Banksyの新作がヨーロッパ最大級の文化施設付近に出現
9月18日、覆面アーティスト・Banksyの新作壁画がロンドンに突如現れた。
ロンドン中心部にある文化施設・バービカンセンター近くのトンネルの壁に描かれたのは2作品。いずれも9月21日から同館で開催されている、イギリスでは20年以上ぶりとなるジャン=ミシェル・バスキアの展覧会にあわせて公開されたようだ。
1つ目の作品は観覧車と、その観覧車に乗ろうと列をなす人々を描いたもの。ただし普通の観覧車ではなく、乗りカゴがバスキア作品ではおなじみの王冠になっている。
両手をあげた人物が警察に取り調べを受けている様子を描いたもう1つの作品は、よりあからさまなバスキアへのオマージュになっている。中央の人物とそれを見守る犬は、バスキアの代表作の1つである『Boy and dog in a Johnnypump』に描かれた人物と犬と一致する。
警官に「歓迎」されるバスキア――オマージュに留まらない作品に込められた意図を探る
これらの作品はバスキアに影響を受けたBanksyが、バスキアの大回顧展を祝福するために公開した単なるオマージュ作品なのだろうか?
Banksyといえば、これまでも突如として「悪夢」のテーマパーク「Dismaland」を街に出現させたり、パレスチナとイスラエルの分離壁の目の前に「世界最悪の眺め」を持つホテルをオープンしたりと、予想もつかない表現で現代社会が抱える問題を風刺しながら世界を挑発し続けてきたアーティスト。自身と同じ偉大なグラフィティアーティストでもあったバスキアへの敬意を込めたトリビュート作の意味合いは含んでいるとしても、それ以上の意図が込められていることは明らかだ。
バービカンでの新作についてBanksyは自身のInstagramに複数のポストを投稿。観覧車の作品については「いつも壁に描かれたグラフィティを消すのにとても熱心なバービカンで、バスキアの大規模な展覧会が始まる」とのキャプションを記した。
また『Boy and dog in a Johnnypump』をオマージュした作品については、「ロンドン警察に歓迎されているバスキアのポートレート―バスキアの展覧会との(非公式な)コラボレーション」と書いた。ここで描かれている、取り調べを受けている人物はバスキアを表しているのだ。
ハイチ系移民の父親とプエルトリコ系移民の母親を持つバスキアは、白人中心のアート界でスターとなった初の黒人アーティストとも言われている。両手をあげて無抵抗の態度を示す人物を2人の警官が囲んで身体検査する様子は、昨今アメリカで相次いで発生している白人警官による黒人の射殺事件を連想させる。アメリカでは白人男性に比べて黒人男性が職務質問を受ける確率が高く、捜査におけるレイシャルプロファイリングに批判の声が上がっている。80年代ニューヨークのアートシーンにおけるアイコンだったバスキアも、もし現代に生きていたとしたら白人警官の理不尽な暴力の対象になっていたのかもしれない――この作品からはそんなメッセージも読み取れる。
「グラフィティを消すのに熱心」なはずのバービカンは作品の保護を検討
「The Art Newspaper」の記事によれば、バービカン・センターではこれらのBanksyの作品について保存も含めた取り扱い方針の議論がなされているという。作品の1つは、バービカンの落書きへの不寛容ポリシーをあざ笑うかのごとく、施設への道筋を示す標識をあえて上書きするように描かれている。いかなるグラフィティもすぐ消されるはずのバービカン・センターだがBanksyとなれば話は別、ということだろうか。事実、現在は2作品とも透明のパネルで保護されている。
バービカン・センターで行われているバスキアの展覧会では、100点以上の多彩な作品に加え、貴重なアーカイブ映像や写真、資料が展示されている。膨大な展示品から、アーティストであり、詩人、DJ、ミュージシャンとしての顔も持ちながら27歳で生涯を閉じた作家の、短くも多彩なキャリアを総括する展覧会だ。
バスキアの展覧会『Boom For Real』の会場風景 / © Tristan Fewings / Getty Images, Artworks: © The Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed
by Artestar.
バスキアの展覧会『Boom For Real』の会場風景 / © Tristan Fewings / Getty Images, Artwork: Jean-Michel Basquiat, A Panel of Experts, 1982, Courtesy The Montreal Museum of Fine Arts. © The Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New Yorkby Artestar.
Banskyと同様にストリートアートから活動を始めたバスキアは、自身の表現を通して人種や格差の問題などに対峙した。アンディ・ウォーホルやキース・ヘリングらとの交流でも知られるバスキアとは対照的にその素性はいまだ謎に包まれるBanksyもまた、社会問題に鋭い眼差しを向け、ブラックユーモアと痛烈な批評性を含む作品を世界各地に出現させている。
人種差別、権力の濫用、格差など、両者が作品を通して言及してきた問題は共通点が多い。それはバスキアの死から30年が経とうとしている今も、社会の抱える課題は変わらず山積しているということなのかもしれない。
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