一丸となって進めてまいる所存です」とコメントしている。
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