インボイス制度、「廃業の危機」を訴え声優らが反対署名を提出

10月1日から始まる「インボイス制度」について、フリーランスや中小規模の事業者に大きな負担がかかるとして、懸念の声が広がっている。

9月4日、フリーランスや事業者などが結成した団体は衆議院第1議員会館で記者会見を開き、インボイス制度の中止・延期を求める36万人以上の署名を財務省などに提出した。

専門家は同制度について「消費増税である」と指摘し、「いまの経済状況をふまえるとインボイス制度は導入するべきではない」と訴えた。

インボイス制度とは?

インボイス制度は消費税の計算に関する新しい制度で、正式名称は「適格請求書等保存方式」という。きっかけとなったのは、食品や新聞などの生活必需品を対象に8%の軽減税率が導入された2019年10月の消費税引き上げだ。

消費税は、「売り上げ時の際に相手方から受け取った消費税」から「原材料の仕入れなどで事業者が支払った消費税」を引き(仕入税額控除)、その差額を事業者が納税するという仕組みだ。

しかし、2023年10月1日から、税率ごとに区分した消費税額などを記載する「インボイス(=適格請求書)」がないと、事業者は仕入税額控除を受けられなくなる。

そして、インボイスを発行するには、国税庁にインボイス制度への登録申請をする必要があり、そのためには消費税を納税する「課税事業者」にならなければならない。

税負担が増え、フリーランスなどの免税事業者に大きな影響

この制度の導入によって大きな影響を受けるといわれるのが、フリーランスや小規模事業者が多い売上1,000万円以下の免税事業者だ。

制度が始まると、免税事業者は取引先の企業に対してインボイスを発行することができないため、企業は仕入税額控除が受けられず、納税額が増えてしまう。そのため、企業側が免税事業者との取引を敬遠したり、消費税分の値下げをしたりするなどの影響が懸念されている。

しかし、インボイスを発行するために免税事業者が課税事業者になると、これまで免除されていた消費税を納める必要があり、その分、利益が減ってしまう。

個人事業主として働くクリエイティブ業界の従事者をはじめ、飲食店や商店、個人タクシー、農業従事者、建築業者、配送業者など、中小規模の事業者への影響が指摘されている。

「どちらを選んでも地獄の選択」 有志らが訴える

9月4日には、制度の導入の中止・延期を求める超党派議連の会合が衆院第1議員会館であった。インボイス制度に反対する「インボイス制度を考えるフリーランスの会(STOP!インボイス)」は緊急記者会見を開き、オンラインなどで集まった約36万人分の反対署名を財務省の担当者らに手渡した。

会見には、農業従事者、建築業者、司法書士など、業界の垣根を超えた有志が参加。

アニメ『SPY×FAMILY』シルヴィア役などを務める声優の甲斐田裕子は緊急提言を読み上げ、「免税事業者にとっては(課税事業者に転換するか、免税事業者のままでいるか)どちらを選んでも地獄の選択となるゆえ、『インボイスを機に廃業を考える』と答えた事業者は、アニメ・漫画といったエンタメ業界で2〜3割、建設業界では1割にのぼった」と説明。

「生み出す商品・サービスのクオリティやスキルの前に『インボイスの有無』が取引の線引になるインボイス制度は、自由な商取引を歪め、新規参入を阻む。若手の成長や起業を妨げれば産業は衰退し、文化の多様性をも損なう」と訴えた。

京都大学大学院工学研究科教授の藤井聡は、「増税分は免税事業者、課税事業者、消費者の誰かが負わされることになる。一つだけ決まっていることは、『誰でもいいから払え』ということです。したがってこれは純然たる増税なんです」と指摘し、「苦しい経済状況にある今、インボイス制度は導入するべきではない」と危機感をあらわにした。



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