日本の夏の風物詩である盆踊り。もともとは先祖供養を目的とした民俗行事でしたが、時代の移り変わりとともに、夏祭りイベントとして日本の各地域に定着しました。
しかし、近年はそんな盆踊りカルチャーもやや下火に。少子高齢化やコミュニティーの希薄化とともに存続が危ぶまれている地域も少なくありません。
そんななか、いまの時代における盆踊りのあり方を模索し、あらたな地域コミュニティーづくりを実現しているのが、中野区大和町八幡神社の例大祭『大盆踊り会』。
地域の盆踊りに新しい風を吹き込み、老若男女が楽しめる「いまのカルチャー」として再生させたその取り組みとは? 2019年の祭りの様子をレポートします。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
「盆踊り」のアップデートをスタディストの岸野雄一さんがサポート
ドンドンドン。祭り会場の中央に立てられた「やぐら」の上で太鼓が打ち鳴らされ、夏の夜空に煌びやかな笛の音が小気味よく響く。
やぐらを中心に老若男女が円をつくり、太鼓と笛の音に合わせて歌い、踊る。日本の各地域で開催される夏祭りイベント「盆踊り」の情景です。
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近年では、少子高齢化やコミュニティーの希薄化とともに、お年寄りだけが集まるイベントとして形骸化している地域も少なくないという盆踊り。
求められているのは時代に合わせたアップデート。文化を守り、後世に継承していくためには、常に変化し続けなければなりません。
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そんななか、街中の老若男女が大勢集まり、生き生きとしたエネルギーに満ち溢れる盆踊り大会があります。それが、東京都中野区にある大和町八幡神社の例大祭『大盆踊り会』、通称DAIBON。
じつは年々踊り手が減少し続け、リニューアルする前は、踊りの輪もできないほどの寂しい光景だったそうですが、活気あるかつての祭りの姿を取り戻そうと、2016年にDJパフォーマンスやライブなどの演出を導入。すると一気に参加者が増え、縁日屋台の飲み物・食べ物が売り切れてしまうほどの盛況に。
その中心的役割を担ったのが、ヒゲの未亡人やワッツタワーズといった音楽活動のほか、東京藝術大学大学院や映画美学校で教鞭を執っていたこともある、音楽家 / 著述家の岸野雄一氏です。
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岸野雄一氏
多岐にわたる活動を包括する肩書として「スタディスト(勉強家)」を名乗る岸野さん。近年は全国各地で盆踊りのアップデートを手掛けており、『大盆踊り会』の進むべき方向性を示す水先案内人として、その知識と経験、豊かな発想力に白羽の矢が立ったのです。
多様な世代が混じり合って楽しめる『大盆踊り会』
2019年の『大盆踊り会』が開催されたのは、7月27日、28日の2日間。八幡神社はJR高円寺駅から徒歩約15分。夕方の住宅街を歩いていくと、遠くから祭りの音が少しずつ聞こえてきます。
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神社に到着し、まず目に飛び込んできたのは幾重にもなった大きな盆踊りの輪。輪をつくる顔ぶれを見ると、10代の若者からご年配の方まで、幅広い年齢層が踊りに参加していることがわかります。
『大盆踊り会』実行委員会の関さんによると、「『大盆踊り会』のコンセプトは、住民の方々、老若男女どなたにでも楽しんでもらうこと。そして、現代に合ったお祭りをみんなでつくり上げる体験を通して、住みやすい社会環境を実現すること」だそう。
特に気をつけているのは、街のみんなが参加すること。話題性のあるDJやアーティストによるパフォーマンスはあくまでもプログラムのひとつ。
出演アーティストによる盆踊りレクチャーもあるため、DJがかけるアップテンポな曲に合わせて、みんながレクチャーされた振り付けで踊り出す一幕も。「みんなでつくる、みんなで楽しむ」というコンセプトを象徴する印象的な場面でした。
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おみこしが地域を巡ったのち会場を練り歩きます
盆踊りで使われる曲は、会場となる幼稚園のオリジナル曲である『やはた音頭』、子どもたちに人気の『ドラえもん音頭』、盆踊りの定番である『炭坑節』『東京音頭』『花笠(はながさ)音頭』のほか、都はるみ『好きになった人』、水前寺清子『祭りになればいい』、西城秀樹『YOUNG MAN(Y.M.C.A.)』、電気グルーヴ『Shangri-La』など、幅広い世代に人気の曲がずらり。ここにも訪れた人みんなに楽しんでもらうための気配りが見て取れます。
盆踊りを彩る夜店のラインナップも特徴的。地元精肉店のコロッケや和菓子店のお菓子など地域からの出店に加え、中野区野方が本店のラーメン専門店『野方ホープ』や、露天チャイショップ『Siva's Linga』の屋台など、高円寺のカルチャーを感じる出店もずらり。『大盆踊り会』オリジナルグッズの販売コーナーもあります。
大盆踊り会オリジナルのカレーを提供するインド料理店や、各種カクテルを振る舞うバー、レコード、CD、Tシャツ、手づくり雑貨などユニークなお店が軒を連ね、どのお店もお客さんが途絶えません。
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神社に隣接した幼稚園や園庭も会場の一部となっており、園舎のなかでは、子ども向けお面づくりワークショップ「オモシロお面でレッツ盆ダンス!」、参道では台湾夜市の屋台ゲームなども。いたるところで子どもたちの楽しそうな笑い声が響いていました。
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子どもたちで賑わうお面づくりワークショップ
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出演アーティストのグッズ
地元にもこんな「夏祭り」がほしかった……!
実際に足を運んでみて感心したのは、『大盆踊り会』の絶妙な「バランス感覚」です。たしかにDJパフォーマンスやライブなどを取り入れれば、もの珍しさから若者たちが集まり、SNSでも話題になるでしょう。でも、それだけでは幅広い年齢層に受け入れてもらえません。
その点、『大盆踊り会』の演目である「メガヒッツ盆」では、誰もが知っている大ヒット曲をDJがプレイして、それに合わせて盆踊りが行われます。どんな世代の方でも楽しめる配慮がされており、「どうしたらいいの?」と戸惑っている人や、退屈している人の姿がほとんどありません。
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曲が次から次へと変わり、テンポが速くなっていく。Tシャツを汗でびっしょりと濡らしながら、みんなが手を取り合って、どんどん人の輪が広がっていく。「昔」と「今」をバランスよく融合させることで、老若男女誰もが楽しめる、まったく新しい盆踊りを完成させていたのです。
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八幡神社は住宅地のなかにあり、近隣住民たちの協力によって『大盆踊り会』は成立しています。
だからこそ、運営管理には力が入れられており、終了時間になるとピタッと音楽が止まります。近隣に人が溜まらないための案内・誘導も徹底されていました。
もちろん近隣以外の方が参加することも可能。新しい地域コミュニティーのかたちが生まれはじめている大和町の『大盆踊り会』。楽しいだけでなく、自分の地元にもあったらいいなと、少しうらやましくなるような体験になることでしょう。
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