金ローで『トイ・ストーリー』1&2放送。「革新的」だけではない歴史的名作

アメリカはもちろん、日本や世界で根強い人気を誇る『トイ・ストーリー』シリーズ。その最新作『トイ・ストーリー4』が、この度アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した。ファンにとっては衝撃的な展開も用意された作品だが、その挑戦的な内容が評価されたかたちだ。

そんななか、日本では地上波で、記念すべき第1作、第2作が隔週で放送される。ここでは、そんな2作品を振り返りながら、あらためてこのシリーズとは何だったのかを考えていきたい。

日テレ系『金曜ロードSHOW!』で『トイ・ストーリー』放送

メイン画像 ©2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

CGアニメーション作品の道を切り開いた『トイ・ストーリー』は、革新的な技術だけでなく、心温まるストーリーをも描いた歴史的傑作

CGアニメーション界の偉大な先駆者であり、いまやウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオと肩を並べる存在となった、ピクサー・アニメーション・スタジオ。その代表的な存在といえるのが、『トイ・ストーリー』シリーズだ。

ルーカスフィルムのコンピューター・アニメーションを担当する部署からスタートし、世界初のフルCGによる長編アニメーションを制作するまで16年。ピクサー作品の第1弾は、世界の観客を驚かせた、歴史的な重要作である。

『トイ・ストーリー』予告編

まだまだ初期の発展段階だったCGアニメーションは、研究開発や作業にコストがかかるため、作品のなかの一部に使用するのが当たり前だった。だが『トイ・ストーリー』は、81分間もの上映時間を、すべてCGアニメーションのみで成立させるという奇跡を達成したのだ。手描きアニメーションには無かった立体感や、リアルなライティングといった表現力にくわえ、そこには、心温まる人間的なストーリーも含まれていた。実験の過程ではない。初めから「本物の作品」を世に送り出したのである。

CGアニメーションが世界の大作アニメの主流となったいま振り返ると、それはあたかも、1937年に公開された、ディズニーの世界初の長編アニメーション『白雪姫』の再来といえる。『白雪姫』は、それまで愉快な内容ばかりを求められてきたアニメーションが、深い芸術性を持ち、感動的なドラマを描くことができることを、多くの観客に見せつけ、まさに時代を大きく変革する作品となった。それ以後、アニメーションの可能性は一気に開花していく。そんな偉大なアニメーションに並ぶ作品があるとすれば、『トイ・ストーリー』以外に考えられない。

『白雪姫』(1937年)予告編

嫉妬心に苛まれるおもちゃ、ウッディ。人間臭い葛藤を描いた作品は、ピクサーからディズニーへの反抗にも見える

『トイ・ストーリー』の物語は、「もしも、おもちゃに人格があったら」という発想が基になっている。主人公は、少年アンディの所有する数多いおもちゃのなかで、最もお気に入りであることを誇りに思っている、カウボーイ人形・ウッディ。そして、彼の完璧な世界を揺るがすのが、新しいアンディのおもちゃ、バズ・ライトイヤーだ。子どもの興味は移り変わっていくもの。自分が一番だと信じていたウッディの地位は揺るがされていく……。

注目したいのは、ウッディが嫉妬心にさいなまれていくところだ。前向きに試練を乗り越えていくことが比較的多いディズニー作品と比べると、ネガティブな物語になっているといえるだろう。だが、『トイ・ストーリー』はこのような人間くさい葛藤を描いているからこそ、深い共感が得られる部分があるといえる。ピクサーはその後の作品でも、ディズニーへのカウンターとなるような内容を繰り出していく。

『トイ・ストーリー』の監督はジョン・ラセター。彼はかつてディズニーの社員だったが、ディズニー内でCGアニメーションの制作を主張したことでスタッフらの反感を買い退社に至ったといわれている。しかし、『トイ・ストーリー』の成功後、ピクサーは次々に大ヒットを連発し、その配給を担当していたディズニーは、その破竹の勢いと、新しい技術による圧倒的な表現力に脅かされることになっていく。

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続く『トイ・ストーリー2』で描かれる、おもちゃとしての生き様

ふたたびラセターが監督となった『トイ・ストーリー2』(1999年)では、さらに表現力が向上。キャラクターたちのアクションはもとより、感情表現が飛躍的に豊かになっている。

『トイ・ストーリー2』予告編

この作品でウッディは、ある陰謀によって連れ去られ、その場所で自身に関連したおもちゃに初めて出会う。ウッディ人形は、西部劇をテーマにしたTV番組の人形劇『ウッディのラウンドアップ』の主役おもちゃだったことが分かるのだ。カウガールの人形ジェシーは、ウッディが現れたことで、ウッディとともに日本のおもちゃ博物館に展示されることになり、真っ暗な倉庫からついに出られると大喜びだ。

しかし、ウッディはあくまでアンディのおもちゃである。博物館に飾られることよりも、本来の生き方である、子どもの遊び相手になる存在でいたいと主張する。ジェシーはその考えに対し、過去の悲しい出来事を語っていく。そこから始まる曲“ホエン・シー・ラヴド・ミー(彼女が私を愛していたとき)”と、美しくはかない映像は、涙なしに鑑賞することができない。CGアニメーション作品が、ついに観客の心を震わせる領域に到達したのである。しかし、なぜこのシーンはここまでエモーショナルなのだろうか。

おもちゃの物語なのに、人間の「死」を連想させる。大人にもためになる人生哲学を、おもちゃを通して伝える

第1作では、後進に反発を抱くウッディの感情と、その克服が中心テーマとなっていた。ここではそれがさらに進んで、いつか持ち主がおもちゃを捨てる日が来ることへの不安が描かれている。人間でいえば、死を連想させる事態である。シリーズはここで、誰もがいつか経験することになる死を暗示することで、おもちゃと人間に共通する、はかない運命を表現したのだ。

©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

死は避けられない。だからこそ、いまを精一杯生き、楽しむことに意味が生まれる。『トイ・ストーリー』シリーズは、第2作にして、すでに人生哲学を語り、大人も参考になるような、生きる指針を示すものになった。ここまで考えて作品をつくるからこそ、ピクサーはCGアニメーション作品を牽引し、席巻する存在でいられるのだ。

第3作でさらに深まる「死」の影。第4作では、「おもちゃは子どものもの」という哲学すら揺るがし、賛否を生み出した

ピクサー作品によって、その可能性を見いだしたディズニーは、自身もまたCGアニメーションへ完全に転向することを宣言。豊富な資金力でピクサーを買収することになる。そしてもう一度ラセターを呼び戻し、ディズニーアニメ作品の制作を統括させることになった。これによってジョン・ラセターは、ディズニー、ピクサー両方のスタジオの、制作における代表となり、『アナと雪の女王』(2013年)をはじめとするディズニー作品や、さらに哲学的な深みを増していく、『トイ・ストーリー』シリーズ第3作、第4作の制作にも関わった。

『トイ・ストーリー3』(2010年)は、より死の影が濃くなり、廃棄されたおもちゃが最後にどうなるのかという、目を覆いたくなるような運命を見せてしまう。そして、日本のファンの間で賛否の分かれた問題作『トイ・ストーリー4』(2019年)では、これまでの共通の価値観だった「おもちゃの幸せ」という概念が揺るがされる。そう、シリーズが大事にしてきたテーマを否定すらしかねないショッキングな展開が描かれてしまうのだ。

『トイ・ストーリー3』予告編

『トイ・ストーリー4』特報

ピクサーでは、スタッフたちの長いディスカッションによって物語の展開を議論するという方法がとられる。そんな、物語への熱い想いを持つスタッフたちが、シリーズを本気で作り続け、おもちゃを通して人生の真実を描きたいと思うからこそ、シリーズの究極といえる第4作で、真に過酷といえる決断を表現したのではないか。CGの進化だけでなく、アニメーションの脚本が、ここまでの領域に突入したことを示す意味でも、『トイ・ストーリー』シリーズは代表的な存在なのだ。

アニメ界を牽引するピクサー。近年話題にもなった社会的な課題も問われるCGアニメーションの世界で、時代を作り続ける

だが、『トイ・ストーリー4』制作途中でラセターは、スタジオのスタッフに対するセクハラ行為が明らかとなり、ディズニー、ピクサーの両方から去ることになった。『トイ・ストーリー』、『トイ・ストーリー2』の監督を務め、数々のピクサー、ディズニー作品を手がけてきたラセターの手腕と功績は疑いようがないが、偉大な存在だからといって、人権を無視した行為が許されるわけはない。その判断もまた、アニメ界を発展させる要因になるはずだ。ラセターは現在、スカイダンス・プロダクションズに移籍。アニメーション制作には引き続き関わっているが、過去のセクハラ行為に対する非難の目に晒され続ける可能性はあるだろう。

ともあれ、『トイ・ストーリー』シリーズは、新作が作られるたび、技術的にも物語としても、飛躍的な進化を遂げてきた、CGアニメーションの歴史そのものだということは事実である。その最初の2作は、いま現在のアニメ界の確立と、進化をともに味わえるものとなっている。そしてそのさらなる進化に至る第3作、ある意味で究極といえる第4作を楽しむためにも、『トイ・ストーリー』、『トイ・ストーリー2』は必見であり、時代を超えて語られていく重要作であることは間違いない。

番組情報
日本テレビ系『金曜ロードSHOW!』

『トイ・ストーリー』
2020年2月28日(金)21:00~

『トイ・ストーリー2』
2020年3月13日(金)21:00~

監督:ジョン・ラセター



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