フラメンコ界の異端児イスラエル・ガルバンが魂の叫びを訴える

(メイン画像:Photo:DublinDanceFestival)

一体何? と困惑するかもしれない、あなたの知らないフラメンコ

イスラエル・ガルバンのフラメンコを見たら、あなたはきっと驚くだろう。彼の、伝統から大きく逸脱した動きに、誰もが持つ「バラをくわえたカルメン」や「凛々しい闘牛士」のイメージはない。イスラエルは、靴音を激しく鳴らしながら、ただひたすら鞭打つように身体を動かす。典型的なフラメンコを期待していた人は、一体何を見せられているんだろうと困惑するかもしれない。しかし、彼の魂のたぎりに、次第に興奮を覚える。目をみはる。手に汗を握る。そして必ず最後に、スタンディングオベーションで彼を見送り、感動を胸に帰途につく。イスラエル・ガルバンとは、そういう踊り手だ。フラメンコの今を知りたかったら、いや、日常の退屈を吹き飛ばしたかったら、彼のステージを見るしかない。

イスラエル・ガルバン Photo: Félix Vázquez

フラメンコはヨーロッパの文化なのに、なぜ東洋の匂いを感じるのか

そもそも、フラメンコはどのようにして生まれた踊りなのか。歌、ギター、ダンスの3つで構成されているこの音楽・舞踊ジャンルは、実は他のヨーロッパのそれらとは、生まれも育ちもかなり異なっている。

岩肌に砕け散る波のように、荒々しく、そして物悲しいフラメンコの旋律の中に、あなたはどこか東洋の匂いを感じないだろうか。スペインは、ヨーロッパの中にあって、ヨーロッパにはない独自の文化を持っている。800年近くイスラム支配下にあったこの土地には、キリスト教国家となった今でも、その影響がそこかしこに見られる。

イベリア半島では、紀元前より様々な民族の侵略・支配が繰り返されたが、8世紀に侵略を開始したイスラム勢は当初、土地の宗教を排除することはせず、中心部として栄えた現在のアンダルシア地方には、キリスト、ユダヤ、そしてイスラム3教が共存する、今では考えられない「人類史上、稀に見る理想郷」が存在した。

そしてこの土地の文化に、11世紀にインド北部より流浪の旅を開始し、中東、北アフリカを通って15世紀にスペインに到着したとされるロマ民族がもたらした歌や踊りの文化が加わって、19世紀頃、今私たちが知るフラメンコが形作られた。

2010年にユネスコの無形文化遺産に認定されたフラメンコは、まさに、スペインの文化・歴史を体現するパフォーミングアートであり、民族の垣根を超えた魂の表現なのである。だからこそ、遠く離れた国に住む私たち日本人の魂をも、鷲掴みにするのだ。

「破天荒」「アバンギャルド」「稀代の天才」なイスラエルが見せる、ダンスという概念さえ超えた大宇宙

21世紀も20年を過ぎようという現代も、フラメンコは他文化、他ジャンルとの交流を通して進化し続けている。

近年のダンス界では、コンテンポラリーにヒップホップを混ぜたり、ボールルームダンスにアクロバットの要素をふんだんに取り入れたりと、クロスオーバーなスタイルが盛んだが、フラメンコダンスにその波が来たのは早く、1990年代後半の事。そしてその波を大きく動かしたのが当時まだ20代半ばのイスラエル・ガルバンだった。

Photo: Félix Vázquez
Photo: Félix Vázquez

フラメンコ界において彼の名が意味するものは「破天荒」「アバンギャルド」そして「稀代の天才」。スペインを代表する印象派の画家ピカソさながらに、支離滅裂の様で、魂の叫びの一言一句を逃さず訴えるイスラエルのステージには、すでにダンスという概念さえ超えた大宇宙が広がる。

イスラエルは1973年スペイン南部の町セビリアで、両親共に舞踊家の家に生まれ、子供の頃からフラメンコの伝統を叩き込まれて育った。21歳の時、20世紀を代表するフラメンコ舞踊家マリオ・マジャと出会い、彼の自由な発想、人としての生き様に触れ、後にフラメンコ識者ペドロ・G・ロメロが参謀となり、彼はフラメンコの常識をくつがえす新しい世界へと旅立っていく。そして1998年25歳の時に発表した処女作『ミラ! / ロス・サパトス・ロホス』で、観客はそれを目の当たりにする。

伝統派は最初、顔をしかめたが、旅立ちから6年後の2004年、闘牛を描いた『アレナ』で数々の賞に輝き、イスラエルは第一線に躍り出た。そして今回の来日で公演される2005年に初演され、今もなお人々に愛され続けている『黄金時代』では、伝統と革新という偉大なるミスマッチで、大きなセンセーションをまき起こした。

Photo: Félix Vázquez
Photo: Félix Vázquez

カンテ(歌)、バイレ(踊り)、ギターのたった3人で生み出す、飾りを捨て去った言わば裸のフラメンコは、今では少なくなった、ほぼ即興で演じられるフリースタイル・フラメンコのライブ感を復活させ、何が飛び出すか分からないドキドキ感で観客を熱狂させる。今や紛れもなくフラメンコの歴史の1ページを飾る巨匠となった彼は、フラメンコを超えた、21世紀のスペインを代表するアーティストの1人である。

イベント情報
『黄金時代』

演出・振付:イスラエル・ガルバン
出演:イスラエル・ガルバン
ダビ・ラゴス(カンテ)
アルフレド・ラゴス(ギター)

埼玉公演
2018年10月27日(土)、28日(日)
会場:埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
料金:一般S席6,000円(税込) A席4,000円(税込)
U-25 S席3,000円(税込) A席2,000円(税込)
※当日券は各席種ともに+500円

愛知公演
2018年11 月2日(金)、3日(土・祝)
会場:愛知県 名古屋市芸術創造センター
料金:一般7,000円(税込) U-25 3,500円(税込)

プロフィール
イスラエル・ガルバン

スペイン・セビリア生まれ。複雑でスピーディなフットワーク、卓越したリズム感、フラメンコの新たな世界を切り拓く創造性で知られる。1994年マリオ・マジャ率いるアンダルシア舞踊団に入団。98年には自身のカンパニーを創設。以来、カフカの『変身』を題材とした『ラ・メタモルフォシス』(2000年)をはじめ、既成概念を覆す革新的な作品を次々発表。「天才」「革命児」「アバンギャルド」等の称賛を欲しいままにする。05年『アレナ』でのナショナル・ダンス賞をはじめ、12年『黄金時代』でベッシー賞(NY)、16年 第16回英国ナショナル・ダンス・アワードの特別賞など数々の賞を受賞。パリ市立劇場アソシエイト・アーティスト。近年日本では、『SOLO』『FLA. CO. MEN』をあいちトリエンナーレ2016で上演し話題となった。



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Stage
  • フラメンコ界の異端児イスラエル・ガルバンが魂の叫びを訴える

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて