※本記事は『13の理由』シーズン3のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。
Netflixオリジナル『13の理由』。新シーズンでも現代アメリカの10代が直面する様々な社会問題を扱う
ジェイ・アッシャーのヤングアダルト小説をもとにしたNetflixオリジナルシリーズ『13の理由』は、10代の自殺、いじめ、性的暴行、薬物中毒、メンタルヘルスイシューといった、現代のアメリカに生きる若者が対峙し得る多様な社会問題を扱ってきた。
新たに配信されたシーズン3でも時事性の高い、現実の社会を反映したような問題に積極的に切り込み、移民問題や高校生の妊娠と中絶、性暴力被害者たちの連帯など幅広いトピックを物語の中に組み込んでいる。シーズン1から扱われている「有害な男らしさ(toxic masculinity)」の問題もまた、新シーズンのテーマの1つであるように思われる。
賛否両論の議論とは切り離せないドラマシリーズ。新作配信前にシーズン1の自殺シーンを編集
2017年に配信がスタートしたシーズン1は、リバティー高校に通うハンナ・ベイカーの死と、彼女が死を選んだ理由が語られた7本のカセットテープを巡る物語だった。そしてハンナの死後に行なわれた裁判の様子と、彼女の死に揺れながらも傷を癒そうともがくたち生徒たちの姿がシーズン2で描かれた。
これまでのシーズンはテープを1本ずつ再生する形で次々と意外な真実が明らかになっていく手法や、ハンナ役のキャサリン・ラングフォードをはじめとするキャストのパフォーマンスが高い評価を獲得した一方、「自殺を美化している」という声やメンタルヘルスの問題を抱える若者への悪影響を警告する声が専門家からあがるなど、様々な議論も呼んでいる。こうした声を受けて配信から2年後、今回のシーズン3の配信を前に、Netflixはハンナが自ら命を絶つ様子を映した約3分間のシーンを配信中のシーズン1の映像から編集することを決めた。
悪役の男子高校生たちを通して「有害な男らしさ」の問題を掘り下げる
「Who Killed Bryce Walker?(ブライス・ウォーカーを殺したのは誰だ?)」――ハンナの登場しないシーズン3では、彼女を死に追いやった元凶のひとりであるブライスが遺体で発見され、誰もに動機があるという状況の中で犯人探しが進む。
ブライスは裕福な家庭で何不自由ない暮らしを送り、運動部では男子生徒たちのリーダー格。弱い者いじめを楽しみ、「クラブハウス」と呼ばれる部員たちの秘密の溜まり場で女子生徒をレイプして写真を撮るような卑劣かつ「有害な男らしさ」の象徴のような存在である。ハンナを含む多くの同級生をレイプしておきながら3か月の保護観察だけで済んだ彼は、シリーズ通して一番の悪役と言えるだろう。
『13の理由』にはブライスを含む運動部のメンバーを中心に、女性を「モノ」のように扱ったり、「力」による強さを誇示しようとしたりといった「伝統的な男らしさ」の考え方を内面化したようなキャラクターたちが登場し、それがハンナの自殺の一因にもなっていくわけだが、シーズン3ではそんな男子生徒たちの家庭環境や心情にも光が当たり、ブライスや彼の取り巻きであるモンティの人格を形成した外的な要因が見えてくる。
ブライスの被害者のひとりであるジェシカ役を演じるアリーシャ・ボーは、『コスモポリタン』のインタビューで「シーズン3で魅きつけられたのは、何がこのモンスターを作り上げ、何が人をここまで邪悪にしてしまうのかを垣間見ることができるということです。今回のシーズンは『有害な男らしさ』についてよく掘り下げていると思う。ブライスやモンティの家庭がそのものだから。サポートシステムが存在していない」と述べている。
暴力的な父親、アメフト部のカルチャー……彼らの攻撃的な振る舞いに影響した要因にも光を当てる
シーズン3のブライスは金と力によって思うがままに振る舞っていた前シーズンとは異なり、転校先の私立校でレイプ犯だということが知られて仲間外れにされる様子や、罪と向き合って変わろうとする姿も描かれる。また彼の父や祖父といった身近な男性たちも暴力的な差別主義者だったり、子供に無関心だったりと問題を抱えた人物だったことがわかる。
ブライスの母親は、彼の恋人であったクロエにこう告げている。「私は残酷な男に育てられ、残酷な男と結婚して逃げた。たった一つの違いは父のこぶしと夫の沈黙。どちらも父親に向かない。息子もそう。むしろより酷いかもしれない」。
シーズン2で同級生のタイラーに酷い性的暴行を加えたモンティもまた、父親によって日常的に暴力を振るわれていた。新シーズンではブライスが高校を去った後も粗暴な態度をとり続けるモンティのセクシャリティが明らかになるが、彼がパーティーで関係を持った他校の男子生徒を延々と殴りつける場面もある。モンティの攻撃性や同性愛嫌悪的な言動は、アメフト部のホモソーシャルな環境に加え、自身の家庭環境(暴力的な父親はホモフォビックな人物のようだ)や、抑圧されたセクシャリティにも関連していることが示唆されている。
劇中ではジェシカが、いじめや嫌がらせ、性的暴行などが見過ごされている校内の風潮の元凶として運動部の連中を引きずり下ろすことを公約に掲げて生徒会長に就任し、モンティら運動部員たちと対立する。
モンティ役のティモシー・グラナデロスは、「ET」のインタビューでモンティにとって自身のセクシャリティに向き合うことが難しかった理由について「運動部で、有害で、男性的なカルチャー」を挙げ、「そういう状況ではカミングアウトできないと感じるだろう。それにあの家庭環境と父親。とても考え方が狭くて、非常に不適切な言葉も使うし、家で居心地がよかったこともなければ、彼が男性に惹かれるかもしれないなんて考えにおよんだこともないだろう」と答えている。
米ミレニアル世代の男性の50%以上が「男らしい」振る舞いへのプレッシャーを感じている
アメリカのリサーチセンター・ピュー研究所が2017年に発表したアメリカ国内のジェンダーイシューにまつわるレポートでは、ミレニアル世代の男性の50%以上が「挑発されたら殴らなくてはいけない」「多くの相手と性的関係を持たなくてはいけない」「女性に性的な目を向ける男性たちの会話に参加しなくていけない」といったプレッシャーを感じていると回答している。
そうしたプレッシャーは社会や友人、家族、パートナーとの関係など、様々な環境から生み出されるものだろう。ジャーナリストのレイチェル・ギーザは著書『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(DU BOOKS)のなかでマスキュリニティは「文化的創造物」であり、その定義は不変ではないと説いている。『13の理由』のブライスやモンティの家庭やクラブ活動での環境を考えれば、彼らは無意識的にも「男らしさ」の呪縛に囚われていたことは想像できる。
シーズン3の第7話でクレイの前に現れたブライスの亡霊は「たとえ地球上にいなくても、俺は100万人の男たちの身体に生まれ変わる」と話す。劇中でブライスは死んだが、ブライスのような男性たちは現実に日々生まれているのだろう。ブライスやモンティが「有害な男らしさ」や子供に悪影響を与える家庭環境の産物なのだとしたら、現実社会で新たなブライスやモンティを生んでしまうかもしれない潜在的な要因に目を向けることは無駄ではないはずだ。
またブライスの幼い頃からの親友で同じくアメフト部であるジャスティンが、周囲の人間に弱さを見せ、サポートを受け入れることで自分を縛っていた考え方や薬物中毒から立ち直ろうとする姿は、凝り固まった「男らしさ」の呪縛から抜け出すひとつのヒントとも言えるだろう。同じアメフト部のザックもまた新キャプテンに就任し、これまではびこっていた部内の悪しきカルチャーを撲滅することを掲げていた。前シーズンまでの出来事を受けて変わろうとする部員たちの姿も描かれる。
シーズン4でダークなティーンドラマは完結へ
もっとも、ブライスやモンティが同級生たちにした恐るべき行為を考えれば、彼らの家庭環境や内なる葛藤を描くことはその悪行に対して同情の余地を与えかねない。「レイプ犯も人の心を持っていた」からといって彼らの非道な行ないが正当化されるものではないことは言うまでもない。その点において、新シーズンのブライスの描き方は今後も議論していく必要があるだろう。
『13の理由』は当初から10代が直面する深刻な問題を広範に扱っており、その描写については常に賛否両論がつきまとう。次作となるシーズン4はファイナルシーズンとなる。メインの登場人物たちは高校卒業を控えるが、思春期から大人になろうとする彼らはどのように成長するのか、またシーズン3のラストで新たに抱えてしまった大きな秘密とどう折り合いをつけるのか、最後まで見届けたい。
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