『第90回アカデミー賞』の授賞式が現地時間の3月4日夜、日本時間3月5日の午前から開催される。
1929年からアメリカの映画芸術科学アカデミーによって実施されている『アカデミー賞』。1932年開始の『ヴェネチア国際映画祭』、1946年から始まった『カンヌ国際映画祭』、1951年開始の『ベルリン国際映画祭』といった「世界三大映画祭」よりも長い歴史を持つ。選考対象は「1年以内にアメリカ・ロサンゼルス地区で上映された作品」となる。
その後の興行収入に大きな影響を与えるだけでなく、出演者や制作陣に大きな栄誉を与える『アカデミー賞』。今年はどの作品が受賞するのか。主要部門を中心に、ノミネート作品を振り返っていきたい。
最多ノミネートは『シェイプ・オブ・ウォーター』
最多ノミネートとなったのは、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、助演女優賞、助演男優賞など13部門の候補となったギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』。
続けて、クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が作品賞、監督賞、編集賞など8部門、『スリー・ビルボード』が作品賞、主演女優賞など6部門7ノミネート、『ファントム・スレッド』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』が6部門、『レディ・バード』『ブレードランナー 2049』が5部門、『ゲット・アウト』『君の名前で僕を呼んで』『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『マッドバウンド 哀しき友情』などが4部門にノミネートしている。
『ヴェネチア』最高賞も受賞、『シェイプ・オブ・ウォーター』
『シェイプ・オブ・ウォーター』は3月1日から日本公開もスタート。冷戦時代を舞台に、清掃員として政府の極秘研究所に勤めるイライザと、研究所に運び込まれた不思議な生き物との愛を描いた作品だ。すでに『第75回ゴールデン・グローブ賞』で監督賞と作曲賞を受賞しているほか、『第74回ヴェネチア国際映画祭』では最高賞にあたる金獅子賞にも輝いた。
同作から、主演女優賞にサリー・ホーキンス、助演女優賞にオクタヴィア・スペンサー、助演男優賞にリチャード・ジェンキンスがノミネートしている。『パシフィック・リム』『パンズ・ラビリンス』などで知られるメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督は、これまで『アカデミー賞』に縁がなかったが、今作で一挙に主役に躍り出た。
ノミネートしている部門は作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞、音響編集賞、録音賞、美術賞、撮影賞、衣裳デザイン賞、編集賞。
追いかける『ダンケルク』『スリー・ビルボード』など有力作
『ダンケルク』は昨年9月に日本でも公開。『ダークナイト』3部作や『インセプション』『インターステラー』などのクリストファー・ノーランが初めて実話の映画化に挑んだ作品で、第二次世界大戦中の1940年に860隻の船でイギリス軍とフランス軍の兵士約40万人の命を救った救出作戦「ダンケルク作戦」を描いた。ノーランは作品賞、監督賞ともに受賞経験がなく、悲願の初受賞を狙う。
『スリー・ビルボード』は2月から日本でも公開中。娘が殺された事件の捜査に進展がないことに憤った母が、ミズーリ州の道路にある3枚の広告看板にメッセージを出したことをきっかけに、警察や住民との対立を呼び、思いもよらない事態になっていくというあらすじ。主演女優賞にノミネートされているフランシス・マクドーマンドはコーエン兄弟の兄ジョエル・コーエンの妻としても知られている。監督のマーティン・マクドナーはイングランドおよびアイルランドを代表する劇作家で、『ヴェネチア国際映画祭』では脚本賞に輝いている。
作品賞などにノミネートしている『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は、『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライト監督作。ナチスドイツの勢力が拡大し、フランスは陥落間近、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた第二次世界大戦初期を舞台に、ウィンストン・チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの4週間を描いた作品だ。チャーチル役のゲイリー・オールドマンが主演男優賞の候補となっている。
ダンケルクの戦いはクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』でも描かれた史実。いまなぜこの戦いがアメリカで注目されているのか、興味深い点ではある。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ファントム・スレッド』は作品賞、監督賞などにノミネート。1950年代のロンドンを舞台に、イギリスのファッション界の中心的存在として脚光を浴びるオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックの姿を描いた作品だ。主演男優賞にノミネートされているダニエル・デイ=ルイスは同作をもって引退することを表明。『マイ・レフトフット』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』で初となる3度の最優秀男優賞に輝いた名優が、4度目の受賞を飾るか、期待が募る。なお「世界三大映画祭」で監督賞を制覇しているポール・トーマス・アンダーソン監督だが、『アカデミー賞』での監督賞受賞はまだない。
作品賞、監督賞、主演男優賞などにノミネートしている『ゲット・アウト』は、作品賞の大穴と目されている作品。『パラノーマル・アクティビティ』『ヴィジット』『ザ・ギフト』などのジェイソン・ブラムが製作し、監督・脚本を同作が監督デビューとなるコメディアンのジョーダン・ピールが務めた。主演はダニエル・カルーヤ。2016年は「白人偏重」が叫ばれた『アカデミー賞』で、昨年の『ムーンライト』に続いて黒人監督が栄誉を勝ち取るか注目だ。
新鋭たちの台頭
さらにアメリカ映画界の今後を担う才能たちも候補に挙がっている。初の単独長編監督作品『レディ・バード』で作品賞、監督賞にノミネートしているグレタ・ガーウィグ。彼女は『ハンナだけど、生きていく!』『フランシス・ハ』『20センチュリー・ウーマン』などに出演した気鋭の女優でもある。女性が監督賞にノミネートされるのは『アカデミー賞』史上5人目の快挙だ。
ルカ・グァダニーノ監督の『君の名前で僕を呼んで』で主演男優賞にノミネートされているティモシー・シャラメにも注目だ。シャラメは『レディ・バード』にも出演している。22歳という年齢は、『アカデミー賞』の長い歴史の中でも、主演男優賞部門ではここ80年の中で最年少のノミニーだという。『君の名前で僕を呼んで』は歌曲賞部門でスフィアン・スティーヴンスが候補に挙げられていることも注目したい。
日本人候補も
日本からは、メイクアップ・ヘアスタイリング賞に『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でゲイリー・オールドマンの特殊メークを手掛けた辻一弘がノミネート。辻は3度目のノミネートとなる。さらに短編アニメ映画賞の候補には桑畑かほるが共同監督を務めた『Negative Space(原題)』が名を連ねている。
長編アニメ映画部門ではドリームワークス製作の『ボス・ベイビー』やピクサー・アニメーション・スタジオ製作の『リメンバー・ミー』が競うほか、全編絵画によるアニメーション映画『ゴッホ 最期の手紙』といった挑戦的な作品もノミネートされている。
WOWOWの独占中継に瀬々敬久、町山智浩らも
WOWOWでは3月5日8:30から生中継。ジョン・カビラと高島彩が案内役を務めるほか、尾崎英二郎とすみれがレッドカーペットをレポートする。さらにスタジオゲストとして瀬々敬久監督と町山智浩、菊川怜が出演。WOWOWの番組オフィシャルページで瀬々監督は、「ハリウッドの動向は世界やアメリカ政治や社会との緊張関係の中に、いつもあったと思います。とりわけアカデミー賞はまさにアメリカの現代史、そのものである気がします。今年も、何か象徴的な選択が行われるのではないか、いまから心躍っています」とのコメントを発表している。
『第90回アカデミー賞』主要部門候補一覧
『第90回アカデミー賞』主要6部門ノミネート
作品賞
『君の名前で僕を呼んで』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
『ダンケルク』
『ゲット・アウト』
『レディ・バード』
『ファントム・スレッド』
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
『シェイプ・オブ・ウォーター』
『スリー・ビルボード』
監督賞
クリストファー・ノーラン(『ダンケルク』)ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』)
グレタ・ガーウィグ(『レディ・バード』)
ポール・トーマス・アンダーソン(『ファントム・スレッド』)
ギレルモ・デル・トロ(『シェイプ・オブ・ウォーター』)
主演女優賞
サリー・ホーキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』)フランシス・マクドーマンド(『スリー・ビルボード』)
マーゴット・ロビー(『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』)
シアーシャ・ローナン(『レディ・バード』)
メリル・ストリープ(『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』)
主演男優賞
ティモシー・シャラメ(『君の名前で僕を呼んで』)ダニエル・デイ=ルイス(『ファントム・スレッド』)
ダニエル・カルーヤ(『ゲット・アウト』)
ゲイリー・オールドマン(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』)
デンゼル・ワシントン(『ローマン・J・イスラエル,エスク』)
助演女優賞
メアリー・J・ブライジ(『マッドバウンド 哀しき友情』)アリソン・ジャニー(『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』)
レズリー・マンヴィル (『ファントム・スレッド』)
ローリー・メトカーフ(『レディ・バード』)
オクタヴィア・スペンサー(『シェイプ・オブ・ウォーター』)
助演男優賞
ウィレム・デフォー(『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』)ウディ・ハレルソン(『スリー・ビルボード』)
リチャード・ジェンキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』)
クリストファー・プラマー(『ゲティ家の身代金』)
サム・ロックウェル(『スリー・ビルボード』)
- 番組情報
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- 『生中継!第90回アカデミー賞授賞式』
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2018年3月5日(月)8:30からWOWOWで放送、3月5日(月)21:00から字幕版を再放送
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