舟越桂の秘密基地のようなアトリエを再現。彫刻の森美術館で開催中の展覧会『舟越桂 森へ行く日』レポ

彫刻家、舟越桂の個展『舟越桂 森へ行く日』が、神奈川・箱根にある彫刻の森美術館本館ギャラリーで開催されている。

クスノキを素材に大理石の目をはめ込んだ、遠くを見つめるような半身像で知られる舟越桂。同館の開館55年を記念した本展覧会は、2023年3月に舟越に依頼したことが始まりという。ともに準備を進めてきたが、2024年3月29日、舟越は72歳で死去した。

会期は11月4日まで。同館主任学芸員の黒河内卓郎の言葉を交えながら、展覧会をレポートする。

今年3月、72歳で死去。本展メインビジュアル撮影のエピソードも

1951年、岩手・盛岡に生まれ、東京で育った舟越桂。父は戦後日本を代表する彫刻家・舟越保武で、その影響で子ども時代から彫刻家を志したという。東京藝術大学大学院在学中に初の本格的な木彫作品として『聖母子像』(1977年)を発表。半身の人物像を特徴としており、2004年からは両性具有の身体と長い耳をもった像「スフィンクス」を多く手がけた。

本展は、4つの章に分けて構成されている。概ねつくられた順に構成されており、立体22点と平面35点、そのほか資料が展示されている。

本展タイトルの「森へ行く日」は、舟越桂の作品集(※)のタイトルでもある。同館主任学芸員の黒河内卓郎は「彫刻の森美術館にぴったりのタイトルだと思いました。展覧会を見に彫刻の森へ行こう、そんなストーリーが頭に浮かんで離れなかった」と話した。

※『森へ行く日: 舟越桂作品集』(求龍堂グラフィックス)。1977年から1991年までの作品に、初期のブロンズ作品、ドローイングを加えた第1作品集。

また黒河内は、同館の庭園に『樹の水の音』(2019年)を配置し撮影したメインビジュアルについても説明。本展には、舟越の新作としてブロンズ像が庭園に展示される予定だったという。舟越とともに撮影する場所も決めていたが、新作の制作は叶わなかった。黒河内は「木彫を野外に出して撮影するのは憚られたので諦めようとしていた」というが、遺族の後押しもあって、舟越が選んだ場所での撮影が実現した、と語った。

舟越のアトリエを再現した空間から、「人間を考える」作品まで

1階の展示室1のテーマは「僕が気に入っている」。前半には、舟越のアトリエを再現した空間が広がっている。

舟越のアトリエに置かれているのは、代表作のひとつとされる『妻の肖像』(1979-80年)。また、デッサンやメモ、実際に使っていたという手製の作業台などが、展示されている。舟越のアトリエを訪れた黒河内は「心底驚いた」といい、「やわらかくて木の匂いがする、秘密基地のようなアトリエ。すごく感動して、来館者に見てもらいたいと思った」と語った。

展示室2のテーマは、「人間とは何か」。人間の抱える矛盾や二面性に目をむけた作品に焦点をあてた。「人は山ほどに大きな存在なのだ」と感じた体験からつくられたという彫刻『山と水の間に』(1998年)などが展示されている。

世界で戦争が続くいま「どうしても展示したかった」作品

メインとなる展示室3では、「心象人物」というテーマが掲げられた。一貫して人間の存在をテーマにしながらさまざまな変容を遂げる作品について、舟越自ら「心象人物」と名付けている。

東日本大震災をきっかけに制作された『海にとどく手』、人間の行ないを丘の上から見続けているスフィンクスをイメージした『戦争をみるスフィンクスII』などで構成されている。

イラク戦争の時期に手がけられた『戦争を見るスフィンクスII』。黒河内は「ウクライナ侵攻やガザ侵攻が起きているなかで、どうしても展示したかった」と語った。舟越の作品のなかで、「しかめっつら」のような、怒りとも悲しみともつかないような表情を浮かべている作品は珍しいのだという。

展示室4のテーマは「『おもちゃのいいわけ』のための部屋」。『おもちゃのいいわけ』(1997年)は、舟越が家族のためにつくったおもちゃの写真と舟越の言葉を合わせて、姉・末盛千枝子が出版した本だ。本展を機に増補新版として刊行されることとなり、おもちゃやドローイング、新たに本に加わる『立ったまま寝ないの!ピノッキオ!!』などが展示されている。

本館ギャラリーの向かいの建物では、『彫刻の森美術館 名作コレクション+舟越桂選』として、舟越が選出した現代の作家5名(三木俊治、三沢厚彦、杉戸洋、名和晃平、保井智貴)の作品が展示されている。

イベント情報
彫刻の森美術館 開館55周年記念『舟越桂 森へ行く日』

2024年7月26日(金)〜11月4日(月・休)

会場:彫刻の森美術館 本館ギャラリー
開館時間:9:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
プロフィール
舟越桂 (ふなこし かつら)

1951年岩手県生まれ。父は彫刻家・舟越保武。1975年、東京造形大学造形学部美術学科彫刻専攻卒業。1977年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。大学院在学時、初の本格的な木彫作品として『聖母子像』(1977)を発表。1986~87年、文化庁芸術家在外研修員としてロンドンに滞在。これまでの参加した主な国際展に『ヴェネチア・ビエンナーレ』(1988)、『サン・パウロ・ビエンナーレ』(1989)、『ドクメンタ9』(1992)など。『タカシマヤ文化基金第1回新鋭作家奨励賞』(1991)、『中原悌二郎賞』(1995)、『平櫛田中賞』(1997)、『毎日芸術賞』(2009)など受賞。2011年には紫綬褒章を受章。近年の主な個展に『舟越桂 私の中のスフィンクス』(兵庫県立美術館など4会場を巡回、2015〜16)。2024年、肺がんのため逝去。



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