不幸をユーモアで吹き飛ばす漫画家のルーツとは?
どこかで見たことがあるかもしれない。そのカラフルな色使いと可愛らしいキャラクター。しかし、実際にそこで描き出されているのは、現代社会に対する強烈なアイロニーだ。スペイン・バルセロナ出身の漫画家 / イラストレーターのホアン・コルネラがいま、世界に静かな衝撃を与えている。今回、日本で初の個展が開かれる彼に、CINRA. NETは独自のメールインタビューを敢行。そのコメントを交えながら、彼の創作のルーツを探る。
コルネラ:ずっとコメディーには興味がありました。モンティ・パイソン、ルイス・C・K、ビル・ヒックス、サラ・シルバーマンといったコメディアンが好きで、初めてイギリスのコメディー番組『空飛ぶモンティ・パイソン』を見たときは、ものすごい衝撃を受けて。イギリスのコメディーは、本当に素晴らしい。中でも、リッキー・ジャーヴェイス、スパイク・ミリガンなどが好きですね。もちろん、漫画やグラフィックユーモアにも強く影響を受けました。たとえば、ダークコメディーの先駆者、チャールズ・アダムスですね。
歯に衣着せぬ辛辣なジョークや、過激な笑いでときに物議を醸す、英米の著名なコメディアンたち、そして日本では『アダムス・ファミリー』の生みの親として知られる巨匠チャールズ・アダムスの名をつらつらと挙げるコルネラ。殺人や自殺、人種差別や薬物など、ポップとは言い難いモチーフを描きながら、現代社会に生きる我々の悲喜こもごもをカリカチュアした形で提示する彼は、自身の作品を評するときに用いられる「風刺」や「ブラックユーモア」という言葉に対して、次のように考えているという。
コルネラ:地球上にはブラックユーモアの長い歴史が存在します。「ギャロウスユーモア」(絞首台に立つような絶望的な状況で発せられるユーモア。ブラックユーモアの起源とも言われる)は、ユダヤ人からイギリス人まで、多くの文化に見られます。この種のユーモアは、ほとんどすべての私の作品に含まれています。
私の作品が評価される理由は、作品の不条理さからだと思います。フランスの劇作家サミュエル・ベケットの作品の中に、「不幸よりも楽しいことは何もない」というフレーズがありますが、それは真実だと思います。死は、いつどうやって直面するかわからないものであり、そのとき、我々は笑うか泣くかしかないのです。
6コマ漫画のような作品で知られる彼の絵には、年代や性別、さらには人種もバラバラな人々が数多く登場する。しかし、それらの人々は、いずれもみな同じ表情だ。黒い点で描かれた瞳、おどけた眉、そして口角の上がった口元。ある種、画一的とも言えるそれらの表情には、どんな意味が込められているのだろうか?
コルネラ:アメリカの古い広告に関係があります。当時アメリカでは、広告に無表情と偽りの笑顔のグラフィック漫画が使われていました。私はそれを漫画に取り入れたのです。彼らには魂がありません。広告のキャラクターは虚偽性が高いゆえに、アメリカと他国の消費主義を表しているように見えます。無表情な彼らの中に、私はある種のサイコパスを感じるのです。
スペインのアーティストがSNSを通じて拡大した、東アジアでの人気
SNS上で次々と作品を発表し、人気と知名度を獲得してきた、新しいタイプのアーティスト、ホアン・コルネラ。2016年9月には、アメリカの人気バンド、WILCOのアルバム『SCHMILCO』のアートワークを手掛け、さらに多くの人に知られることになった。
WILCO『SCHMILCO』のアートワークとして使用されたホアン・コルネラの作品
12月1日(金)から10日(日)まで開催される『Joan Cornella Japan Solo Exhibition 2017』のメインビジュアル(詳細はこちら)
そして、現在はInstagramのフォロワー数が176万人、Twitterのフォロワー数が30万を超えるなど、世界中の人々から愛されている彼だが、SNS上での爆発的な広がりは、彼自身も予想していなかった、ある結果を生み出したという。
コルネラ:ソーシャルネットワークは、他の手段では得られなかった巨大なメディアとなってくれました。私のフォロワーの多くは、アジアの人々です。なぜか、アジアで、特に香港で人気があるようです。ネットに精通しているユーザーが中心ということもあり、若い世代に支持を受けていると感じています。
西欧以上のスピードで消費社会化が進み、表面的には豊かになる一方、旧来の人間らしさや尊厳のようなものが、様々な社会的矛盾の中で急速に失われつつある東アジアの国々。そこで生きる若者のあいだで、ポップで過激なコルネラの作品が支持されているのは、非常に興味深い。
そんな東アジアの台湾、韓国、中国、シンガポールから、ニューヨーク、ロサンゼルスと回ってきた彼の大規模な個展が、いよいよ日本にもやってくる。キャンバスにアクリル絵の具で描かれた作品の数々は、パソコンやスマホの画面上で見るのとはまた違う臨場感と迫力、そして何よりも強い衝撃を、見る者の心に与えるに違いない。
- イベント情報
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- 『Joan Cornella Japan Solo Exhibition 2017』
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2017年12月1日(金)~12月10日(日)
会場:東京都 品川 寺田倉庫 T-ART HALL
時間:11:00~20:00(入場は閉館の30分前まで)
料金:前売1,000円 ANY TIMEチケット1,500円 当日1,200円
※前売りチケットは入場日指定、ANY TIMEチケットは期間中いつでも入場可能、1回のみ有効
※未就学児無料
- プロフィール
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- ホアン・コルネラ
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スペインの漫画家、イラストレーター。ユーモアなブラックコメディーを交えた風刺漫画の作家で知られる。2016年9月には、アメリカのバンド、WILCOのリリースしたアルバム『CHMILCO』のアートワークを手掛けている。Joan Cornellaの作品の中に度々表現されるシンプルかつ風変わりなビジュアルは、邪悪で攻撃的だと、評価されることもありますが、彼の作品を通じて、社会の不自然なソーシャルメディアとの結びつきや、中絶、薬物中毒、ジェンダー問題といった政治的な話題がいかに制限されているかに気づくことができる。彼のアートの中に隠されているメッセージがそこにあります。一見、カラフルで遊び心に富んでいるインパクトの中に、人間社会に潜んでいる重度の精神状態だったり、不思議な自然現象や社会現象に焦点を当てたりする事で彼の作品が形成されています。Cornellaは、神秘的で立ち入りが制限されている民族文化や習慣にも触れ、作品の中に秘められているギャグや視覚的な手がかりを最小限に抑え、カニバリズム、幼児化、神化、殺人、自殺、切断といったシーンを描きながら核心をつくメッセージを表現しています。Cornellaの作品は、見る人の思考を刺激し、とてつもない面白さの中に正直で誠実なメッセージを投げかけるのです。
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