『TBSドキュメンタリー映画祭』が3月14日からスタートした。
東京、名古屋、大阪、京都、福岡、札幌の全国6都市で順次開催される『TBSドキュメンタリー映画祭』は、TBSテレビやTBS系列各局の記者やディレクターによるドキュメンタリーブランド「TBS DOCS」の想いを結集した場として開催される上映イベント。
上映作品は17作品で、社会問題や多様な生き方をテーマにした作品や、アーティストに密着した作品などからテレビやSNSでは伝えきれない「事実」や「声なき心の声」に迫る。
開催直前の3月9日には西村匡史監督による『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~』の特別試写会を実施。西村監督とTBS『news23』のメインキャスターで同映画祭のスペシャルサポーターを務める小川彩佳が登壇した。
今回の記事では、西村監督と小川が「いのち」について語り合った同イベントの様子をレポートする。
安楽死を撮ることで感じた「葛藤」
『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~』は、2022年に安楽死するためにスイスに渡った迎田良子さんに焦点を当てたドキュメンタリー映画。
取材内容を記事にした『「安楽死」を考えるスイスで最期を迎えた日本人 生きる道を選んだ難病患者』は2024年のLINE NEWSに配信された400万本を超える記事の中から、社会課題を工夫して伝えた記事を表彰する『LINEジャーナリズム賞』の年間大賞に選ばれた。
監督の西村匡史は2003年にTBSに入社し、報道局社会部で警視庁、横浜支局、検察庁、裁判所を担当。事件、事故、震災、戦争、自死などの被害者取材から、死刑囚やその家族などの加害者側の取材まで、一貫して「いのち」をテーマにした特集を手がけている。

西村匡史監督
同イベントでは、初めて一般の観客に向けて作品を公開。西村監督は「2021年1月に1通のメールから始まったこの映画が、生きること、死ぬことの議論のきっかけとなればと思います。そして最後まで逃げることなく取材に応じて頂き、映画という形にすることで、迎田さんの想いをひとつ届けることができたと思うので、少しホッとしている部分もあり、これからいろんな人に届けば良いなと思います」とコメントした。
映画の感想について問われた小川は「安楽死というテーマだとどうしても構えてしまう部分があったが、作中で描かれていたのは一人の女性の生き様で、自分自身の生き方を見つめ直すきっかけになった」と述べた。

小川彩佳
小川から「どんな思いで迎田さんに向き合ったのか」と聞かれた西村監督。その葛藤について、以下のように吐露した。
「私はちょうどロンドンに駐在していたので、日本に住む迎田さんとは何度もZOOMで話し合って関係を築いていきました。最初は安楽死のことばかりを話していましたが、徐々に彼女の生きてきた人生や楽しい思い出を話してくれるようになったことで私にも情が生まれてしまいました」
「これまでは生きる方向に背中を押すものを撮ってきたので、安楽死はその逆になるので葛藤することも悩むことも多かったです」
また、安楽死は「社会にとって脅威」であるとも感じているという。
「本当はまだ生きたいと思っている人が、周囲に迷惑をかけたくないという理由で安楽死を選んでしまうことがあったり、なかには周囲が自分の死を望んでいると思ってしまう人が出てきてしまう可能性もある。安楽死はつねにそういうリスクと背中合わせで、それを紹介することの葛藤は最後の最後まで拭えない。それでも、誰にでも訪れる死については議論すべきだ」

イベントでは、来場者からの質問コーナーも実施。
「迎田さんの決断をどう思ったか」と聞かれた小川は、「作品を観ているうちに彼女の魅力にすごく引きこまれ、自身も迎田さんと言葉を交わしてみたかったと感じた」と想いを語り、「同時に、それぞれの人生のなかで編み出されたものが人生を貫いていくことも認識し、周りの人間がとやかく口を出せるものではないし、そういう領域が彼女には確実にあったと感じた」とコメントした。
西村監督には「海外に比べ、日本ではあまり安楽死の議論自体が起きにくい。どういったことがあれば日本でも議論が活発化するのか」という安楽死制度そのものに対する質問も。
監督は「イギリスでは小学校の授業でも、安楽死をテーマにディスカッションをするのが普通なこと。それに対して、日本ではまだ死はタブー扱いされている。海外も政治から率先して動いているというよりも、市民の声が政治を動かしているのが現状。日本ももっと、誰もが関係する『いのち』に対しての議論が活発になり、少しでも市民が自分から考えて動いていくことが必要で、そうすれば自然と政治が動いてくるのではないか」と自身の見解を述べた。
映画祭は「テレビの報道には入りきらない部分まで見せられる素敵な機会」
同映画祭のスペシャルサポーターを務める小川。映画祭の意義について、「取材したにもかかわらずテレビの報道には入りきらず、残念ながらそぎ落としていた部分を知っているからこそ、それを皆さんにお見せできる機会があるというのは素敵なことです」と語る。
イベントの最後には「映画祭の作品は多岐にわたり、老若男女様々な方にフォーカスが当てられています。自分から遠い違う世界を生きる人というように感じることもありますが、作品を観ていると、どこか自分と映し鏡になっており、そこに境目がなく自分と地続きになっている世界の人たちなんだと分かってくる瞬間があるので、その瞬間を映画祭を通してたくさん経験していただけたらと思います」とコメント。
西村監督は「今回の映画を通して、安楽死だけでなくひとつの『いのち』について考えるきっかけになれば良いと思っており、一人でも多くの方にそれが届けば、迎田さん含むいままで取材させて頂いた方への恩返しになると思います」と話した。
『TBSドキュメンタリー映画祭』は4月上旬まで開催中。詳しい上映スケジュールなどは公式サイトをチェックしよう。
- イベント情報
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『TBSドキュメンタリー映画祭』
東京
会場:ヒューマントラストシネマ渋谷
日程:2025年3月14日(金)~4月3日(木)
大阪
会場:テアトル梅田
日程:2025年3月28日(金)~4 月10日(木)
名古屋
会場:センチュリーシネマ
日程:2025年3月28日(金)~4月10日(木)
京都
会場:アップリンク京都
日程:2025年3月28日(金)~4月10日(木)
福岡
会場:キノシネマ天神
日程:2025年3月28日(金)~4月10日(木)
札幌
会場:シアターキノ
日程:2025年4月5日(土)~4月11日(金)
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