凍えるような寒空の下。東京中の熱をすべて一箇所に集めたかのようなパーティーが渋谷「CIRCUS TOKYO」にて開催された。Charli xcxの最新アルバム『Brat and it’s completely different but also still brat』のリリースを祝うべく、東京カルチャーを牽引する次世代型パーティー『きゅんです』とのコラボレーションで行なわれた『Charli xcx - Brat and it’s completely kyundesu but also still brat - Release Party』。
パフォーマーとオーディエンスのパワー、エモーション、はたまたストレス、フラストレーションまでもがあけすけなまでにぶつかり合い一体となった一夜は、いまの東京に確実に必要な空間だった。
熱気で汗ばむダンスフロア、ぶっ通しで踊り続けるあの子、入り乱れる人波……。歴史的な一夜の目撃者として、その様子をお届けしたい。
世界中で「ブラットムーブメント」を起こしたCharli xcx
クラブカルチャーとポップミュージックの融合、あるいはその境界線の拡張にこれまで幾度となく貢献してきたイギリス出身のアーティスト・Charli xcx。
Charli xcx - “360” (official video)
世界中で「ブラット(既成概念や人の意見にとらわれず、ぶれないアイデンティティを持つこと)ムーブメント」を起こしたアルバム『BRAT』のリリースから早数か月。同じく「Brat」を冠したアルバム『Brat and it’s completely different but also still brat』が、今年10月11日にリリースされた。オリジナルアルバムと、アルバム収録曲のリミックスバージョンをもう1枚のディスクに収めた2枚組となっている。
止まらぬ「ブラットムーブメント」に応えるかのように誕生した本作のリリースに合わせて、次世代型パーティー『きゅんです』とコラボして11月20日に行なわれたのが、今回のパーティーだ。
Charli xcx×『きゅんです』。総勢12組のアーティストがパフォーマンス披露
先日4周年を迎えた『きゅんです』は、DJ・N ²(エヌツー)が主催するパーティー。ミックスジャンルの音楽に触れ合えるうえ、ジェンダーや人種など肩書きにとらわれないポジティブなエネルギーを持つアーティストが出演する、「いま東京で最もホットなパーティー」と称されることもある注目のパーティーだ。
そんなスペシャルな一夜を彩ったのは、総勢12組のアーティストたち。
666のDJで幕を開けてから、週のど真ん中ということをすっかり忘れるほどの熱量と人だかりのまま、パフォーマンスは続いた。 LA、NY、東京という多様な文化的環境で生まれ育ったシンガーソングライター・sheidA。新進気鋭のクィアポップシンガー・Aisho Nakajima。次世代カルチャーアイコンとの呼び声が高いアーティスト・MANONなど、一組も見逃せないラインアップに会場の熱がどんどん上がっていくのを体感できた。
カオスで、妖艶で、ときにポップでもあったパフォーマンス
そんななか、本パーティーのメインアクトである「365 japan remix live (MANON, Aisho, N ², sheidA) + N ² (dj) feat. SUNNYBUNNY, Mia Scandals」のパフォーマンスに突入。「ノンストップ」「1秒も見逃せない」「一瞬たりとも目が離せない」……、そんな言葉すべてが当てはまるパフォーマンスを観たのはいつぶりだろう。
「こんなに寒い夜だから」という今晩の気候にぴったりなMANONの歌い出しから始まった「365 japan remix live」。
この瞬間を逃すまいと思ったのは私だけではないようで、目の前は一気にスマホの録画画面で埋め尽くされた。ライトに照らされ揺れ動くダンスフロア、思いのままに体を揺らすオーディエンス、そして駆け足で会場へと押し寄せる人、人、人。その流れは止まらず、パフォーマンス中もオーディエンスは絶えず増え続けていった。
N ²の「Dance! Go crazy!」というMCによって、最高潮に達した会場の熱。無我夢中で踊り狂うオーディエンスたちを観て、自分のなかでこのパーティーへの期待感が確信に変わったのがわかった。そして、会場の熱は最高潮に達したまま、文字通りノンストップでN ² (dj) feat. SUNNYBUNNY, Mia Scandalsのパフォーマンスがスタートした。
SUNNYBUNNYとMia Scandalsが流れるようにステージに「乱入」し、N ²のDJに合わせてうねるように踊り、会場はもはや誰にも止められない状態に。そのパフォーマンスはカオスであり、妖艶であり、ときにポップでもあった。
複雑な魅力を持ったパフォーマンスに、オーディエンスからは歓喜の声から、ときに笑い声、そして悲鳴にも似た声まで、さまざまなリアクションが上がった。十二分に熱を帯びたダンスフロアでは人々の感情がむき出しになり、それらが歴史的な一夜を創り出す大きな要因の一つになる。そんなことをあらためて感じた瞬間だった。
今宵は「Bratきゅん」。東京のフィルターを通して表現された「ブラット」とは
これで終わりかと思いきや、最高潮のその先を目指すのが今回のパーティーの目的のようだ。N ²の「今日は『Bratきゅん』ってことで、チャーリー来てる?」というMCにオーディエンスから驚きの声があがると、「チャーリーっぽい友だちを呼んでます」と一言。
会場に期待感が漂うなか、Charli xcxの“I think about it all the time”とともに華やか且つ堂々とした出立ちでステージに現れたのは、ドラァグクイーンのGYOZAことGyoza Tonin-Anang Essence Hallだ。
歌詞の<I finally met my baby>に合わせ、Mia Scandalsから赤ちゃんのマネキンを受け取ったGYOZA。そんなGYOZAが立つ背景のスクリーンには「brat」の文字が。その「エヂカラ」は、もしかすると本人が狙っていた意図よりも大きなものをオーディエンスに与えていたのではないだろうか。
どんどん軽装に衣装チェンジするパフォーマンスから、自身の胸を自ら殴るパフォーマンスまで、終始神秘的な魅力に満ちたパフォーマンスを披露したGYOZA。その姿はN ²のMCどおり、私たちにポジティブな何かを与えてくれた。まさに「Bratきゅん」を象徴するステージだったように思う。
その後、CYBERHACKSYSTEM、OKAMOTOREIJIのDJパフォーマンスが行なわれ、本パーティーは興奮冷めやらぬなか幕を閉じた。
今年の夏にリリースされて以来、世界中を虜にしたCharli xcxの『Brat』。
チャーリーにとって、「ありのままの自分」「飾らない自分」などのポジティブな価値観の象徴である「ブラット」は、本来は「扱いにくい子ども」「悪ガキ」などを意味する言葉。アルバム『Brat』のリリース後に、既成概念や周囲の意見に左右されず、自分を愛し、自分らしく生きることを表現する言葉として使われるようになり、世界中でムーブメントにもなった。また、日常生活ではもっとカジュアルに「クール」「かっこいい」「イケてる」「やばい」といった意味で使われることもある。
本パーティーは、そんな「ブラット」の価値観を東京の混沌としたパーティーカルチャーのフィルターに通し、『きゅんです』のDNAを投入した、唯一無二で歴史に残るパーティーだった。
本パーティーが偶発的な面白さを意図的に作ることに成功した要因は、「CIRCUS TOKYO」という場所はもちろん、そのブッキングの独自性にあるだろう。そこで最後に、ブッキング担当者に今回のラインアップへの思いについて伺った。
「Bratリリースパーティーのオーガナイズにあたって、ミックスジャンルの音楽を楽しみながらジェンダーレスなゲストと触れ合える次世代型パーティー『きゅんです』にコラボオファーをさせて頂きました。世界的なムーヴメントとなっているブラットの世界観を、東京でも体現できたことに意義を感じています」(MIJ Quality Records 代表 久田耕平)
混沌もネガティブも寂しさも、すべてを蒸発させ、「ブラット」へと変えてくれた『きゅんです』とのコラボパーティー『Charli xcx - Brat and it’s completely kyundesu but also still brat - Release Party』。
一見するとカオスに見えるパーティーだが、そこには人々の思いがあり、熱があり、弱さがある。パーティーの必要性と意味を再認識させてくれた本パーティーは、その場にいた人々の胸に長く深く刻まれることだろう。
- リリース情報
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Charli xcx『Brat and it’s completely different but also still brat』
2024年10月11日 リリース
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