『台湾エクセレンス賞』は、台湾の経済部が認めた台湾製品に授与される賞だ。経済部とは、日本でいう経済産業省にあたる。東京・丸の内で、2024年9月27日から3日にわたって展示イベントが開かれ、『台湾エクセレンス賞』と『グッドデザイン賞』の過去の受賞作品がずらりと並んだ。
今回はその会場で、グラフィックデザイナー、アートディレクターの色部義昭と、編集者・ライターの上條桂子に受賞作品に触れてもらった。これまで幅広いデザインを手がけてきた色部と、数々のデザインを取材してきた上條の目には、受賞作品はどう映ったのだろうか? 台湾製品の特徴やデザイン業界のことも交えながら、たっぷりと語ってもらった。
幅広い商品群のなかから選ばれるエクセレンスな製品たち
上條:『台湾エクセレンス賞』というのは、日本でいう経済産業省にあたる台湾の経済部というところが主催していて、1993年から年に一度行なわれている権威ある賞だそうです。
ただ、見た目のデザインだけではなく、「研究開発」「デザイン」「品質」「マーケティング」という4つの軸にプラスして「台湾製」という点が考慮され、製品が評価されるそうです。今回は、その受賞製品のなかから比較的新しいものをピックアップして展示し、ものによってはストアで販売も行なっています。
色部:最近、台湾のデザイン賞のイベントや審査に呼ばれる機会が続いて、よく行っていますが、台湾のデザインは作り手の熱量が感じられて、面白いですよね。
上條:私も個人的に台湾は大好きで、旅に行ったときには必ずデザイン製品をチェックするようにしています。昨年の12月に『台湾デザインウィーク(Taiwan Design Week、TDW)』が開催されました。それも同じ台湾政府の経済部が主催していました。
残念ながらこのイベントにはうかがえなかったので、レポート記事などを拝見しましたが、10日間の開催で来場者が22万人と、ものすごく盛り上がっていたようです。若いデザイナーや海外からゲストを迎えたトークなども活発だった模様です。そのように注目を集めることになったのも、きっと1993年から続く賞を運営してきた下支えがあったからなのかな、と思いながら『台湾エクセレンス賞』を拝見しました。
色部:今年の9月に『Golden Pin Design Award』という賞の審査でちょうど台湾に行き、現地で作品をいろいろ拝見してきましたが、かなり成熟しているなという印象でした。
上條:『Golden Pin Design Award』はどのようなジャンルですか?
色部:かなり幅が広くて、大きなジャンルで表すとプロダクトデザイン、コミュニケーションデザイン、スペースデザイン、統合デザインに分かれていて。僕は統合デザインの審査員で、展示のキュレーションデザイン、サイン計画、ソーシャルデザインなどの審査を主に担当しました。
上條:それは日本の『グッドデザイン賞』に近いですね。台湾でもデザインを取り巻く領域はかなり幅広くて、官民一体となってデザイン意識を押し上げているような機運があるのでしょうか?
色部:そうですね。台湾全体でかなり力を入れているなという印象でした。
上條:今回の『台湾エクセレンス賞』も対象とするデザインの範囲がかなり広い印象です。色部さんが気になった製品はどちらでしょうか?
浄水技術とデザインが融合した携帯用の浄水器
色部:一番びっくりしたのは、あのペットボトルのフタですね。イノベーションがあって素晴らしいと思います。
上條:今年受賞した「mbranfiltra」の携帯用浄水器ですね。わかります! 私も1つ欲しくなりました。ペットボトルのふた部分がフィルターになっていて、ペットボトルの口にはめて使うものです。
色部:ボトル型の浄水器はいままでにもあったかもしれませんが、ペットボトルのふたというかなり小さいサイズで、既存のものと付け替えて使えるのもいい。付けていてもそんなに違和感ないですよね。
上條:世界最小で13グラムしかないそうです。技術的にもバクテリアやプラスチック粒子をブロックする独自の機能があるそうで、高速かつ汚水を飲み水にも変えられる。しかも、1個のフィルターでペットボトル2000本分の水を濾過することができるそうです。これは、アウトドアにも使えそうですね。
色部:こんなに小さくて高機能なもの、僕は初めて見ました。キャンプとかにも利用できそうですし、災害時には本当に役に立ちそうですね。
上條:たしかに防災グッズとして家に常備していてもいいかもしれません。最近、欲しいって思うものがだんだんと少なくなってきていて。「これは手元に置いておきたい」と思える製品づくりって大事だなと、改めて思いました。ひょっとしたらデザイン以前の問題なのかもしれませんが。
色部:それもデザインの範疇だと思います。必要なものをちゃんとつくっている、その姿勢がいいですよね。
老舗ガラスメーカーによる新たな日用品ブランドTG
上條:TGのガラス製品も受賞していましたが、台湾に行ったときについ購入してしまいました。普通に生活に馴染むし、飽きないデザインだと思います。
色部:プロダクトデザイナーの深澤直人さんがデザインされているものですよね。
上條:もともとは1964年に設立された老舗のガラスメーカーなんですよね。深澤さんを起用した「TG」を立ち上げたのが2018年。老舗企業ということもあって環境問題への取り組みも熱心で、最近では再生ガラスを使った商品に取り組んだり、ガラス製品を製造する際に使う大量の水できるだけ少なくするような製造ラインを築いたりと、ものづくりが継続していく方法を考えていると聞きました。
どこの国もそうかもしれませんが、台湾の企業やデザイナーもサステナブルな視点でものづくりを考えていて、それに対し政府も強力にバックアップしているようです。
色部:『グッドデザイン賞』もそうですが、デザイナーという「人」を評価するのではなく、「製品」そのものを評価するというところがいいですね。
じつはこのTGの商品は、僕もメンバーとして参加している日本デザインコミッティーが選んだ製品を販売する松屋銀座のデザインギャラリーでも取り扱っているんですよ。
上條:そうなんですね。ちょっとほかの製品も見てみましょうか。私はこれが気になりました。水洗金具なんですが、ボタン式なんですかね、すごくシンプルなデザインですが、洗練されています。
色部:ボタン式ってあまりないですよね、面白い。同じメーカーの水洗金具で、前におじぎしているものってあまり見たことないですね。すごく不思議に見えますが、たしかに手を洗うときってこっちの方がいいのかもしれません。ロゴが漢字で刻印されているのも新鮮です。
上條:たしかに。水洗金具って各国で長年取り組んでいるメーカーがあって、もう洗練され尽くしているような印象がありましたが、こうした見たことのないデザインが見られるのは、まだまだ改良の余地があるということなんですかね。複数受賞している製品もありますね。
色部:ほんとだ。複数受賞されていますね。デザイン意識の高い企業なんですね。
家庭用Wi-Fi製品やアート用モニタ等電子機器も多様な展開
上條:電子機器のブースも見てみましょう。D-Linkという会社の家庭用のWi-FiルーターとIoTゲートウェイです。こうしたネットワーク、電子機器というのは真っ白か真っ黒で角張っている、もしくは角丸くらいのデザインが多いように思います。そのなかで、こちらは有機的なデザインで見た目にも遊び心があって可愛らしいなと。
色部:働き方が自由になってきて、オフィスだけではなく自宅にもこうした機器を置いているケースも増えていると思います。そうなると、インテリアの一部としての馴染みやすさも必要になってきますね。
上條:たしかに。さっき少し説明を聞いたら両端をコの字型にしたデザインの機器は空を飛ぶワシをイメージしていて、それはネットワークの速さを表現していると。
また、メッシュWi-Fiをサポートしていて、つながりやすさというテクニカルな部分もクリアしているそうです。
色部:電子機器だと、Qubii Duo(Maktar株式会社)が気になりました。スマホをここに差すだけで、データもバックアップされるリーダーなんですね。こんなに小さいのに最大2TB(microSDカード)まで保存できるんですね、すごい。
上條:保存されたデータは別途アプリで見られるんですね、また、本体をPCに接続すると、外部HDDのようにデータを出すこともできる。本体もコンパクトなので毎日の充電のときにアダプタに差しておいてバックアップすればいいので、便利ですね。
このディスプレイ(※)も面白いですね。モニタなんだと思いますが、油絵っぽいテクスチャが再現されていて、思わず触ってしまいそうになります。
※友達光電股份有限公司(AUO)の32インチ FindARTs Hi-Fiアートディスプレイ
色部:たしかに触りたくなりますね。こうした絵画のデータ自体もこちらの会社で提供されているんですね。美術館だけではなくて、ホテルやショップ、公共空間などいろいろと展開ができそうです。
上條:芸術鑑賞のスタイルがちょっと変わってきそうですね。いろいろカスタマイズもできそうだし、面白いですね。また、このアームの動きもすごくスムーズでいいですね(※)。
色部:確かに、指一本で動かせると書いてありますが、本当に軽く動かせますね。各色のLEDがついていて賑やかなのはゲーミング用に開発されたものだからでしょうか。こうした需要があるんですね。
※Modernsolid Industrial Co., Ltd.のAres Gaming Monitor Arm
台湾デザイン興隆の影には政府のバックアップがある
上條:会場をざっと見渡してみましたが、全体的に面白かったですね。いかがでしたか?
色部:面白かったです。すごくジャンルは幅広かったですが、台湾デザインというものを、政府もそうですが、企業の人たちも積極的に売り出していこうという気概が感じられました。
上條:政府が力を入れているというのはすごく大きいですよね、きっと。単に見た目の部分だけではなく、技術的な面や生産工程まで目配りをしてデザインをしなければならないわけですから。意識もそうですが、資金的な面でもバックアップが必要ですよね。
色部:もちろんそうだと思います。そうした国・地域全体での働きかけは、デザイナーの地位向上にも貢献します。台湾のデザインイベントに参加して思ったのは、デザイン関係者だけではなく一般の人たちからの注目度もものすごく高いということ。
デザイナーという職業も、日本よりいい見られ方をしている、ステータスというかやりがいのある仕事として見られているような印象を持ちました。
上條:日本も大丈夫ですよ! と言いたいですが、2000年前後の一時期より日本のデザインイベントの盛り上がりは落ち着いているかもしれませんね。台湾デザインを見ていてもうひとつ思ったのは、環境問題やサステナブルなものづくりにもすごく前向きに取り組んでいるということです。
色部:本当にそうです。台湾の人たちって、本当に前向きだと感じます。
上條:それは感じます。ともするとちょっとユルいというか優しいとも言えますが、ポジティブなエネルギーがいい方向に向かっているような気がします。
色部:先日、映像とデザインのイベントがあってレクチャーで呼ばれて、初めて、台湾の南部にある高雄に行ったんですが、自然も街もおおらかですごくいい場所でした。学生中心のイベントだったようですが、レクチャーには500人くらい来て、すごく熱心に聞いていました。そのイベントも政府から支援を受けてやっていたみたいです。
上條:いいですね。高雄、行ってみたいです。『台湾エクセレンス賞』も政府主導のイベントだと思いますが、やはりデザインは産業と分かちがたいものですから、バックアップは不可欠です。
賞自体が盛り上がっていると、デザイナーのモチベーションにもなります。結果的にデザイナーの地位も上がるし、そういうデザイナーを目指す学生の意識も高くなる。結果として、製品的にも環境や社会にとってもデザインのいいものが市場に出てくる。いい循環が今後も続いていったらいいなと思います。(Ad by TITA)
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