2016年に一番愛された作品は? カルチャーランキングを発表

2016年も残すところあとわずか。CINRA.NETでは今回初めて、読者のみなさんの力をお借りして、音楽、映画、アート、ステージ、書籍の5ジャンルの年間ランキングを作りました。社会情勢が激動し、コンテンツ / カルチャー産業も大きな変化を求められている今だからこそ、既存の枠組みにとらわれず、より刺激的で創造性豊かな作品が生まれやすい時代です。そうしたなかで、様々なジャンルを横断的に楽しんでいるCINRA.NETの読者が作り上げたランキングは、売上ランキングとも、専門メディアのランキングとも違う、独自性の強い内容になりました。難し過ぎず、簡単過ぎず、やさしくて深い作品たち。各ジャンルの入門編にも最適な2016年のランキングをどうぞ。

2016年ランキング 音楽 / 映画 / アート / 演劇 / 書籍

【音楽編】世界的なトレンドをおさえる若手の台頭と、日本の音楽シーンを代表する大物の活躍

10位 KANDYTOWN『KANDYTOWN』

KANDYTOWN『KANDYTOWN』ジャケット
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総勢16名の東京の街を生きる幼馴染たちによるヒップホップクルー、KANDYTOWN。呂布、YOUNG JUJU、KIKUMARUらが所属し、それぞれのソロ活動も目立ちましたが、KANDYTOWNとしてリリースしたメジャー1stアルバムが第10位にランクイン。OKAMOTO'Sのオカモトレイジが、制作ディレクターとして参加しています。

9位 クリープハイプ『世界観』

クリープハイプ『世界観』ジャケット
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クリープハイプの4thアルバム。映画『脳内ポイズンベリー』の主題歌“愛の点滅”、明星「一平ちゃん 夜店の焼きそば」のCMソング“リバーシブルー”、ドラマ『そして、誰もいなくなった』の主題歌“鬼”など、お茶の間にまで響かせた楽曲が多数収録されています。ボーカルの尾崎世界観は、今年小説家デビューも果たし、その文学的感性を『祐介』(文藝春秋)でも発揮しました。

8位 RADWIMPS『人間開花』

RADWIMPS『人間開花』ジャケット
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今年は野田洋次郎の活躍が眩しかった! 映画『君の名は。』の主題歌“前前前世”や、“スパークル”のオリジナルバージョンも収録されている、RADWIMPSの8thアルバムが第8位にランクイン。初出場となる『紅白歌合戦』では、新海誠監督が編集したスペシャル映像が流れることも発表されています。

特集:野田洋次郎が語る、RADWIMPSと両輪をなすillionの再始動

7位 RADIOHEAD『A MOON SHAPED POOL』

RADIOHEAD『A MOON SHAPED POOL』ジャケット
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前作『The King Of Limbs』から、5年ぶりの新作となったRADIOHEADのフルアルバム。『SUMMER SONIC 2016』のヘッドライナーは、RADIOHEADとUNDERWORLDの2組が務めました。東京公演にて、日本では13年ぶりに“Creep”が演奏されたことも、現場を目撃していたオーディエンスを一層喜ばせました。

6位 サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』

サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』ジャケット
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名盤『東京』のリリースから20年。2016年の前半は『東京』のリマスタリング盤やボックスセットの発売、さらにはアルバム完全再現ライブで、その節目を祝しました。そして夏にリリースされた10枚目の新作『DANCE TO YOU』で、改めて、サニーデイ・サービスは20年間変わらずエバーグリーンなポップスを奏でてきた、オンリーワンな存在であることを証明。

特集:実は大ピンチだった曽我部恵一、レーベル休止も考えた制作を語る

5位 スピッツ『醒めない』

スピッツ『醒めない』ジャケット
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メジャーデビュー25周年である今年に発表された、15枚目のアルバム。『第58回日本レコード大賞』にて、優秀アルバム賞を受賞しています。CDジャケットに写る「モニャモニャ」と名付けられた動物には、全身を包んでくれるかのような温もりがあり、まさしくスピッツの音楽そのものを表しているかのようです。

4位 フランク・オーシャン『Blonde』

日本人ラッパー・KOHHの共演も話題になった、フランク・オーシャンの傑作。洋楽の作品としては、最も多くの票数を集めました。本作は、もともと配信リリースのみで発表されていましたが、突如オンラインショップにて、24時間限定でCDとアナログ盤が発売されたときに、世界中の音楽リスナーがサイトにアクセスしたことも印象的でした。

3位 METAFIVE『META』

METAFIVE『META』ジャケット
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高橋幸宏×小山田圭吾×砂原良徳×TOWA TEI×ゴンドウトモヒコ×LEO今井による、METAFIVEの1stアルバム。この「オールスター」とも言えるメンバーが集結して、本気で曲作りに取り組み、しかも年に2枚もアルバムをリリースしたことは、日本中の音楽リスナーにとって贅沢な驚きとなりました。

特集: METAFIVEインタビュー 幸宏、小山田らの比類なき最高峰バンド

2位D.A.N.『D.A.N.』

D.A.N.『D.A.N.』ジャケット
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D.A.N.の1stアルバムが、2位にランクイン。22歳という若き年齢で、この作品を完成させてしまった彼らの深き音楽愛と感性に、多くのミュージシャンや業界関係者までもが虜に。今後も日本のポップミュージックを更新していく存在として、大きな期待がかかります。2015年には『FUJIROCK』の新人登竜門ステージ「ROOKIE A GO-GO」に出演していましたがが、2016年にはRED MARQUEEに出演し、圧巻なステージを繰り広げていたこともメモリアル。

特集:注目新人D.A.N.、音楽が短命な時代に反旗を翻す22歳の快進撃

1位 宇多田ヒカル『Fantôme』

宇多田ヒカル『Fantôme』ジャケット
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2位に大差をつけ圧倒的な票数を獲得したのは、宇多田ヒカルの8年半ぶりのアルバム『Fantôme』。椎名林檎、KOHH、小袋成彬とのコラボレーションも、自身の母親を想って書いた言葉も、海外の音楽を浴びながら作り込まれたサウンドも、1曲1曲のすべての瞬間にエネルギーが漲っていて、とにかく感動的でした。オリコンチャートの週間CDアルバムランキングにて、4週連続1位を獲得。


総括
聴き慣れたポップミュージックではなく、新鮮味のある音楽や、その人にしか作り得ないようなオリジナリティーのある作品、なおかつ完成度の高いものを求めているCINRA.NET読者の想いが反映されたランキングと捉えることができます。

2016年の音楽シーン全体を見渡すと、一昨年~昨年くらいまでよく耳にした「4つ打ちロック」と言われるBPMの早いギターロックの流行は一旦落ち着き、ファンク・ジャズ・ヒップホップ・ソウルなどのブラックミュージックの要素を取り入れたポップスを鳴らすバンドが目立つようになりました。テレビ朝日にて放送されている『フリースタイルダンジョン』がブームとなり、「ラップ」や「フリースタイル」という言葉が、ヒップホップ好きなリスナーだけでなく、カジュアルに使われるようになったことも、2016年の特徴として挙げられそうです。

さらに、今年評価されたミュージシャンや、特に上位4位の作品に目を向けてみると、いよいよ「邦楽」「洋楽」という壁は崩壊しつつあり、世界レベルで評価され得るトレンド性と刺激があるクオリティーの高い音楽こそが、国内のリスナーにも求められているのでは、と思わせられます。

【映画編】社会現象も巻き起こした、今年のカルチャーシーンの顔ともいえる作品が上位に

10位 『FAKE』(監督:森達也)

『FAKE』 ©2016「Fake」製作委員会
『FAKE』 ©2016「Fake」製作委員会(オフィシャルサイトを見る

2014年、ゴーストライター疑惑で騒動を巻き起こした佐村河内守のドキュメンタリー映画。監督はオウム真理教を題材にしたドキュメンタリー『A』『A2』などを発表している森達也が務めています。

9位 『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(監督:デヴィッド・イェーツ)

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』ビジュアル ©2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』ビジュアル ©2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED(オフィシャルサイトを見る

『ハリー・ポッター』シリーズの約5年ぶりの新作。1926年のアメリカ・ニューヨークを舞台に、研究のために世界を旅している魔法学者ニュート・スキャマンダーの物語が描かれます。

8位 『リリーのすべて』(監督:トム・フーパー)

『リリーのすべて』ポスタービジュアル ©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
『リリーのすべて』ポスタービジュアル ©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

世界で初めて性別適合手術受けた画家リリー・エルベの実話をもとにした作品。監督は『レ・ミゼラブル』『英国王のスピーチ』を手がけたトム・フーパー、主演はエディ・レッドメイン。

7位 『ズートピア』(監督:バイロン・ハワード、リッチ・ムーア)

『ズートピア』 ©2015 Disney Enterprises, Inc.
『ズートピア』 ©2015 Disney Enterprises, Inc.(オフィシャルサイトを見る

『トイ・ストーリー』『アナと雪の女王』など数々のCGアニメーション映画を手掛けてきたジョン・ラセターが製作総指揮を務めた作品。ハイテクな文明社会であらゆる動物が平和に共存する大都会「ズートピア」が舞台となっています。

6位 『リップヴァンウィンクルの花嫁』(監督:岩井俊二)

『リップヴァンウィンクルの花嫁』ビジュアル ©RVWフィルムパートナーズ
『リップヴァンウィンクルの花嫁』ビジュアル ©RVWフィルムパートナーズ(オフィシャルサイトを見る

岩井俊二の約4年ぶりとなる実写監督映画。原作・脚本も岩井が手がけ、執筆には4年半の歳月を要したそう。主演を黒木華が務めたほか、綾野剛、Coccoらが共演に名を連ねています。

5位 『シング・ストリート 未来へのうた』(監督:ジョン・カーニー)

『シング・ストリート 未来へのうた』ポスタービジュアル ©2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
『シング・ストリート 未来へのうた』ポスタービジュアル ©2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved(オフィシャルサイトを見る

『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』などのジョン・カーニーが監督を務めた作品。アイルランド・ダブリンを舞台に、憂鬱な毎日を送る14歳の少年が街で一目惚れした少女を振り向かせるためバンドを結成し、奮闘する姿が描かれます。

4位 『君の名は。』(監督:新海誠)

『君の名は。』イメージビジュアル ©2016「君の名は。」製作委員会
『君の名は。』イメージビジュアル ©2016「君の名は。」製作委員会(オフィシャルサイトを見る

『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などの作品を手掛けた新海誠の新作。声優陣には神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみらが名を連ね、劇中音楽をRADWIMPSが担当したことでも話題に。世界90か国以上の国と地域で配給が決定し、アニメの『アカデミー賞』とも言われる『アニー賞』にもノミネートされています。

3位 『怒り』(監督:李相日)

『怒り』ポスタービジュアル ©2016映画「怒り」製作委員会
『怒り』ポスタービジュアル ©2016映画「怒り」製作委員会(オフィシャルサイトを見る

吉田修一の同名小説をもとにした作品。「怒」という血文字を残したまま未解決となった殺人事件から1年後を舞台に、千葉、東京、沖縄にそれぞれ現れる前歴不詳の3人の男と交流する人々が描かれています。また、音楽を坂本龍一が担当していることでも話題となりました。

2位 『この世界の片隅に』(監督:片渕須直)

『この世界の片隅に』ビジュアル ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
『この世界の片隅に』ビジュアル ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会(オフィシャルサイトを見る

こうの史代原作のアニメ映画。主人公・すずの声を、今年「能年玲奈」から改名した「のん」が担当したことでも話題となりました。第二次世界大戦中の広島・呉を舞台に戦火に包まれていく日常の中で、日々を大切にしながら生きるすずの姿が描かれています。

特集:のん主演『この世界の片隅に』の立役者 コトリンゴインタビュー

1位 『シン・ゴジラ』(監督:庵野秀明、樋口真嗣)

『シン・ゴジラ』 ©2016 TOHO CO.,LTD.
『シン・ゴジラ』ビジュアル ©2016 TOHO CO.,LTD.(オフィシャルサイトを見る

東宝が約12年ぶりに製作した『ゴジラ』の新作映画。庵野秀明が脚本および総監督を、樋口真嗣が監督および特技監督を務めています。長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、市川実日子らをはじめ、総キャスト数は328人にものぼる大作。「発声可能上映」が開催されるなど社会現象にもなりました。


総括
『シン・ゴジラ』『この世界の片隅に』『君の名は。』といった、今年大きな話題を呼んだ邦画作品が上位を占めるという結果に。今年は例年に比べ、邦画が豊作の年だったと振り返ることができるかと思います。

傾向としては、『シン・ゴジラ』や『君の名は。』など、震災以降の日本社会やリアルに接続したメッセージを孕ませながら映画としての高い表現力を併せ持った作品が、映画好きのみならず一般にも評価されたと分析することができそうです。また、今年の興行収入ランキングでダントツの1位を記録している『君の名は。』を抑え、高い作品性で評価された『怒り』が3位をマークしたということも、興味深い結果でした。

洋画について見てみると、ディズニー作品である『ズートピア』、『ハリー・ポッター』シリーズの最新作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』といった話題作がランクインする一方、ミニシアター系の作品である『シング・ストリート 未来へのうた』が多くの票を集めたのも印象的です。また、『リリーのすべて』『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』というエディ・レッドメイン主演作が2本トップ10入りしているのも、特筆すべき点ではないでしょうか。

なお11位以下は、西川美和『永い言い訳』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ『レヴェナント: 蘇えりし者』、山戸結希『溺れるナイフ』が続きました。

【アート編】さらに注目を集める大規模芸術祭と、満を持して開催された大型個展

10位 ライアン・マッギンレー展『BODY LOUD!』(東京オペラシティアートギャラリー)

ライアン・マッギンレー『Taylor (Black & Blue)』Cプリント 2012 ©Ryan McGinley Courtesy the artist and Tomio Koyama Gallery
ライアン・マッギンレー『Taylor (Black & Blue)』Cプリント 2012 ©Ryan McGinley Courtesy the artist and Tomio Koyama Gallery

「アメリカでいま最も重要な写真家」と称されるスター写真家、ライアン・マッギンレーの日本の美術館では初めての個展。展示室の壁面一面を覆い尽くした『イヤーブック』と題されたインスタレーション作品はSNSでも多く共有されていました。

10位 『瀬戸内国際芸術祭 2016』

『瀬戸内国際芸術祭2016』メインビジュアル
『瀬戸内国際芸術祭2016』メインビジュアル

2010年にスタートして以降、3年に1回開催されている『瀬戸内国際芸術祭』。今回は会期を春、夏、秋の3期に分け、瀬戸内海に浮かぶ12の島と高松港周辺、宇野港周辺を舞台に広範にわたり開催されました。会期中にはアートに限らず『「円都空間 in 犬島」produced by Takeshi Kobayashi』などの音楽イベントが開催されたことでも話題を集めました。

特集:『瀬戸内国際芸術祭』で現実になったスワロウテイルの円都レポ

9位 『生誕300年記念 若冲展』(東京都美術館)

『生誕300年記念 若冲展』チラシビジュアル
『生誕300年記念 若冲展』チラシビジュアル

85歳で逝去するまでに、動植物を描いた作品をはじめ、水墨画、彩色画、木版画など、多岐にわたる作品を手掛けた伊藤若冲。その若冲の生誕300年を記念して、初期から晩年までの作品約80点が展示されました。また今年は京都府の細見美術館や京都市美術館でも展覧会が開催されるなど、伊藤若冲の一大ブームの年でもありました。

8位 『村上隆の五百羅漢図展』(森美術館)

村上隆『五百羅漢図』[白虎](部分)2012年 個人蔵© 2012 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
村上隆『五百羅漢図』[白虎](部分)2012年 個人蔵© 2012 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

2001年以来、日本国内では実に14年ぶりとなった村上隆の大規模個展。東日本大震災を契機に制作された全長100メートルにおよぶ大作絵画『五百羅漢図』や、約10年の歳月をかけて制作された大型彫刻『宇宙の産声』などが展示されました。次いで会期を重複して横浜美術館にて『村上隆のスーパーフラット・コレクション』展も開催され、現代美術家・村上隆の世界に触れる機会が多かった年でもありました。

7位 『岡山芸術交流 2016』

リアム・ギリック《開発》2016 / Courtesy of the artist and TARO NASU, Tokyo / © Okayama Art Summit 2016 / Photo:Yasushi Ichikawa
リアム・ギリック《開発》2016 / Courtesy of the artist and TARO NASU, Tokyo / © Okayama Art Summit 2016 / Photo:Yasushi Ichikawa

昨年岡山市で行なわれた現代アート作品展『Imagineering OKAYAMA ART PROJECT』を規模・内容ともに進化させたものとして開催されました。アーティスティックディレクターをイギリス現代美術を代表するアーティスト、リアム・ギリックが務めたことでも注目を集めた本展。その展示作品のレベルの高さは大きな話題となりました。

特集: 芸術祭とは言いません。『岡山芸術交流』が独自路線をいく理由

6位 『あいちトリエンナーレ2016』

大巻伸嗣『Echoes-Infinity』「MOMENT AND ETERNITY」Third Floor-Hermès Singapore 2012 Created with the support of the Fondation d'entreprise Hermès for Third-Floor Hermès Gallery -Singapore 2012.
大巻伸嗣『Echoes-Infinity』「MOMENT AND ETERNITY」Third Floor-Hermès Singapore 2012 Created with the support of the Fondation d'entreprise Hermès for Third-Floor Hermès Gallery -Singapore 2012.

現代アートの展覧会や映像プログラムに加えて、ダンス、オペラなどの舞台芸術も楽しむことができるアートの祭典。今年で3回目を迎えた本展は「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」というテーマのもと、前回よりも幅広い国や地域からアーティストが集結し、会期中盤からはパフォーミングアーツの公演を集中的に行なうなど、特色あるプログラムを展開しました。

5位 『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭』

落合陽一(Yoichi OCHIAI)『コロイドディスプレイ』2012/2016
落合陽一(Yoichi OCHIAI)『コロイドディスプレイ』2012/2016

今年初開催となった茨城の県北にある6市町を舞台にした国際芸術祭。南條史生が総合ディレクターを務め「海か、山か、芸術か?」というテーマのもと広大な自然を舞台に、国内外約80組のアーティストがアートと科学・技術の実験を行ない、最先端の表現を鑑賞できる場となりました。

特集: 「人間らしさ」すら変わるかも。未来を示唆する芸術×科学最前線

4位 Chim↑Pom『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』

『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』フライヤービジュアル
『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』フライヤービジュアル

国内では約3年ぶりのChim↑Pomの大規模な新作個展。解体が予定されている歌舞伎町のビルの地上4階から地下1階までを使用したプロジェクトは話題を集めました。会期終了後もChim↑Pomの展示作品群は撤去されずに、「全壊する展覧会」として現在も進んでいるビルの建て壊しに伴って破壊されています。解体後は作品の残骸を拾い集めて、プロジェクト第2弾となる個展を来年初頭に東京・高円寺のGarterで開催予定となっています。

特集:Chim↑Pomが熱弁する結成からの10年と「全壊する個展」の意義

3位 『ダリ展』(国立新美術館、京都市美術館)

サルバドール・ダリ『奇妙なものたち』 1935年頃 40.5×50.0cm 板に油彩、コラージュ ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵 Collection of the Fundació Gala-Salvador Dalí, Figueres © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan,2016.
サルバドール・ダリ『奇妙なものたち』 1935年頃 40.5×50.0cm 板に油彩、コラージュ ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵 Collection of the Fundació Gala-Salvador Dalí, Figueres © Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan,2016.

日本では約10年ぶりとなるダリの大規模な回顧展。1900年代前半の初期作やシュルレアリスム時代、アメリカ亡命時代から晩年の作品までを網羅した本展では、絵画や彫刻だけにとどまらず、宝飾品や書籍なども展示され、ダリの世界観が多角的に紹介されました。

2位 『トーマス・ルフ展』(東京国立近代美術館、金沢21世紀美術館)

トーマス・ルフ『cassini 10』2009年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
トーマス・ルフ『cassini 10』2009年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

現代アートと写真の垣根を超え、世界的に評価されているアーティスト、トーマス・ルフの待望の日本初回顧展。友人を写した大判カラーのポートレートや建築写真、夜空を捉えた作品や、自身で撮影を行なわずに、インターネット上で収集した画像を再構築した近年の作品シリーズなど、初期作品から新作まで100点以上が展示されました。現在は金沢21世紀美術館にて2017年3月12日まで開催しているので、お見逃しなく。

1位 『杉本博司 ロスト・ヒューマン』(東京都写真美術館)

杉本博司『廃墟劇場』2015年(展示風景) ©Sugimoto Studio
杉本博司『廃墟劇場』2015年(展示風景) ©Sugimoto Studio

2014年9月から大規模改修に伴う約2年間の休館を経て、今年9月にリニューアルオープンした東京都写真美術館のこけら落としとなった『杉本博司 ロスト・ヒューマン』展。『ロスト・ヒューマン』『廃墟劇場』『仏の海』の3つの作品シリーズが展示されました。中でも作家の収集した物で構成された文明の廃墟のような『ロスト・ヒューマン』の展示空間は、本格的な写真展を期待した来場者に大きなインパクトを与えたのではないでしょうか。

特集:太賀がリニューアルした写真美術館へ。杉本博司展に圧倒される


総括
今年は3年に1度となる『瀬戸内国際芸術祭2016』と『あいちトリエンナーレ2016』の2大トリエンナーレが開催され、さらに『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭』『岡山芸術交流』が加わって「芸術祭の年」といっても過言ではないほど、芸術祭でスケジュールが埋め尽くされた1年となりました。

そんな中でも、数年ぶりに日本で個展を開いた村上隆の『村上隆の五百羅漢図展』や、Chim↑Pomの『また明日も観てくれるかな?』がランクインしており、アーティストの注目度の大きさがうかがえます。

さらに今年は、杉本博司、トーマス・ルフ、ライアン・マッギンレーと、国際的に活躍する写真家の展覧会が開催されたことも特色となりました。他にも若手写真家・奥山由之が話題になるなど、日常生活の中で写真を撮ることが当たり前になった時代に、改めて「写真を通したイメージ」への注目度が高まっているのかもしれません。

【演劇編】笑いとシリアス、アイロニーどれも色鮮やかで濃密な作品が並んだ2017年の演劇シーン

10位 劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』再演

劇団鹿殺し『image – kill the king -』ビジュアル
劇団鹿殺し『image – kill the king -』ビジュアル

2016年に活動15周年を迎え、記念公演として『キルミーアゲイン』『名なしの侍』を上演してきた劇団鹿殺し。『image-KILL THE KING-』は2003年に初演された作品で、地球人の滅亡と更生を目的とした宇宙人や、反旗を翻した人造人間などが登場する「妄想系SFカルト劇」です。

特集:中村勘九郎と鹿殺しの叫び「面白いものを作りたいだけなのに!」

9位 岡田利規×森山未來パフォーマンスプロジェクト『in a silent way』

森山未來 ©Miyamoto Takeshi
森山未來 ©Miyamoto Takeshi

『瀬戸内国際芸術祭2016』夏会期の参加プログラムで、直島のベネッセハウス ミュージアムにあるシリンダー状の特殊な空間で、一人の革命家が声を発し始めるというパフォーマンス。岡田と森山がコラボレーションするのはこれが初めてで、直島に滞在し制作が行なわれました。

8位 カミーユ・ボワテル『ヨブの話―善き人のいわれなき受難 L'homme de Hus』

カミーユ・ボワテル『ヨブの話―善き人のいわれなき受難 L'homme de Hus』ビジュアル
カミーユ・ボワテル『ヨブの話―善き人のいわれなき受難 L'homme de Hus』ビジュアル

フランスを拠点に活動するコンテンポラリーサーカスのパフォーマー、カミーユ・ボワテルの処女作。旧約聖書の『ヨブ記』にインスピレーションを受けて作られた作品で、ある男が様々な災難に見舞われる様が描かれます。2003年の初演から「この作品を二度と上演しないと心に誓っていた」という本作が十数年ぶりに再演されました。

特集:サーカスの概念を覆す「現代サーカス」の気鋭カミーユ・ボワテル

7位 ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』

ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』ビジュアル
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』ビジュアル

将棋サロンやゲームセンターがある「おっさん天国」こと、大阪・新世界を舞台にしたSF作品。「おっさん」がドローンと戦ったり、ロボットアームに王手飛車取りを迫られたり、ホログラフィの娘と言い合いしたりする世界が描かれます。作・演出を手掛けるのはヨーロッパ企画主宰の上田誠。音楽はキセルが担当しました。

6位 ハイバイ『おとこたち』再演

ハイバイ『おとこたち』ビジュアル
ハイバイ『おとこたち』ビジュアル

2014年初演の同作は、境遇の異なる男性4人の人生を描いた作品。サラリーマンや紹介予定派遣労働者、知人のがん治療などへの取材を通して、「老い」「認知症」「人生の幸福度」「社会」をテーマに制作された「ハイバイ流の大河ドラマ」。再演版には、劇団サンプルの主宰・松井周も新たに参加しました。

5位 阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』再演

阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』ビジュアル
阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』ビジュアル

2016年に20周年を迎えた阿佐ヶ谷スパイダース。2004年初演の本作では、幻のリンゴを作り出す夢に破れた男たちが、若い女が運び込んだ「幸運の液体」を手にしたことをきっかけに、リンゴ栽培を再開させようと暴走していく様を描きました。再演版には初演時の出演者が再集結。さらに北浦愛が出演しました。

4位 『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』

『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』ビジュアル
『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』ビジュアル

2007年の『犯さん哉』、2011年の『奥様お尻をどうぞ』に続くケラリーノ・サンドロヴィッチと古田新太のコラボレーション企画の第3弾。古田のほか、成海璃子、賀来賢人らが出演しました。ケラリーノ・サンドロヴィッチ曰く、タイトルは映画『ヒトラー~最期の12日間~』をスケールアップしてみた、という一作。

3位 維新派『アマハラ』

維新派『アマハラ』ビジュアル
維新派『アマハラ』ビジュアル

2010年に「20世紀三部作」のアジア篇として上演した『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』を再構成した作品で、日本とアジアの国を繋ぐ「海の道」を辿った人々の物語が、史実を織り交ぜながら描かれました。今年6月に逝去した松本雄吉が率いた維新派の最後の公演となり、平城宮跡で野外上演されました。

特集:賢い人がバカをいじめる時代に叛逆した、演出家・松本雄吉の半生

2位 『大パルコ人3 ステキロックオペラ「サンバイザー兄弟」』

『大パルコ人3 ステキロックオペラ「サンバイザー兄弟」』メインビジュアル
『大パルコ人3 ステキロックオペラ「サンバイザー兄弟」』メインビジュアル

宮藤官九郎が作・演出を手掛ける「大パルコ人」シリーズの第3弾。キャストには、瑛太、増子直純(怒髪天)、三宅弘城、皆川猿時、りょうらが名を連ねているほか、宮藤も自ら出演。上原子友康(怒髪天)が「ステキロックオペラ」を彩る音楽を担当しました。

1位 NODA・MAP『逆鱗』

NODA・MAP『逆鱗』メインビジュアル
NODA・MAP『逆鱗』メインビジュアル

野田秀樹率いるNODA・MAPの新作公演。沈没船で人間と交わした約束を果たすため、人間のふりをして地上に現れた人魚が、海中水族館の「人魚ショー」で人魚のふりをした人間と出会うことから始まる物語。7年ぶりにNODA・MAPの公演に出演した松たか子をはじめ、瑛太、井上真央、阿部サダヲらが出演しました。


総括
演劇部門は合計99作品に投票があり、素晴らしいステージがたくさんあったことを強く実感する結果になりました。ケラリーノ・サンドロヴィッチ×古田新太のコラボ企画、宮藤官九郎の「大パルコ人」など、シリーズもののランクインが目立った印象。

各界で偉大な功績を残した巨匠たちが亡くなった2016年でしたが、演劇界でも蜷川幸雄や維新派の松本雄吉が逝去。松本は生前、平城宮跡について「身体に空間の広がりと時間の深遠を強く認識させる場所」と語っていたとのことで、2017年には3位にランクインした『アマハラ』の海外公演も予定されているそう。

1位に輝いたNODA・MAP『逆鱗』については、年始に上演された作品でしたが2016年を総括してダントツで1位となりました。「舞台を今まで見たことのない方が最初に見るのがNODA・MAPだったらすごく驚くと思う」とキャストの阿部サダヲも本作のトレーラー映像でコメントしています。演劇初心者の方は、2017年にぜひNODA・MAPで新たな驚きを感じてほしいです。

また、ライターの島貫泰介は2016年を「都市型演劇祭の定着を強く感じる1年」と評しています。特に今年1月にリニューアルオープンしたロームシアター京都をベースとして春と秋に開催された『KYOTO EXPERIMENT』について、「演劇が本質的に持っている『公共・社会との関わり』を実践的に考える場となる劇場空間が京都中心部に立ち上がったことは、可能性の拡張として歓迎したいと思います」とコメント。

それに対して、独自の国際的なネットワークを結びながら、劇場に依存しない試みにチャレンジしている特定非営利活動法人「芸術公社」を例に挙げ、「よりインディペンデントな活動でも興味深い動きがありました」と言及しています。こういった2016年の動向から、「個々の作品の完成度を高めるだけでなく、もっと広範に、もっと多角的に芸術と社会の関わりを考えなければならない、というクリエイターたちの共通認識」が見えてくること、そして「それは来年以降さらに加速するのではないかと思います」と2017年への期待を寄せています。

【書籍編】音楽ジャーナリズムや、日常の機微を繊細に捉えたエッセイに注目が集まる

10位 宇野維正『くるりのこと』

宇野維正『くるりのこと』表紙(新潮社)
宇野維正『くるりのこと』表紙(新潮社)(Amazonで見る

2016年にバンド結成20周年を迎えたくるり。ジャーナリストの宇野維正が、オリジナルメンバーの岸田繁と佐藤征史にロングインタビューを実施し、知られざる苦悩や歴史を解き明かした一冊です。

9位 東村アキコ『東京タラレバ娘』

東村アキコ『東京タラレバ娘(6)』表紙(講談社)
東村アキコ『東京タラレバ娘(6)』表紙(講談社)(Amazonで見る

33歳独身の脚本家・鎌田倫子が、親友の香、小雪と共に「タラレバ」ばかりを言って女子会を繰り返していたところ金髪の若い男と出会い、それをきっかけに、もがきながらも現実と向き合っていくというあらすじ。2017年1月から、吉高由里子主演、Perfume主題歌でドラマ化が決定しています。

8位 海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』

海のつなみ『逃げるは恥だが役に立つ(8)』表紙(講談社)
海のつなみ『逃げるは恥だが役に立つ(8)』表紙(講談社)(Amazonで見る

派遣切りにあった主人公の森山みくりが、会社員・津崎平匡の家事代行として働き始め、やがて「就職先」として津崎と契約結婚するというストーリー。2016年10月から実写ドラマが放映され、みくり役を新垣結衣、津崎役を星野源が好演。星野源による主題歌 “恋”を登場人物たちで踊る「恋ダンス」も大きな話題を呼び、多数の「踊ってみた」動画が生まれるなど、社会現象となりました。

7位 川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』

川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』表紙(講談社)
川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』表紙(講談社)(Amazonで見る

『センセイの鞄』『蛇を踏む』などの作品によって数々の受賞歴を持つ川上弘美が、人類が滅亡の危機に瀕した、遠く遙かな未来を舞台に織りなす壮大な神話的世界。詩的で幻想的な空気感をたたえながらも、アクチュアルなテーマが問われている本作は、その完成度と同時代性において今年を代表する重要作品と言えるのではないでしょうか。

6位 スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』

スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』
スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』表紙(早川書房)(Amazonで見る

「海賊版の世代」である著者が、5年の歳月をかけて「音楽をタダにしたのは誰か?」を取材したノンフィクション。田舎の工場で発売前のCDを盗んでいた労働者、mp3を発明したオタク技術者、業界を牛耳る大手レコード会社のCEOなど、「CDが売れない時代を作った張本人たち」の奮闘記は、極上のフィクションさながらに惹き込まれます。

5位 柴那典『ヒットの崩壊』

柴那典『ヒットの崩壊』表紙(講談社)
柴那典『ヒットの崩壊』表紙(講談社)(Amazonで見る

CDの売り上げが落ちる一方でライブやコンサートの市場が拡大し、音楽ストリーミングの普及も進むなど、激動の時代を迎えている現在の音楽シーン。音楽ジャーナリスト・柴那典が、小室哲哉や水野良樹(いきものがかり)、音楽業界のキーパーソンらへ取材を通して、精緻な裏付けを積み重ねて「新しいヒットの方程式」を探り、未来への指針を紐解いたルポタージュ。

4位 羽海野チカ『3月のライオン』

羽海野チカ『3月のライオン(12)』表紙(白泉社)
羽海野チカ『3月のライオン(12)』表紙(白泉社)(Amazonで見る

幼い頃に家族を失い、孤独を抱えて生きてきた17歳のプロ棋士・桐山零が、同じ下町に住む川本あかり、ひなた、モモの3姉妹との出会いをきっかけに再生していく成長物語。2017年3月には主演に神木隆之介を迎え、2部作での実写映画化が決定しています。

3位 村田沙耶香『コンンビニ人間』

村田沙耶香『コンンビニ人間』表紙(文藝春秋)
村田沙耶香『コンンビニ人間』表紙(文藝春秋)(Amazonで見る

36歳未婚、これまで彼氏なし。18年間コンビニでバイトを続ける女性の生き方を通して、「普通とは何か?」を問うさまは、既存のあり方を独創的かつ真摯に疑う村田文学の真骨頂。作者が現役コンビニ店員であるという話題性や、作家仲間から「クレイジー沙耶香」と呼ばれるキャラクター性(本人は否定しているとのこと)も相俟って、一躍時の人に。『第155回芥川賞』受賞作。

2位 植本一子『かなわない』

植本一子『かなわない』表紙(タバブックス)
植本一子『かなわない』表紙(タバブックス)(Amazonで見る

写真家・植本一子が、夫であるラッパー・ECDと2人の娘と過ごす日々を綴った『働けECD~わたしの育児混沌記』から5年。震災後の不安を抱きながらの生活、育児への葛藤、生きづらさ、そして新しい恋愛などを日記と散文で綴った本作は、2014年に著者が自費出版した同名冊子を中心に構成されたもの。淡々と、読み手の感情と記憶に揺さぶりをかける筆致が圧倒的な一作。

1位 近藤聡乃『A子さんの恋人(3)』

近藤聡乃『A子さんの恋人(3)』表紙(KADOKAWA)
近藤聡乃『A子さんの恋人(3)』表紙(KADOKAWA)(Amazonで見る

29歳のA子を中心に、半人前の大人たちが繰り広げる「難あり」な恋愛を描く『A子さんの恋人』。東京とニューヨークの男子を両天秤にかける三角関係の行方はもちろん、ああでもない、こうでもないと悩む登場人物たちのリアリティーが大きな共感を呼びました。『ガロ』に影響を受け、現代アーティストとしても活躍する作家の絵力も大きな魅力です。


総括
書籍に関しては、大きく3つの傾向が見える結果に。まずは、『ヒットの崩壊』や『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』など、変革の時を迎えている音楽シーンをテーマにした作品群。『逃げるは恥だが役に立つ』『東京タラレバ娘』などは、映像化による原作の注目度がランキング結果に影響した例。そして上位には、『A子さんの恋人』『かなわない』のように、人のダメな部分を怖じけずリアルに描くことで、これまで主役として語られることの少なかった、ある種の生きづらさを抱える人々の心を捉えた作品がランクインしました。

ベストセラー作品と比較すると、ジャーナリズムや、生き方そのものに対して新たな視点や心地よさを与えてくれるような作品が好まれていたことから、情報が行き交うこの時代を生きる術として、本によすがを求めている部分があるのかもしれません。



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