Japanese Film Projectが12月12日、業界の制作現場におけるジェンダー比率についてまとめた調査結果を発表した。
調査を実施した「一般社団法人Japanese Film Project(以下、JFP)」は映画界のジェンダーギャップや労働環境の改善に取り組む団体。映像作家の歌川達人氏、ジャーナリストの伊藤恵里奈氏、映画監督の西原孝至氏が2021年7月に設立し、映画業界におけるジェンダーギャップや労働環境、若手人材不足などの問題解決を目的とした実態調査や提言を行なっている。
今回の報告では、同法人がこれまでに調査していた実写邦画に加えて、アニメ映画の制作現場と日本演劇領域のジェンダー調査についての結果も発表。映画の調査では各作品のエンドロールを元に「意思決定役職」「アシスタント職」のジェンダー比率を調べ、演劇の調査では、『演劇年鑑2023』をもとに、2022年に劇場で公開された演劇作品における男女比をまとめている。
実写映画におけるスタッフの女性比率は、前年に比べて減少傾向に
実写映画では、興行収入10億円以上の邦画作品と2022年に公開された作品の調査をそれぞれ発表。
興行収入10億円以上の邦画作品の部門では、意思決定役職である「監督」の女性比率が0%という結果に。アシスタントスタッフの女性比率はそれぞれ助監督が5%、監督助手が25パーセントとジェンダーギャップが存在する結果になった。
2022年に公開されたすべての映画を対象とした場合でも、「プロデューサー職」の女性比率は12%と低い結果に。「照明」の女性比率は2021年から1%増加したものの、「監督」「撮影」「編集」「脚本」「美術」の分野ではいずれも減少傾向にあることがわかった。
アニメ映画では、実写映画に比べてジェンダーギャップが少ない結果に
今回の調査から追加されたアニメ映画の部門では、興行収入が10億円以上の作品に絞って算出。
実写映画と比べると「意思決定役職」「アシスタント」どちらも女性比率が高く、一見するとジェンダーギャップが少ないという結果になった。一方で、実写映画のスタッフに比べてアニメ関連職種はフリーランスの場合が多く、作品を掛け持ちするために複数作品にクレジットされることで、表面上は女性の数が多く見えるという側面もあるという。
実写映画、アニメ映画の調査結果について、ジェンダーや女性活躍に詳しい白河桃子氏(相模女子大学)は、「アシスタント職には女性が多いにも関わらず、意思決定層に女性が少ないのは問題。女性の職階が順調に上がっていかず、一つの業界のなかで垂直分離が起きている。給料の高いところに女性が少なく、同じ業界にいても女性は給与の低い仕事のまま固定している。補助的、事務的な仕事に回され、昇進ルートから外されてしまっている」とコメントした。
演劇領域では、男性によるトップダウン構造が浮き彫りに
演劇領域におけるジェンダーギャップ調査では、『演劇年鑑 2023』をもとに、2022年に劇場で公開された演劇作品の男女比を算出。予算規模に関わらず、演劇年鑑において「古典・大劇場演劇・ミュージカル」を除いた公演を調査対象としている。
それぞれの職種におけるジェンダー比率は製作、企画、プロデュースを合わせた「制作」が33%、「演出」が23%、「照明」が16%、「制作」が63%という結果に。
「制作」では女性が6割以上となった一方、「製作・企画・プロデュース」は女性が5割未満という結果に対し、舞台芸術制作者でつくるNPO法人「舞台芸術制作者オープンネットワーク」の塚口麻里子氏は、「創作・組織運営が男性によるトップダウンという家父長制的権力構造の傾向が伺える」とコメントしている。
多様な働き方のない多様性は「絵に描いた餅」
白河氏は、今後ジェンダーギャップを解決する上で「ジェンダー格差解消の基本は、環境整備です」と指摘。
「環境が改善されなければ、ジェンダー格差は解消されない。多様な働き方のない多様性は、絵に描いた餅ではないでしょうか。意識改革だけしようとしてもダメで、働く場所や労働時間などの労働環境を整備することが必要です」と、社会全体で構造を変化させていく必要性を語った。
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