永瀬正敏原案・主演、井上淳一脚本・監督の映画『いきもののきろく』が3月7日からテアトル新宿ほか全国で順次公開。メインビジュアルが到着した。
2013年末に撮影されたが、当時は47分の短編を単独で上映する環境になく、翌14年にシネマスコーレのみで公開された『いきもののきろく』。東日本大震災を反映した世界で生きる男と女を描く。
女役を演じるのは『福田村事件』に出演のミズモトカナコ。撮影は『極悪女王』の鍋島淳裕、プロデュースは木全純治が担当した。主題歌は昨年亡くなったPANTA(頭脳警察)が寺山修司と高取英の詩に曲をつけた“時代はサーカスの象にのって”。
製作のきっかけは、2013年に『戦争と一人の女』の舞台挨拶で監督の井上淳一とシネマスコーレを訪れた永瀬正敏が支配人の木全純治より、今はもう使われていない名古屋市内の中川運河を舞台とした短編映画の監督依頼を受けたこと。永瀬は「出演はするが、監督は井上さんで」と言い、その場で製作が決定したという。
井上監督は誰もいない廃墟のような街でひとり筏を作り続ける男を描いた永瀬のプロットに東日本大震災後のイメージをプラスし、脚本を執筆。原発事故後の誰もいなくなった世界に取り残されたような男と女の話を作り上げた。
黒澤明監督『生きものの記録』と同じタイトルをつけたことについて井上監督は「黒澤は狂っているのは三船か、何も感じないお前らか、と観客に問うている。これは三船のその後の話だ」と語っている。今年公開された永瀬主演の『箱男』を観た井上監督は「これは、『箱男』を作れなかった時代の、永瀬さんの『箱男』ではないか」とも述べている。
【井上淳一監督のコメント】
『いきもののきろく』は、11年前、名古屋にある中川運河という今はもう使われていない運河を文化的に再開発しようという助成金で作られた、小さなご当地映画です。助成金、ご当地映画――当時からそうやって量産される映画が日本映画の質を落としているんだと批判してきました。だから、自分がそういう映画を作るのに躊躇いがありました。しかし、永瀬正敏さんから送られてきたプロットを見て、驚きました。それは、どんな条件であれ、自分たちのやりたいものを作るという意志に裏打ちされた強固な物語でした。どんな条件であれ、自分たちの信じる映画を作り続けることが、結局は今の映画状況に一石を投じることになる。この映画はそう願って、作られました。しかし、47分の短篇はなかなか公開するすべがありませんでした。今年、師である若松孝二監督の十三回イベントで上映することになった時は不安でした。映画としての賞味期限が切れているのではないかと。幸いにも、それは杞憂でした。若松さんが言っていたように、映画に時効はありませんでした。それでも、まさかテアトル新宿で公開できるとは思ってみませんでした。今はただ、あの頃、永瀬さんや僕が思っていた祈りや、今なお思い続けている願いが一人でも多くの肩に届くことを願うのみです。
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