1年2か月の休止期間を経て、再び欅坂46の中に身を投じた原田葵
昨年のうだるような暑さとは打って変わって怪しい雲行きの中、7月5日から3日間にわたって山梨・富士急ハイランド コニファーフォレストで行なわれた欅坂46の野外ライブイベント『欅共和国2019』の初日公演で、昨年の5月から大学受験のため活動を一時休止していた原田葵が再びステージに帰ってきた。
副キャプテンの守屋茜が「欅坂46の活動はいつも何が起こるか想像できません。特にこの一年は今まで以上に、全く想像できないことが続いています」(Yahoo!ニュース特集「欅坂46の活動はいつも何が起こるか想像できない――副キャプテン・守屋茜が見た3年間」)と語るように、2000年5月7日生まれの(平手友梨奈の1つ年上となる)原田が活動を休止していたおよそ1年2か月の間に、平手友梨奈の怪我、今泉佑唯、志田愛佳、米谷奈々未の相次ぐ卒業と、長濱ねるの卒業発表、2期生9人の加入など欅坂46には様々なことが起こっていた。
いま述べたことに加えてライブパフォーマンスにおいてもジェットコースターのように常に目まぐるしく変化し続ける欅坂46の中に再び身を投じることが容易でないことは想像に難くない。だから原田の復帰は、欅坂46の一員として再びそこに存在していることの尊さ、というものを改めて痛感させる。
「花を食べる少女」がたゆたう「あわい」
活動休止中の原田の姿は、2018年11月に刊行された欅坂46の1st写真集『21人の未完成』で熊木優が撮影を担当した「花を食べる」というコーナーに収められており、具体的な撮影時期は不明だが、花に囲まれ花を食べる原田の姿は、欅坂46の中での「いじられキャラ」「妹キャラ」ともいくぶん異なって「葵ちゃん」と「葵さん」の「あわい」を漂っているようにも見える。
「あわい」をたゆたう原田が花を食べる様子は、遡って2017年4月にリリースされた欅坂46の4thシングル『不協和音』Type-A収録の個人PV『植物少女』にも映し出されており、原田演じる「部屋に閉じ込められた少女」=「葵」は、植物に囲まれた自身の部屋に招待した望に「ここから出られないの」と少し悲しそうに微笑み、「おいしいね」と花を食べる「葵」に反して差し出された花を苦そうな顔で食べたり、外の世界の楽しさを話したりするなど束の間をそこで過ごし、部屋を出る際に「望みのない恋」「名声」という花言葉を持つ黄色いチューリップを「大事にしてね」と手渡された望は「俺はあのときのことをほとんど覚えていない。夢だったのか、いや、夢ではない、でも、もうその道を通っても、あの子が姿を現すことはなかった」と回想する。
復帰曲に相応しい、“バレエと少年”という楽曲
「葵」の名がついたウスベニアオイやトロロアオイなど食用花というものは存在するが、植物だけを食べてひとり暮らす「葵」は、望が「遠い存在なのに近づきたくて、でも、届かない、みたいな~」と語るように夢と現実の「あわい」に住まう浮き世離れした存在であり、そうした「あわい」のイメージと重なる原田の復帰曲となったのは、『欅共和国2019』のセットリストの6曲目に披露された欅坂46内ユニット「156」(ユニット名の由来は平均身長がおよそ156cmであることからきている)の楽曲“バレエと少年”であった。
どこかQueenの“Killer Queen”を思わせる曲調の“バレエと少年”では、幼少期からバレエを習っていた原田演じる少女と小池美波演じる<隣に住んでた青い瞳の少年>を中心に、振付にバレエの要素を採り入れながら、<黄昏のバレエ><揺れる光と影>という歌詞と呼応するように<Love>と<Friend>の「あわい」、<遠い記憶の中>の<初めて恋した王子様>への「あわい」思いが歌われているという意味で原田の復帰曲に相応しい。
翌7月6日の『欅共和国2019』の終演後にコニファーフォレストからの生中継で出演した日本テレビ『THE MUSIC DAY 時代』では、原田にとって初のフロント(1列目のポジション)曲で、原田の活動休止前の最後のステージであった平手不在の『欅坂46 2rd YEAR ANNIVERSARY LIVE』ではソロダンスを担当した(という意味で感慨深い)“二人セゾン”と、欅坂46には珍しくステージも客席もタオルを振り回して盛り上がる場面がある“危なっかしい計画”のメドレーが披露された。
『欅共和国』で披露されたブランクを感じさせないパフォーマンス
“バレエと少年”の冒頭で<Time goes by…>と歌われるように原田の活動休止中に様々な出来事があったことは先にも述べたが、(“バレエと少年”と同様にバレエ調の動きを採り入れた)“二人セゾン”での指先にいたるまでたおやかに舞う姿、“危なっかしい計画”でのキレのある動きや「ぴょんぴょん」と跳ね回る様子など、卒業を活動の前提とするアイドルにとって1年2か月という決して短くないブランクを感じさせないパフォーマンスは、翻って学業と欅坂46の活動の「あわい」を行き来する原田の「ストイックさ」の現れであるようにも映る。
原田の「ストイックさ」は、活動休止の際に『AKB新聞2018年5月号』で語った「欅坂に入る前から親と約束してました(中略)どっちつかずで中途半端にやったら、それが欅坂の活動にも受験の結果にも、影響が出てきちゃうだろうし、甘えが出てきて、ファンの方にもメンバーにも申し訳ないです。1度区切りをつけたほうが、結果、受験に失敗したとしても、後悔しないと思ったんです」という言葉にも現れており、『欅共和国2019』での原田について土生瑞穂が「本当にお姉さんになってて、でも中身は変わらず葵らしくて本当に嬉しかったです アンビバレントを本番前に何度も練習しててその一生懸命の姿に私も頑張らなきゃって背中を押されました。努力する頑張り屋さん これからまた一緒に活動できるのが楽しみ」と記しているのを読むと、冠番組『欅って、書けない?』で放送された『欅坂46 2rd YEAR ANNIVERSARY LIVE』の舞台裏で“二人セゾン”のソロダンスの練習にひとり励む原田の姿が思い出される。
卒業が続くグループへの明るいニュース。欅坂46の「もうひとつ」の側面を照らし出す
そんな原田の復帰について齋藤冬優花は「葵が戻ってきてから、常におしゃべりしている子がいて明るくて楽しいです」と綴り、自身のブログを更新する前に齋藤のブログに間借りして「あちゃです 欅共和国来てくれたみんなたち、ありがとうございました!!」と登場するなど「人懐っこさ」を見せる原田は、「バスの中でね、原田さんがハッピーバースデートゥーユー!って歌ってくれました !!!!嬉しかった〜 (〃ω〃)」と語る2期生の森田ひかると早くも打ち解けたようでもあり、佐藤詩織の言葉を借りるならば「楽屋の、みんなの、ムードメーカー」っぷりを発揮している。
メンバーの「あわい」を取り結ぶ原田の存在は、メンバーの卒業および卒業発表という悲しみの連鎖が続いていた欅坂46に光を射し込み、「ダーク」「クール」「シリアス」といったイメージが強調されがちな欅坂46のもうひとつの側面を照らし出す。
今後の欅坂46は、7月24日にフジテレビ『2019 FNSうたの夏まつり』、8月4日に『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』への出演、8月14日にライブ映像作品『欅共和国2018』のDVDおよびBlu-rayのリリース、8月16日から宮城・ゼビオアリーナ仙台公演を皮切りに始まる『欅坂46 夏の全国アリーナツアー2019』の開催を控え、7月30日には千葉・幕張メッセ 国際展示場 6ホールで長濱ねるの(欅坂46としては初の)卒業イベント『ありがとうをめいっぱい伝える日』が行なわれる。また『欅共和国2019』に密着した7月28日深夜放送の『欅って、書けない?』では久々に原田の姿も見られるようである。
三角帽子にマリンルックを纏った船長役の平手、小隊長役の尾関梨香を中心にステージを船に見立て、雨という制御不能な天候さえ演出のひとつのように取り込みながら次々と降りかかる苦難を乗り越えてゆくストーリーを、それとリンクするようなセットリストと共に描いた『欅共和国2019』を経た欅坂46がこれからどのような「驚き」に満ちた航路を描いてゆくのか、楽しみは尽きない。
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