Audibleは大人の読み聞かせ?永作博美と湊かなえが「耳で聴く物語」について語る

Audible記者発表会が6月25日に開催され、4月25日からAudibleで配信が始まった『サファイア』の作者・湊かなえと、朗読を担当した永作博美が登壇した。

「本くらい自分で読めばいいんじゃないかな」と考えていたという湊が、自身の作品を音で聴いて得た気づきや、永作が感じた声で演じることの難しさに加え、2人が語る「耳で聴く物語」の魅力についてレポートする。

永作博美が感じた「朗読」の難しさ

―湊さんは自分の作品がAudibleになると聞いてどう思われましたか? また、読み手に永作さんをご指名された理由についてもお聞かせください。

湊:最初にAudible化の話をいただいたとき「本くらい自分で読めばいいんじゃないかな」と、あまり積極的ではなかったんです。でも、せっかく読んでいただけるなら作品世界を深く表現してくださる方がいいと思って、自分の作品の映像化でご縁をいただいた方に読んでもらいたいと思いました。

『サファイア』に入っている短編「ムーンストーン」がテレビドラマになったとき、主演で演じてくださった永作さんが素晴らしくて。刑務所に入る役なのですっぴんで、体当たりで挑まれていた。それに感動した記憶があったので、永作さんに作品を読んでもらえたら、自分が書いた話だけどまた違う物語の側面が見えたり深まったりするのではないかと思い、お願いさせてもらいました。

―永作さんはお話を聞いたときどう思われましたか?

永作:直々に湊さんからそうおっしゃっていただけたのは今回初めて知ったので、来てよかったと思いました(笑)。

(湊さんの作品は)役者としても、まさに「体当たり」というやり方でなければ表現できないと思う作品が多いですね。「ムーンストーン」のときも難しいなと思いながらやらせていただきました。たくさんの方が湊さんの作品の役をやられていますが、いつも作品を見ながら大変そうだなと思っています。

―永作さんが今回の朗読にあたって挑戦したこと、難しいと感じた部分はありましたか?

永作:言葉の繊細さとシンプルさですね。見える部分での展開も心境の展開も振り幅が大きく、それを人間である自分たちがどう表現するのか。役者として体を使っても簡単には表現できないのに、本を読むだけでどうやって表現するのか。それを自分がどこまでできるのか興味を持ちました。自分の世界だけで読むのとも違って、内で収めるんじゃなくて外に吐き出したうえで収める。そこが面白いと思いました。

―お芝居や映像作品ともまったく違う向き合い方ということですね。

永作:まったく違いました。ただ、自分が役者だからか、どうしても役者の感覚でやらないと収まりがきかなかったですね。当初は「読むことで呼ばれているから、今日は(演じるよりも本を淡々と)読む方向が強いんだろうな」と思いながら臨んだのですが、まったくそれじゃ作品に敵わなかったです。なので、私ができるすべての役者のことと、私が持っている知識、人生経験みたいなものすべてを使ってやらせていただいたような気がしています。

たとえば男の人の声、同年代の女性の声、これはもう比べようがないくらい両方難しかったです。同年代の女性が3人出てきたり、歳の違う同性が出てきたり、家族全員を1人でやったり……。『サファイア』は7編あったので登場人物が多く、聞き分けられるんだろうかという不安がずっとありました。

しかも、寝ながら聴く方も多いので、ちょっとした違和感に絶対に気づいてしまうと思うんです。自分の世界に入れる心地良い瞬間だけど、そのぶん違和感に気づきやすいコンテンツだとも思うので、展開は激しいですがとにかく繊細に繊細に、聴く人が違和感を持たないように読みました。

―湊さんは作品をお聴きになっていかがでしたか?

湊:「妻が万引きしている」と言われて「本当かな?」と夫が尾行する場面があるのですが、尾行する心情がダイレクトに伝わってきて素晴らしかったです。男性の一人語りなのに人物の姿が頭のなかに浮かんできて、その人の内面に入って、自分も尾行しているような気持ちになる。「Audibleすごい、ほかの映画やテレビドラマではできない、男性の心情を永作さんの声で聞けるんだ」と思いました。大きく声を分けているわけではないのに男性ってわかるし、娘ってわかるし、お母さんってわかるし、登場人物の内面を(声の出し方で)捉えているからこそしっかり伝わってくるんだと感動しました。

「耳で聴く」物語は大人の読み聞かせ

―「耳で聴く物語」であるAudibleはリスナーにどんな体験をもたらすと思いますか?

湊:出来上がったものを聴かせてもらって、大きな勘違いをしていたなと思いました。テレビドラマ化、映画化、Audible化というくらい、ひとつの確立した物語の表現方法なんだなと。

一度声で入ってくると、自分が本を読み返したり思い出したりするときに永作さんの声が蘇ってきたり、物語もこんな声のトーンで言ってたんだとか、こういうふうに間や掛け合いがあったんだとか、耳で聴くからこその点がたくさんあるコンテンツだと思います。なかなか本を開いたり、決まった時間に映像を見たりするのは難しいけど、移動のときにも耳から物語に触れながら日常生活を送れるのは、生活自体が豊かになるものだと感じました。

永作:本を読むときは、自分の世界に入って好きなように読み進められると思うんですが、Audibleは聞き進める、勝手に聞き進んでいくという不思議な気持ちよさだと感じました。

私の想像のなかで一番当てはまるのは、子どもに本を読み聞かせていた経験です。子どもって本を読み聞かせるとすぐ寝るんですよね。聴きながら、想像で自分の頭のなかを旅しているうちに寝てしまう、というあの気持ちよさ。Audibleは自分の世界を聴こえる音からつくれる気持ちよさがある。大人の読み聞かせのようなコンテンツもあって良いんだなと、深く思いました。

東野圭吾がAudibleのために書き下ろした新作も発表

記者発表会では湊と永作の対談のほかに、Audibleの取り組みについても発表。Audibleのために作家が書き下ろしたオーディオファースト作品として、金原ひとみ『ナチュラルボーンチキン』、大沢在昌『夜刑事(ヨルデカ)』、竹内薫『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』、五十嵐貴久『死写会』、越川慎司『AI分析でわかったトップ5%社員の読書術』などが紹介された。

また、東野圭吾がAudibleのために書き下ろしたオリジナル作品が7月24日から配信されることも発表。タイトルは『誰かが私を殺した』で、『あなたが誰かを殺した』に続く加賀恭一郎シリーズの最新作となっている。



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