デビュー1年で『紅白』出場。ILLITの活躍を語るために欠かせない「3つのポイント」

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2024年の大みそか、女性5人組のアーティストILLIT(アイリット)が『第75回NHK紅白歌合戦』の舞台に立つ。

SNSでは「今回のニュースで名前を初めて聞いた」というコメントもあったものの、音楽シーンに登場してからわずか数か月の間の活躍ぶりは目を見張るものがあり、『紅白』の選定基準である「今年の活躍」と「世論の支持」を十分クリアしているのは間違いない。

今回の記事では、ILLITの魅力と活躍に加え、3月のデビューから1年足らずで『紅白』出場までたどり着いた理由と戦略について解説する。

デビュー曲が米ビルボードの「ホット100」入り。ILLITの今年の活躍をたどる

ILLITは韓国大手事務所HYBE LABELSの傘下であるBELIFT LABが手掛けたニューフェイス。2023年6月から約3か月、韓国で放映したサバイバル番組『R U NEXT?』を通じて選ばれた、等身大の感性をナチュラルに表現できる10代、20代の女性メンバー(YUNAH、MINJU、MOKA、WONHEE、IROHA)で構成されている。

今年3月にリリースした初のミニアルバム『SUPER REAL ME』は、発売後1週間で38万枚以上を売り上げ、アメリカのビルボードのメインアルバムチャート「ビルボード200」で93位をマーク。さらにリードトラックの“Magnetic”は、K-POPのデビュー曲では史上初となる米ビルボードのメインソングチャート「ホット100」入りを果たし、イギリスのオフィシャルシングルチャートにもランクインするなど、新人らしからぬ活躍が大きな話題となった。

彼女たちの勢いはその後も増すばかり。同年10月に発表した2ndミニアルバム『I’LL LIKE YOU』は、「GLLIT(読み:グリット/公式ファンダム名)のみなさんを考えながら気になっていたことや、個人的な悩みがあっても最終的に心の向くまま進もうとする私たちの姿勢を表現した」(MINJU)のが功を奏したのか、前作以上に同世代の共感を獲得した模様だ。再び米ビルボードのメインチャートに入り、韓国の主要チャートでも良好なアクションを見せたリードトラック“Cherish(My Love)”は、韓国の街のいたるところで頻繁に流れており、幅広い世代に認知されているポピュラーな楽曲だ。

ILLITをスターダムへと押し上げた「3つの理由」

シンプルで覚えやすいグループ名は、自主的で積極的な意志=I WILLと、特別な何かを意味する代名詞=ITを合わせて作られたもの。このふたつの言葉の間に入る動詞によって自分たちは何にでもなれる、というのがILLITのコンセプトだ。

また、5人のメンバーはいずれも目の前のことに最善をつくし、あとはなりゆきに任せる「瞬間没入タイプ」だそう。これらはデビュー当時の広報用資料に紹介されていたグループのセールスポイントだが、だからこそ短期間で爆発的な人気を手に入れたと言っても、ピンとこない人が多いに違いない。では、彼女たちをスターダムへ押し上げた具体的な理由は何かといえば、やはりサウンドとダンス、戦略の独自性につきるのではないかと思う。

最近のK-POPシーンでは、NewJeansやBOYNEXTDOORといった若手を中心に「イージーリスニング」と呼ばれるサウンドを売りにしているアイドルが増えている。このキーワードを1970年代に一世を風靡したイージーリスニングと同じだと誤解するリスナーも少なからずいるだろうが、現在では主に洒落たコードを多用した落ち着いた曲調を指すケースが多い(ジャンルとしては「チルアウト」と似ているかもしれない)。

ILLITもこうした流れの中で誕生したグループだと言えるだろう。しかしながら彼女たちはほかと同じようなサウンドをやっているわけではなく、レトロフューチャー(昔の人たちが思い描いていた未来の世界)、フューチャーファンク(1970~80年代の日本のシティポップや歌謡曲などをダンスミュージックとして再構築したサウンド)といったテーマやジャンルを意識しながら、懐かしくも新しいダンスミュージックを創出している。時流に乗りながらも自分たちならではの美学を追求した点は、たくさんのライバルとの差別化に役立ったと言えよう。

わかりやすい例をあげると、初のミニアルバム『SUPER REAL ME』では、中毒性のある旋律とユニークなイントロが印象に残る“My World”、メンバーらの想像をベースにして作った“Midnight Fiction”と“Lucky Girl Syndrome”が典型的であり、次作『I’LL LIKE YOU』では、“I'll Like You”や“Pimple”、“Tick-Tack”といった愛らしいメロディが耳に残るナンバーが、グループの音楽的な方向性を明確に示しているようだ。

サウンド以上にインパクトがあったのはダンスである。デビュー曲でありグループの代表曲となった“Magnetic”であれば、磁石がくっついたり離れたりする様子を指で表現した「マグネティックダンス」、楽しく遊んでいる様子を表現した「ブンバンダンス」、メンバーらがいろいろな表情を見せる「顔チャレンジ」など、ポイントダンスと呼ばれる見どころが満載だった。

さらに“Cherish(My Love)”では、「マグネティックダンス」の手の動きがハートの形に変わって「マグネティックハートダンス」に進化。ほかにも手と頭を軽快に振るところは魔法少女が変身する様子を連想させるなど、わずかな時間でリスナーを夢中にさせる要素を詰め込み、より多くの若者を魅了している。

TikTokやYouTubeを意識した曲作りと振り付け

瞬時に心をとらえて、しかも真似をしたくなる振り付けを目指す——。

ILLITがどの曲でも貫くこの姿勢は、グローバルな人気をつかむためにグループが重要視しているTikTokやYouTubeのためだと言っても過言ではない。ユーザーの切り抜き、編集が多いこうした動画投稿サイトでは、公開する側、観る側の両方に喜ばれる素材を提供する必要がある。となると、彼女たちの短くもインパクトのある動きはベストオブベスト(最善の中の最善)だったのだ。

さらに言うと、キャッチーなフレーズとサビを何度も繰り返すのも同じ理由からである。サウンド的にも比較的楽に切り取りができるのは、前述のサイトを意識した結果にほかならない。

サウンド、ダンス、インターネットを大切にした戦略をバランスよくスムーズにつなげたILLITが、活動を始めてから1年も経たないうちにビッグネームとなったのは、これでよく理解できたのではないだろうか。グループがデビューした2024年は、『紅白』初出場以外にも名誉な話題や記録が続いたのもうなずける。

『紅白』出場で「若者の大好きなアイドル」から「お茶の間の人気者」に?

先日、アメリカのビルボードが発表した2024年の年間チャートであるYEAR-END CHARTSを見ると、“Magnetic”が「グローバル200」で61位に、アメリカを除くグローバルチャートでは29位に入った。これは韓国のグループの楽曲では最も高い成績だったという。

また、TikTokやYouTubeといった有名なプラットフォームの年間ランキングで良い結果を出しており、特に後者のほうでは、“Magnetic”が日本国内のトップショート楽曲で5位にランクイン。10位以内に入った唯一のK-POPソングとなったが、これは彼女たちおよびマネージメントサイドの戦略が成功したことを物語っている。

おかげで、2024年末のILLITは本当に忙しそうだ。特に日韓でのスケジュールは相当ハードで、イベントのために両国の間をひんぱんに往復。『KBS 歌謡祭 Global Festival』『SBS歌謡大祭典』『ミュージックステーション SUPER LIVE』といった大型企画への参加で、音楽シーンでの存在感をますます強めていきそうである。

そして、若者の大好きなアイドルから「お茶の間の人気者」に変わるのは、『第75回NHK紅白歌合戦』がきっかけとなるのではないだろうか。

12月15日にみずほPayPayドーム福岡で開催されたK-POPの祭典『2024 MUSIC BANK GLOBAL FESTIVAL in JAPAN』に出演した彼女たちは、大きな舞台で多くのダンサーをしたがえて華麗なステージングを披露、約3万人の観客が5人の一挙手一投足に熱狂していたのが印象的だった。今回の『紅白』では、現在のパフォーマンスの魅力をよりコンパクトにわかりやすく見せる演出が予想され、ファン層が一気に広がりそうだ。

ILLITの一連の動きを見ると、2010年に日本で巻き起こった最初のK-POPブームを思い出さずにはいられない。当時はKARAと少女時代の相次ぐ日本進出が起爆剤となって、それまでは一部のリスナーに人気があるジャンルだったK-POPの大衆化が加速。さらに翌年の『第62回NHK紅白歌合戦』に初出場した両グループは、老若男女に支持される韓国出身のアイドルとして認められるようになった。ILLITも同じ道をたどっていく可能性は十二分にあるが、先輩たちと異なるのは上昇するスピードがもっと速いという点である。

ちなみにILLITは2024年4月、『SUPER REAL ME』収録曲のスピードアップバージョンで構成した『SUPER REAL ME(Sped Up)』をリリースしている。

スピードアップバージョンはTikTokなどでの需要を見込んだものであり、若者をメインターゲットとした彼女たちらしいリリースと言えるものだが、「スピードアップ」というキーワードは彼女たちの現在地を象徴しているように思えてならない。

グループにとってお茶の間の人気者への道のりは、さらに短く早く達成されるべきものなのかもしれない。メンバーたちのスピードについていくには、聴く側も休んではいられない。今後はともに高速で未来へと進む気持ちが求められそうだ。



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