映画が描く、愛と外見の問題 『エンジェル、見えない恋人』から

「愛と外見」の問題を、映画のセリフから問い直す

「男は目で恋をして、女は耳で恋に落ちる」とイギリスのジャーナリスト、ウッドロー・ワイアットによる言葉が語り継がれるように、男性はルックスから恋がはじまることが多く、女性は声や会話、言葉など視覚よりも聴覚で恋に落ちることが多いという。これは「愛とはなにか」を考えさせられる問いだ。

これまで数多くの恋愛映画が生まれ、さまざまなシチュエーションで「愛とはなにか」が描かれてきた。人を愛するとは、どういうことなのか。最近は特に、性別や人種、年齢などの障壁を乗り越えた末の愛の物語も増えてきたように思う。

そんな中で、今回注目したいのが、「外見が人間と異なる存在」との愛だ。これらは「ファンタジー」としてくくられてしまうが、愛の本質を突いている作品が多い。これまで生み出されてきた物語を、特に作中のセリフに注目して振り返りながら、映画が描いてきた「愛と外見」の問題について語ろうと思う。

半魚人を愛する女性の物語、『シェイプ・オブ・ウォーター』

「彼はありのままの私を見てくれる」(イライザ、『シェイプ・オブ・ウォーター』)

直近の話題作で思い出されるのは2018年『アカデミー賞』作品賞ほか最多4冠を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(監督:ギレルモ・デル・トロ)だろう。

舞台は1962年のアメリカ。政府の極秘研究所で働く女性清掃員のイライザ(サリー・ホーキンス)は、アマゾンから運ばれてきた極秘生物(半魚人)に心惹かれる。秘密の交流をスタートし、彼と心を通わせていくが、周囲の圧力により彼女たちの愛は思ってもいない方向へ。

映画の中で注目したいのが、上記のイライザのセリフ。孤独を抱えながら生きる彼女にとって、心を通わせた彼の存在は、誰になんと言われようと「愛する人」だった。監督は表題の意味を「水と愛は似ている。愛と水は宇宙で最も柔軟で力強いんだ」と話した(『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督インタビュー映像より)。

人間と半魚人の恋という設定は、たしかに突拍子もないことに思える。しかし、社会の価値観に縛られた、見えない差別がある中で、「愛に決まりはない」「どのような形に変容しても良いのではないか」という監督のメッセージが本作にはみなぎっている。

ハサミ男と少女の交流、『シザーハンズ』

「どうであろうと、エドワードは常に特別な存在」(キム、『シザーハンズ』)

さかのぼるとティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の名作『シザーハンズ』(1990年)も、愛に決まりはないことを美しく描いた作品だ。純粋無垢な心を持つ人造人間エドワード(ジョニー・デップ)と、少女キム(ウィノナ・ライダー)の交流を描いた物語。「両手がハサミ」という奇抜な見た目とは裏腹に、彼の優しい人柄に少女も次第に心惹かれていく。

「あなたは障がい者なんかじゃないわ。なんと言うのかしら……特別?」と彼を受け入れた彼女は、物語終盤で上記のセリフを口にする。人によってはマイナスの要素になる奇抜なキャラクターが、彼女にとっては「特別」というプラスの感情に働いている。丁寧な感情のやりとりの中で、ふたりは強い絆と愛で結ばれていたのだと思う。愛の形に正解、不正解はないということを改めて考えさせられた映画だ。

「ルックスと愛」映画の大定番、『美女と野獣』

「いつも心の底で願っている唯一のことを思い浮かべてごらん。心の目で見つめ、感じてごらん」(野獣、『美女と野獣』)

小説、アニメーション、ミュージカル、そして昨年には実写映画化もされたラブストーリーの名作『美女と野獣』(2017年)。「思いやりを持たなかった罰」として野獣に変えられてしまった王子と、美しいプリンセスの物語。その中で印象的なのは、野獣が放つ上記のセリフだ。思いやりを持っていないことが罪となった野獣だが、ありのままを見つめることで本当の愛を知っていく。

こうした物語の多くは、孤独に生きてきた人々が主人公だ。より寂しさと愛し愛されることに真剣に向き合う主人公たちによる、「相手を思う」というシンプルかつ美しい気持ちは、人を愛する上で大事なことだと考えさせられる。

姿の見えない少年と、盲目の少女の恋模様『エンジェル、見えない恋人』

「あなたの視線を心で感じるわ」(マドレーヌ、『エンジェル、見えない恋人』)

野獣や人造人間、半魚人など、人間以外との恋愛物語を通して、映画は「愛と外見」の問題を描いてきた。そして、その問いに対して、「見えない存在との恋」という、違ったアプローチの作品が誕生した。10月13日より公開される『エンジェル、見えない恋人』だ。

本作では、姿の見えない存在として生まれた少年エンジェルと、盲目の美しい少女マドレーヌとの恋模様が描かれる。姿が見えない男の子と、目が見えない女の子が、声や匂い、息遣いなど、自分の感覚を研ぎ澄ませながら互いに相手への思いをつのらせていく。

まっすぐで純粋に思いを寄せ合うふたりのやりとりは、「相手を思う」という美しい感情に溢れている。しかし、物語の後半で起きる変化が、大きな壁となってふたりに立ちはだかる。成長したマドレーヌは、目の手術によって、視力を取り戻す。そして、それまでは存在を感じていたはずのエンジェルが、初めて「見えない存在」であることに気づいてしまうのだ。

少女時代のマドレーヌ(ハンナ・ブードロー)/ ©2016 Mon Ange, All Rights Reserved.
成長し、視力を取り戻したマドレーヌ(フルール・ジフリエ)/ ©2016 Mon Ange, All Rights Reserved.

そんな中で語られる、上記のマドレーヌの言葉が、「大切なのは心なのだ」という愛の本質を表しているように思う。他人からすればマイナスに感じられる外見上の障壁を、互いの個性として受け入れ、そして認め合うことが、人と人がつながることにおいてどれほど大切か。『美女と野獣』など、過去の名作同様、この映画からも改めて考え直すことができるだろう。

公開情報
『エンジェル、見えない恋人』

2018年10月13日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開

監督:ハリー・クレフェン
脚本:ハリー・クレフェン、トマ・グンジグ
出演:
フルール・ジフリエ
エリナ・レーヴェンソン
マヤ・ドリー
ハンナ・ブードロー
フランソワ・ヴァンサンテッリ
上映時間:79分
配給:アルバトロス・フィルム



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