『りぼん』新編集長が異色の新連載『さよならミニスカート』にかける想い

「女の子であることをやめた」少女を描く『さよならミニスカート』

「この連載は、何があろうと、続けていきます」。編集長がそう宣言する漫画の連載が少女漫画誌『りぼん』でスタートした。『りぼん』9月号(8月3日発売)に巻頭カラーで掲載されている牧野あおいの新作『さよならミニスカート』だ。

物語の主人公は高校1年生の神山仁那。彼女は女子生徒の中で唯一制服のスカートを履かず、スラックスを履いて登校している。仁那は実は元人気アイドルだったが、ある事件をきっかけにアイドルを辞めた。長い髪をバッサリ切って過去を隠し、ひっそりと学校生活を送っているのだ。連載第1回では、過去に彼女を襲った事件と、「女の子であることをやめた」彼女が抱える秘密の一端が明かされている。

牧野あおい『さよならミニスカート』第1話紹介ムービー

『りぼん』9月号のページをめくってみると、連載作品の大半には男女の恋のときめきや切なさを描いた、一般的な「少女漫画」のイメージに沿った作品が並ぶ。その中で、主人公が男子生徒と同じ制服を着て通学する女子高校生であるという点だけでも、『さよならミニスカート』は異色の作品と言えるだろう。

この作品をさらに異色にするのは、先に紹介した『りぼん』新編集長・相田聡一のステートメントだ。連載開始連載にあわせて作られた特設サイトでは、大きなフォントの「異例。」の文字が目に入る。編集長の署名が入ったこのステートメントでは「この連載は、何があろうと、続けていきます。あなたに届けるために。」「このまんがに、無関心な女子はいても、無関係な女子はいない。」「今こそ、読んでください。今こそ、すべての女子に捧げたい。」と宣言されている。

異色の物語設定に新編集長の宣言。『さよならミニスカート』の一体なにが特別なのか――。連載第2回が掲載されている『りぼん』10月号の発売を前に、『りぼん』の相田聡一編集長に、この作品と連載にかける想いを訊いた。

1話公開後から予想を超える反響。「確かな手応えを感じています」

1話の公開後からSNSを中心に話題を呼んだ本作だが、予想を超える反響が集まったという。

ありがたいことに、こちらの想像を上回る大変大きな反響をいただきました。作品そのものへの様々な感想とともに、『りぼん』にこの作品が載っていることへの驚きの声も多かった印象です。この作品の存在を、普段『りぼん』を読んでいない多くの人に知ってもらえたという確かな手応えを感じています。

連載開始時に「この漫画は、異例です。面白さも異例ですが、何よりも、私たち編集部のココロの動かされ方もまた、異例でした」と綴った相田編集長は、初めて『さよならミニスカート』を読んだときの感想については次のように明かす。

単純に、「面白い漫画を読んだ」という印象です。そして読めば読むほど、まごうことなき少女漫画でありながら、我々ベテラン編集者も含め、年齢性別を問わず心に突き刺さる漫画でもあると確信していきました。小学生女子にとって面白い漫画という枠を超えた全世代に刺さる漫画が、『りぼん』から生み出せるということ対して「異例」という表現をしています。

『りぼん』への掲載は「必然」。作品を貫くのは「ヒロインの再生と成長の物語」

本作の主人公は、かつてミニスカートを履いたアイドルでありながら、現在は自分の中の女性性を抑え込むように髪を短く切り、スラックスを履いた女の子だ。作中ではさらに、男性からの視線を内面化しているように振る舞う「モテ系」女子の同級生や、女子生徒を外見でランク付けするホモソーシャル的な男子生徒の集団など多様な人物が描かれる。

また連載の第1回だけでも、アイドルにまつわる実際のショッキングな事件を彷彿させる描写もある一方で、女の子が「女の子でいることを許してくれる」女性アイドルに救われたというエピソードなども盛り込まれている。今後の展開はわからないが、旧来の「男らしさ」「女らしさ」そして、アイドルという職業につきまとうイメージなど、現代の日本に存在する様々な固定観念にまつわる議論を喚起する内容であることには間違いなさそうだ。

『りぼん』のターゲット読者は小学5年生、6年生が中心ということだが、連載を決めた相田編集長はこの作品が同誌に掲載されることは「必然だった」と語る。そして一見センセーショナルな要素がいくつも盛り込まれているが、『さよならミニスカート』の根幹にあるのは他の少女漫画にも通じる「ヒロインの再生と成長の物語」なのだという。

異色というとらえ方もされるとは思いますが、根っこの部分が少女漫画であること、むしろ小中学生女子にこそ読んでもらいたい漫画であることは自明ですので、決断という大げさなものではありません。必然だったと思います。
ショッキングであったり、時代性・社会性があったりという見え方が強いですが、その中に確固たる「ヒロインの再生と成長の物語」だと言い切れる、少女漫画に欠かせない要素が芯にあることが心を動かされたポイントです。

「このまんがに無関係な女子はいない。」というステートメント

連載開始時に公開されたステートメントでは「このまんがに、無関心な女子はいても、無関係な女子はいない。」という一文も印象的だった。一口に「女子」といっても女性であることを楽しんでいる人もいれば、違和感を感じている人、女性であるからこそ苦しんでいる人もいる。このコピーの意図そして作品から読み取ってほしいメッセージについては次のように明かしてくれた。

『さよならミニスカート』特設サイトに掲載されたビジュアル
ジェンダー的なテーマだけではなく、様々な孤独・悩みを抱えている女性読者にとってヒロインの物語がひとごとではない、どこか共通しているというところが、このコピーにつながっています。
アイドルものではありますが、一人の孤独な少女の再生の物語であり、ヒロインが置かれている状況は、特殊に見えるかもしれませんが、全ての女性読者の悩みにどこかで共鳴していると思います。そこを読み取っていただきたいです。

「『りぼん』が少女漫画の王道である、と言い切れる雑誌を目指したい」

『さよならミニスカート』は「少年ジャンプ+」でも配信が行なわれているほか、特設サイトと「LINEマンガ」でも一部を読むことができる。この作品は全ての女性に響くものがあるという編集長の言葉だが、男性読者にも訴えるものがあるはずだ。

私自身がこの漫画に心を動かされたように、男性でも、小中学生以外のすべての漫画好きな方にも届く面白さであると感じ、「少年ジャンプ+」と「LINEマンガ」での掲載を行いました。『りぼん』発の、圧倒的な物語があることを多くの読者に知ってほしかったという1点です。

1話だけで評価するには性急過ぎるが、『さよならミニスカート』は『りぼん』が仕掛ける意欲的な試みであることは間違いなさそうだ。この作品は世間に無意識的に植えつけられたジェンダーバイアスを問うだけでなく、これまでの少女漫画や少年漫画で描かれてきたジェンダー観に挑む内容にもなるかもしれない。

まずは特設サイトや、「少年ジャンプ+」「LINEマンガ」などで1話の試し読みをしてみてほしい。第2話が掲載された『りぼん』10月号は9月3日に発売となるが、相田編集長は「1話で見えている景色とは全く違った姿があらわれると思います。2話は特に自信の1作です」と明かす。

9月3日発売の『りぼん』10月号表紙

最後に『さよならミニスカート』そして『りぼん』本誌について読者へのメッセージをいただいた。

この作品は確かに異色作であるともいえますが、今、『りぼん』は漫画の力を信じ、わかりやすい少女漫画のイメージにとらわれない多彩な作品を揃えられていると思います。決してこの作品だけが「異例」ではないと信じています。『さよならミニスカート』をきっかけに手に取ってくださった新規の読者の方も満足していただける誌面になっていますので、是非他の作品にも目を向けていただければと思います。
『りぼん』は小学生の女子にとって、ものすごく影響を与えられる媒体であると思います。他のエンターテイメントと戦う中で、漫画という物語の持つ力を信じ、プライドをもった雑誌にしていきたいです。弊社における『少年ジャンプ』同様、『りぼん』が少女漫画の王道である、と言い切れる雑誌を目指したいです。
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