『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』が連日TV放送

湯浅政明監督の劇場アニメーション作品『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』が正月にNHKで放送される。

2作はともに、『マインド・ゲーム』『ピンポン THE ANIMATION』『DEVILMAN crybaby』など数々の作品を手掛け、世界的な評価を受ける湯浅監督による2017年公開作だ。テレビアニメ『映像研には手を出すな!』をはじめ、2020年以降も新たな作品の公開を控える湯浅監督。今回の放送は、鮮やかな色彩と大胆で躍動感のある動き、美しい描線など、独創的な表現で多くのファンを持つ「湯浅ワールド」ともいうべき作品の世界観に改めて触れる絶好の機会だ。

完全オリジナルの劇場映画『夜明け告げるルーのうた』。心を閉ざした少年と人魚の少女の出会い

1月2日にNHK Eテレで放送される『夜明け告げるルーのうた』は、湯浅監督による初の完全オリジナル劇場用映画だ。2017年にフランスの『アヌシー国際アニメーション映画祭』で長編部門のグランプリにあたるクリスタル賞を受賞。世界最大級のアニメーション映画祭である同映画祭で、日本の作品としては高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』以来、約22年ぶりとなる快挙を成し遂げた。

主人公は寂れた漁港の町・日無町に住む、心を閉ざした中学生の少年カイ。同級生の国夫と遊歩が組むバンドに誘われたことがきっかけで練習場所である人魚島を訪れたカイは、音楽にあわせて無邪気に踊る人魚の少女ルーと出会う。ルーとの交流をきっかけに少しずつ心を開いていくカイだが、日無町では古来から人魚は災いをもたらす存在とされている。やがてルーと町の住人の間に溝が生まれ、町が危機にさらされる――。

『夜明け告げるルーのうた』予告編

声優はルー役の谷花音、カイ役の下田翔大、ルーの父役の篠原信一、遊歩役の寿美菜子、国夫役の斉藤壮馬ら。「好き」と言う感情を素直に表現できない窮屈さ、人魚との出会いをきっかけにその呪縛から解き放たれる少年の姿を描く青春物語になっている。

湯浅監督が「王道の長編アニメーションを目指した」という本作では、キャラクターデザイン原案を『午前3時の無法地帯』などで知られる漫画家のねむようこが担当。人魚のルーをはじめ、ポップでかわいらしいキャラクターたちが画面のなかで躍動する。

斉藤和義“歌うたいのバラッド”にのせて心の叫びが放たれる。「水」の表現にも注目

音楽も湯浅作品の大きな魅力のひとつだが、『夜明け告げるルーのうた』ではより直接的に音楽が物語の大きな要素となっている。主人公のカイは自作の楽曲をインターネットにアップロードすることを心の拠りどころにしている少年で、自身を変えることになるルーとの出会いも音楽がきっかけだ。

主題歌でもある斉藤和義“歌うたいのバラッド”は作中の重要なシーンで用いられ、カイの心の叫びが歌に乗せて解き放たれる。そのほか音楽にあわせてキャラクターたちがリズミカルに動くシーンも見る者の心を踊らせる。『アヌシー国際アニメーション映画祭』での上映時には、音楽にあわせて観客から手拍子が起こる一幕もあったという。

また緑色で表現された「水」の描写も特徴のひとつ。立方体になったり、そのまま宙に浮き上がったりと、形を持ちながら動きが変化していく様が面白い。ユーモラスで動きに溢れる水の表現は、2019年公開の劇場アニメ『きみと、波にのれたら』でも見ることができる。

『夜明け告げるルーのうた』 ©2017 ルー製作委員会
『夜明け告げるルーのうた』 ©2017 ルー製作委員会

森見登美彦原作の青春恋愛ファンタジー『夜は短し歩けよ乙女』。主演声優は星野源

翌日の1月3日にNHK総合で放送される『夜は短し歩けよ乙女』は、森見登美彦の同名小説が原作。『第41回日本アカデミー賞』で最優秀アニメ賞に輝いた。

原作小説は『山本周五郎賞』を受賞し、『直木賞』候補選出、『本屋大賞』2位など高い評価を獲得してベストセラーになった。森見作品の中でも特に人気の高い一作と言えるだろう。

物語の舞台は京都。主人公である「先輩」は、後輩の「黒髪の乙女」に想いを寄せ、「なるべく彼女の目にとまる」ための「ナカメ作戦」を日々実行している。個性豊かな人物たちが巻き起こす珍事件に次々と巻き込まれながら「先輩」が経験する、不思議な夜の出来事を描く青春恋愛ファンタジーだ。

「先輩」の声を演じているのは星野源。「黒髪の乙女」役を花澤香菜、「先輩」の学友・学園祭事務局長役を神谷浩史、願掛けのためにパンツを穿き替えないパンツ総番長役を秋山竜次(ロバート)が演じている。

『夜は短し歩けよ乙女』予告編

『夜は短し歩けよ乙女』 ©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

テレビアニメ『四畳半神話大系』のクリエイター陣が再集結。主題歌はアジカン

本作を語るうえで知っておきたいのが、2010年にフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送された森見登美彦原作のテレビアニメ『四畳半神話大系』だ。

『夜は短し歩けよ乙女』には、監督、原作者をはじめ、脚本の上田誠(ヨーロッパ企画)、キャラクターデザインの中村佑介、主題歌のASIAN KUNG-FU GENERATIONと、『四畳半神話大系』のクリエイター陣が再集結している。

湯浅監督にとって初の小説原作作品となったテレビアニメ『四畳半神話大系』と、劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』はともに京都を舞台にしたファンタジーであり、同じキャラクターが双方に登場するなど繋がりが深い。『夜は短し歩けよ乙女』ではビビッドな色彩と弾けるようなキャラクターたちの動き、理屈っぽく文語体のようなセリフやモノローグなどにより、一晩のうちに季節が巡るファンタジックな世界が表現される。

テレビアニメ『四畳半神話大系』Blu-rayBOX告知映像

主題歌はASIAN KUNG-FU GENERATIONの“荒野を歩け”。『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』のキャラクターデザインを担当した中村佑介はASIAN KUNG-FU GENERATIONの全てのジャケットイラストを手掛けているとあって、こちらも親和性が高い。空回りしながら突き進む「先輩」の奮闘を後押しするようなドライブ感のある楽曲だ。

新アニメシリーズ『映像研には手を出すな!』はまもなく放送開始。2020年はNetflixオリジナル『日本沈没2020』も控える

このたびの『夜は短し歩けよ乙女』の放送の前後には、同じくNHK総合で1月5日深夜から放送がスタートする新アニメシリーズ『映像研には手を出すな!』の見どころが紹介される予定。

『月刊!スピリッツ』で連載中の大童澄瞳による同名漫画を湯浅の監督・シリーズ構成によってテレビアニメ化する『映像研には手を出すな!』は、3人の女子高校生が脳内にある「最強の世界」を表現すべく「映像研」を結成してアニメ制作に挑む「青春冒険部活ストーリー」。

声優陣は主人公の浅草みどり役を演じる伊藤沙莉をはじめ、田村睦心、松岡美里、花守ゆみり、小松未可子、井上和彦ら。伊藤はテレビアニメの声優に初挑戦する。オープニング主題歌には、chelmicoの“Easy Breezy”、エンディング主題歌には神様、僕は気づいてしまったの“名前のない青”が起用され、音楽をオオルタイチが担当するなど、参加ミュージシャンもバラエティーに富んでいる。

テレビアニメ『映像研には手を出すな!』PV

また湯浅監督の公開待機作としては、小松左京のSF小説『日本沈没』を原作としたNetflixのオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』が2020年に配信。『ピンポン THE ANIMATION』『DEVILMAN crybaby』から3度目のタッグとなる牛尾憲輔が音楽を担当する。さらに松本大洋がキャラクター原案、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』などの野木亜紀子が脚本を手掛け、古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』をミュージカルアニメーションとして映像化する長編映画『犬王』が2021年に公開予定と、2020年以降も期待が募る作品が控えている。

番組情報
『夜明け告げるルーのうた』

2020年1月2日(木)22:35〜NHK Eテレで放送
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子、湯浅政明
主題歌:斉藤和義“歌うたいのバラッド”
音楽:村松崇継
声の出演:
谷花音
下田翔大
篠原信一
柄本明
斉藤壮馬
寿美菜子
大悟(千鳥)
ノブ(千鳥)


『夜は短し歩けよ乙女』

2020年1月3日(金)23:30〜NHK総合で放送
監督:湯浅政明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介
原作:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION
音楽:大島ミチル
声の出演:
星野源
花澤香菜
神谷浩史
秋山竜次(ロバート)
中井和哉
甲斐田裕子
吉野裕行
新妻聖子
諏訪部順一
悠木碧
檜山修之
山路和弘
麦人

番組情報
『映像研には手を出すな!』

2020年1月5日(日)24:10~NHK総合で放送(関西地方は24:45~)、1月5日(日)26:00~FODで配信
監督・シリーズ構成:湯浅政明
原作:大童澄瞳
キャラクターデザイン:浅野直之
オープニング主題歌:chelmico“Easy Breezy”
エンディング主題歌:神様、僕は気づいてしまった“名前のない青”
音楽:オオルタイチ
アニメーション制作:サイエンスSARU
声の出演:
伊藤沙莉
田村睦心
松岡美里
花守ゆみり
小松未可子
井上和彦



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