よりよい未来へ私たちを「いざなうデザイン」とは?『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』レポ

「デザインを五感で楽しむ」ことをコンセプトにしたイベント『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』が10月29日まで東京ミッドタウンで開催されている。

16回目の開催となる今年のテーマは、「いざなうデザイン-Draw the Future-」。期間中は、建築や土木の建設プロセスで発生する廃棄物の「残土」を再利用し、人々の憩いの拠点として活用するインスタレーション作品をはじめ、トークセッションやワークショップなど、サステナブルな未来をつくるための工夫やアイデアに満ちたさまざまなコンテンツを体感できる。

本記事では、建築家・浜田晶則、建築家ユニット・KASA/KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS、デザインファーム・IDEOによるインスタレーションを中心に、作品の制作背景や本イベントの魅力をクリエイターの言葉とともにレポートする。

すべてを「デザイン」として捉えて提案する

『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH』は、「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトに、インテリアやグラフィック、プロダクトに加えて、音楽やフードなどの文化を形成するものすべてを「デザイン」として捉え、それらを通して日常生活を豊かにすることを提案するイベントだ。

2017年からは『国内外の第一線で活躍するデザイナーや国内外で注目されるデザインが集結し、デザインの魅力や可能性を身近に体感できるデザインの祭典』をコンセプトとし、さらなる進化を続けている。

16回目の開催となる今年のテーマは「いざなうデザイン-Draw the Future-」。デザインが持つ「自然と誘導する」力や、「意図を意識させずに伝える(使う)」といった力によって、持続可能な社会・環境を考えながら、人々が心地よく過ごせる未来のアイデアを提案するという。

次世代の建築工法で建築をサステナブルに。『土の群島』

総面積1880平方メートルを誇る広大な芝生広場に登場する『土の群島』は、建築家・浜田晶則によるインスタレーションだ。

この作品では、自然循環できる「土」を素材にして、大型の3Dプリンターなどでオブジェを造形。身を預けたり、土の感触に触れることで、長い年月を経た土の時間と大地の下の世界に思いを巡らせることができる。

『土の群島』では、日本古来の工法である「土壁」をアップデート。日本のいたるところに存在する素材「土」を用いることで、産業廃棄物として処理されてしまっていた残土を再利用し、コストダウンなどサステナブルでサーキュラーな未来の建築を提示している。

浜田は「芝生広場から土が隆起してできた、大陸のような場所にしたい」と作品の狙いを語る。実際に広場に立って眺めると、今回のイベントのためにつくられたオブジェでありながら、最初からその場所に存在したかのような自然さだ。

浜田:これまでの展示会では、パパッと作ってパパッと壊すという形式が多く、展示会が終わっても次に使える、転用できる作品に関心を持ちました。木材加工をした際に大量のゴミが出て驚いた経験などもあり、本当に必要な材料しか使わない3Dプリンターを使用しています。

オブジェに触れると想像以上に冷たく、ざらざらとした感触。3Dプリンターなどでつくられた人工物でありつつも、「土」という素材の存在感と、子どもの頃を思い出すような懐かしさが感じられた。

浜田:デザインには、使いたくなったり、何かをやりたくなったりするような人の欲求を引き出す力があると考えています。

今回の作品でイメージをしたのは、ブリューゲルの『子供の遊戯』という油彩画です。みんながそれぞれ好きに遊び回っているような自然な地形を目指してこの作品をつくりました。ここに来た皆さんがいろいろな過ごし方をして、土に触れることで、「土の可能性」を感じ取っていただけたらと思っています。

【東京ミッドタウンデザインタッチ2023】建築家・浜田晶則氏インタビュー

風を体感することで、ゆっくりとした時を感じられる『風の庭』

『土の群島』のすぐそばにあるミッドタウン・ガーデンに登場する『風の庭』は、建築家ユニット・KASA/KOVALEVA AND SATO ARCHITECTSによるインスタレーション。

風が吹くたび、ガーデンに並べられた無数のプロダクトによる景色が一斉になびく、美しい作品だ。見る角度や時間帯、天気によって作品の見え方が変わるのも同作の特徴。普段忘れがちな風の動きを感じ、忙しい生活の中で心にゆとりをもつ大切さを教えてくれるようだ。

作家のアレクサンドラ・コヴァレヴァと佐藤敬は、「イベントの『いざなう』というテーマに対して、メンタルや精神に関わるプロジェクトにしたいと思いました」と制作背景を語る。

コヴァレヴァ&佐藤:持続可能な社会をつくるためには、まず、メンタルが大切だと思っています。現代ではみんなせわしない日々を送っていて、暑い日に風がなかなか吹かないとか、ちょっとしたことでイライラしたり、ネガティブな気持ちを持ってしまうことがあると思います。

コヴァレヴァ&佐藤:『風の庭』は、「ゆっくりすること」が気持ち良いとか、「ゆっくりすること」が楽しい、風が吹くのをずっと待っていたい、日が暮れたらもっと綺麗に見えそうだから待っていたい……というような、ワクワクする気持ちが掻き立てられるような作品を目指しました。その気持ちがあると、ネガティブだった解釈をポジティブに変えられると思います。

また、会期の最終日には、「採集会」を開催するという。来場者それぞれがプロダクトを摘み、自宅に持ち帰ることができるというのだ。

コヴァレヴァ&佐藤:この作品はオブジェではなく、プロダクトとして、展示が終わったあとにみんなが持ち帰ることができます。来場者の方々がそれぞれ家に飾り、「風を感じよう、風が気持ち良いからエアコンを使わずに窓を開けよう」と思っていただける作品にしたいと思っています。

日本にいると気づきにくい「水資源問題」を見つめ直す『Reflections on Water』

水が豊かな日本で暮らしていると気づきにくい「世界的な水不足」を見つめ直すきっかけをくれる作品が、デザインファームのIDEOによるインスタレーション『Reflections on Water』だ。

同作が設置されるミッドタウン・ガーデンの小川から、本来流れているはずの水が消滅。代わりにスピーカーから水の音や、水について語る人の声が流れている。さらに川底には、日々の生活で使う水にまつわる問いが書かれた水たまり形のオブジェが出現する。

IDEOメンバーの北村拓海は作品の狙いについて、「Reflectionという言葉には振り返る・自省するという意味がある。作品を通じて水との関係性について考え、対話をいざなうようなものになってほしい」と話す。

北村:「サステナビリティ」といっても捉え方はさまざまで、デザインをやっている僕らがどのように関与できるのかをチームで話し合いました。

デザインは解決策を提示することも多いですが、今作ではあえて何も提示せず、皆さんと水や他者の対話を促すことを目的としています。サステナビリティは1人で取り組める問題ではなく、なるべく多くの人が思いを馳せて、考えて、できることをやっていくことが重要だと考えています。

北村が話すように、視覚・聴覚に訴えかけるこの作品を体験していると、これまで深く考えてこなかった「水資源問題」が、自分にも影響をもたらす可能性のある問題だということを実感する。

北村:デザインには「みんなで一緒に作りながら考える」ことができる力があると思っています。デザイナーの役割も、「ものをつくる」ということだけではなく、職種を問わずさまざまな人たちが集まって一つの問題について考え、ともに取り組むことに変わってきています。

この作品でも、「水資源問題」という大きな課題に直面するなかで、来場者の方に当事者意識を持ってもらえるよういざなうことが大事だと思っています。デザインは、そのきっかけづくりができる力を持っていると思います。

アワードの受賞作品展示や企業出展など多様なコンテンツも

『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』では、インスタレーションのほかに、アワードの受賞作品展示やポメラートの世界観に触れる企業出展など多様なコンテンツを楽しめる。

10月5日から11月12日までは、才能ある新たなデザイナーやアーティストとの出会いや支援を目指した『TOKYO MIDTOWN AWARD 2023』の受賞作品が展示される。

本アワードはデザインコンペ、アートコンペの2部門に分かれており、デザイン部門では篠原ともえ、菅野薫、中村拓志、三澤遥、山田遊が、アート部門では金澤韻、クワクボリョウタ、永山祐子、林寿美、ヤノベケンジが審査員を担当した。

「つながり」がテーマのデザインコンペでグランプリを受賞したのは、黒澤杏の『動く募金箱』。人と人をつなぐ「バトン」と「募金」をかけ合わせた「動く募金箱」というコンセプトになっている。

アートコンペでは、タカギリヲンの『TOKYO ELEVATION Type 0』がグランプリを受賞。地盤を映像によって再現し、いま立っている地面に思いを馳せられるような作品だ。

各部門のグランプリのほか、準グランプリや優秀賞を受賞した作品も展示されている。

また、10月6日から22日には、ポメラートによる体験型イベント『ヌード クラフテッド エモーションズ』を開催。アート、AI、フォトグラフィーという3つの分野を融合させた特別な映像が楽しめる。

イベントブースは、多くのジュエリーが並んだラグジュアリーな空間。VRでミラノの工房の様子を感じることができるほか、自身の性格に合う石を知ることができる「ジェムストーン診断」など、ジュエリーに愛着を持てるような体験ができる。

さらに、東京ミッドタウンは、多彩なジャンルをリードする才能が世界中から集結し都内各所で展示を行なう『DESIGNART TOKYO 2023』の会場にもなっている。過去に『TOKYO MIDTOWN AWARD』を受賞した21B STUDIO、守本悠一郎に加えて、田渡大貴が作品を展示する。

そのほか、参加クリエイターやデザイン関係者、若手建築家らによる『DESIGN TOUCH Talk Salon』や、子どもの知的好奇心とクリエイティビティを刺激する『DESIGN TOUCH Creative Workshop』を開催。詳しくは公式サイトをチェックしよう。

「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023」開催概要
【期間】10月6日(金)~10月29日(日)
    ※一部コンテンツは10月22日(日)まで
【場所】東京ミッドタウン各所
【主催】東京ミッドタウン


記事一覧をみる
フィードバック 3

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Art,Design
  • よりよい未来へ私たちを「いざなうデザイン」とは?『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』レポ

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて