市民団体「We Need Accessible Theatre!」が帝国劇場の建て替えに向けたオンライン署名プロジェクト「劇場をアクセシブルに 鑑賞に障害がある人もない人も一緒に楽しめる劇場を作ってください!!」で集めた2万1,000筆を、帝国劇場を運営する東宝株式会社に提出。5月10日に記者会見を行なった。
We Need Accessible Theatre!は同劇場の改築にともない観賞に障害のある当事者を含む舞台ファン、関係者、支援者などが集まって立ち上げた団体だ。
We Need Accessible Theatre!の活動趣旨について手話で説明する動画
帝国劇場は2025年をもって休館し、建て替え工事が行なわれる予定で、署名は今後、東宝とともに同劇場を運営する三菱地所や出光美術館、省庁などの政府関係者にも提出するという。
会見にはWe Need Accessible Theatre!の山崎有紀子、廣川麻子、美月めぐみが登壇。劇場のアクセシビリティに関する問題点や、誰もが舞台を楽しめるために必要なことを語った。
障害当事者の要望を直接伝える機会はなかった
半年前からスタートした署名。廣川が提出の経緯と、提出後の所感を語った。
「署名活動を始める前、劇場に足を運ぶ障害当事者の要望を聞いてくれる機会をつくる予定はないか、東宝さんにお伺いしていました。ところが、その予定はないというちょっと残念なお答えだったので、今日あらためて資料をお渡しして、どうしてそういうことが必要なのか、私たちの気持ちを改めてお伝えして参りました」
「その結果、お答えとしてはいまのところは、まだ当事者に直接お聞きするような機会をつくる予定はないということでした」
「ただし、三菱地所、出光美術館と三者で共同プロジェクトを立ち上げているということは、東宝だけで決めることができないのだろうなということも感じましたし、いろいろなことをこれから協議していくタイミングなのだということがわかりました。2万1,000筆の署名を受け取ったということは、ほかの会社とも必ず情報共有しますとお答えをいただきましたので、そこに期待したいと思っております」
劇場の自助努力には限界も
耳が聞こえないため、字幕と共に舞台を鑑賞するという山崎。しかし、帝国劇場など大きな劇場では字幕がないことがほとんどだという。
「劇場や舞台の関係者の方に『なぜ字幕がつけられないんでしょうか』と聞いてみると、『本当は対応したいがその費用がない、対応方法がわからない』という声をよくいただきます」
「費用の面では、文化庁や自治体の助成で字幕をつけるケースもありますが、助成金自体が限られた団体しか採択されないといった状況です。舞台の制作をされている関係者の方々も、数年のコロナ禍で非常に疲弊しているような状況もあり、自助努力には限界があるのかなと感じております」
「劇場が障害のあるなしにかかわらず、多様な人の集まる豊かな場に変わるためには、国の支援も必要だなと考えております」
国の支援に関しては、省庁ごとの縦割りも問題になっている。文字通訳を担当した菅波は「各省庁で支援や法令はありますが、それが絵に書いたような縦割りになっていて、どこに何を訴えればいいのかわからないという現実があります」と語った。
帝国劇場を世界一の劇場に
視覚障害がある美月は、視覚障害者が利用する施設からのアクセスが良く、単独で行くことができるという帝国劇場の重要性を語り、署名提出時に印象的だった言葉について語った。
「東宝さんとのお話のなかで非常に印象的だったのは、『帝国劇場が世界一の劇場を目指す』と言っていたことです。誰にとっても世界一のもの、というようなニュアンスでお話してくださいました」
「今日お届けしたものを見て、私たちの直接の話を聞いてくださったことを機に、前向きに検討していってくださるんじゃないかなという大きな期待を持つことができました」
また、帝国劇場の建て替え計画を対象として署名運動を展開することの意味や、期待する効果を問われた廣川は以下のようにコメントしている。
「帝国劇場といえば日本最高の、そして最古の伝統のある劇場です。劇場に行っている当事者の意見を聞いたうえでより素晴らしい劇場をつくるというプロセスを実現して、今後ほかの劇場を建て替える際のモデルとなっていただくことを期待しております」
「専門家の方はいろいろと考えてリサーチもすると思うのですが、あわせて実際に使っている当事者の意見を十分に聞いていただき、建て替えあるいは新築するというプロセスをスタンダードなものとして全国に広められたらと思っております」
当事者の生の声を届けるアンケートも提出
We Need Accessible Theatre!は署名に加えて、先行する好事例についてのアンケート調査の結果も提出。
多くの当事者をはじめ、当事者ではない立場からの意見も集まり(全体の40%)、「社会的に求められているということを改めて認識した」と山崎は話している。
アンケートでは劇場のハード面に加えて、情報伝達などの設備面、人的サービス面についての意見が集まったという。建物のバリアフリー化だけにこだわらず、多様な障害にあわせて対応することの重要性が強調された。
すべての人の生の声を届けるため、集計結果をまとめた資料とともに、138人のすべての回答もそのまま東宝に渡したという。
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