ドラマ『ホットスポット』が3月16日放送の第10話をもって最終回を迎える。
日本テレビ系で1月から放送されている同番組は、バカリズムが脚本を手掛けるオリジナルドラマ。国内外の賞を多数受賞し、脚本家としてのバカリズムの新たな代表作となった『ブラッシュアップライフ』のチームが制作を手掛けている。
『ホットスポット』は富士山麓のとある町を舞台に、ビジネスホテル「レイクホテル 浅ノ湖」に勤めるシングルマザーの主人公・遠藤清美(市川実日子)と、見た目は中年男性の宇宙人・高橋(角田晃広)の交流を描いた「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー」だ。放送開始前から注目を集めていた作品だが、意表を突く展開に翻弄される視聴者が続出。その世界観や今後の展開についての考察がSNSを中心に日夜繰り広げられ、大きな盛り上がりを見せている。
この記事では『ホットスポット』の最終回に向けて、バカリズム作品および本作を「受け入れる」というキーワードを軸にして、駆け足で振り返りたい。
異常な事態も「受け入れる」。バカリズム作品に特徴的な態度
バカリズム作品に登場するキャラクターたちに特徴的なアクションの1つに「受け入れること」がある。たとえば『ブラッシュアップライフ』の主人公・あーちん(安藤サクラ)は死後の輪廻転生/タイムリープを案外すんなり受け入れてしまう。『殺意の道程』の主人公たち(井浦新、バカリズム)が出会う人々は彼らの殺人計画をすんなり受け入れてしまうし、主人公たちも知人のキャバクラ嬢(堀田真由)が異常なほど殺人に詳しいことを「すごいね」とか言って簡単に受け入れる。
何か異常なことがあったとき、いったん驚きはするものの、すぐに冷静になって「それはまあそういうもの」「そんなこともあるよね」といった態度で受け入れ、日常風景として組み込んでしまうこと。それがバカリズム作品の登場人物たちに特徴的な身振りといえるだろう。
「どう受け入れるか」を視聴者に投げかけた『架空OL日記』
バカリズムがOLになりきって架空の日常を綴ったブログを映像化した『架空OL日記』では、バカリズムが自ら女性俳優たちに混じってOL役を演じ、銀行員の平穏な日常生活を活写するという離れ業を見せた。
男性が女性役をごく当たり前のこととして演じる——これはコントではよくあることではあるが(ついでに歌舞伎や能の世界でも)、テレビドラマに取り入れてしまうのは少し常識はずれな試みと言えるだろう。視聴者にとってはツッコミどころしかない異常な状況を構築し、それをどのように受け入れるかを視聴者に投げかけた作品と捉えることもできる。
見た目は完全にバカリズムなのに、見ているうちに「OLの日常ってこんな感じなんだなぁ」とか「OLも大変そうだけど、みんな頑張ってるなぁ」みたいな気持ちになってくるから困るのだが、私たちの日常もそんなふうに、いろんな異常を知らず知らずのうちに受け入れることで成り立っているのかもしれない——とすると、「正常」とは何か? という疑問も湧いてくる。そんな根源的な問いをきわめてライトに喚起するところも、バカリズム作品の面白さだ。
だいたいOKだけど、受け入れたくないこともある
※以下、『ホットスポット』第9話までのわずかなネタバレがあります
『ホットスポット』は「受け入れること」のおかしみと、簡単には揺るがない日常風景の描写を前面に押し出した作品だ。回を追うごとにさまざまな人物の「普通」とは違った側面が明らかになっていくが、だいたいみんな「そんなこともあるよね」と受け入れてしまう(高橋さんは渋々ながら、だが)。
特殊な能力を持つことを知っても、拒絶したり、敵対心を燃やしたり遠ざけたり……といったネガティブな反応はしないし、極端に崇めたりすることもない。せいぜい「ちょっと便利な能力」くらいの受け入れ方である。
主人公たちが唯一「受け入れたくない」のは、本編のクライマックスとなるホテル(および温泉)の存亡に関わる事態である。なぜ受け入れたくないのか。おそらくその出来事が、彼らのかけがえのない日常を揺るがしてしまうからだろう。強固な磁場で異常事態を取り込むバカリズム的な日常は、本作においては場所に紐づいたものとして描かれているのだ。そもそも『ホットスポット』というタイトルからして、場所の重要性は示されていた。
ホットスポットとは、さまざまな意味を持った言葉だ。たとえば生物多様性が豊かであり、絶滅危惧種が多く生息している地域を「生物多様性ホットスポット」と呼ぶ。あるいはマントルからマグマが供給されている場所や、放射性物質が局所的に蓄積された地域のこともホットスポットと呼ばれる。直訳すれば「温かい場所」となり、レイクホテル 浅ノ湖が誇る貴重な温泉のことも想起させる。
最終回、『ホットスポット』とは場所をめぐる物語だったのだ、と大きく頷かされる結末になるのかもしれない。
もしかして最も異常なこと、私たちは受け入れてしまっているのでは
ドラマは残り1話を残すのみ。物語がどんなラストを迎えるのか、いよいよ私たちも「受け入れる」準備をしなければならない。それにしても、テレビのレギュラー番組を複数本抱えて、お笑いライブで継続的に舞台に立ち、いまやドラマや映画の脚本でも超売れっ子となったピン芸人——そんなバカリズムの異常な活躍ぶりを私たちがすんなり受け入れてしまっているという事実にも、いまさらながら驚かされる。
- 番組情報
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『ホットスポット』
2025年1月12日から毎週日曜22:00〜日本テレビ系で放送
脚本:バカリズム
演出:水野格、山田信義、松田健斗
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