連載:K-POPから生まれる「物語」

TWICEが対峙する「欲望」の複雑さ。『Eyes wide open』が表すもの

デビュー6年目。グループの成熟と変革の意志が伝わる2ndフルアルバム

TWICEらしさとは何か? この問いに対する答えは一つではないが、「TWICEらしさ」が表れるものの一例として“LIKEY”のイントロが挙げられるのではないかと思う。ここで聴こえる「TWICE!」という明るくハツラツとした響きのシグネチャーサウンドは、彼女たちがこれまで世界中のファンの心をとらえてきた、いわゆるパブリックイメージとしての「TWICEらしさ」を端的に表しているように感じるからだ。

TWICE“LIKEY”MV。2017年リリースの1stフルアルバム『Twicetagram』に収録

“LIKEY”に代表されるTWICEのポジティブなエネルギーを詰め込んだ1stフルアルバム『Twicetagram』から約3年、今年10月に彼女たちが発表した2ndフルアルバム『Eyes wide open』は、リード曲“I CAN'T STOP ME”のMV冒頭において大きな蕾が花開くことで現れる9人の姿が象徴するように、デビュー6年目を数えたTWICEの新たな幕開けを宣言する作品となった。

ワイドパンツやパワーショルダージャケットに身を包むメンバーの姿がコンセプトイメージを飾ったこのアルバムには、80sシンセポップ / ニューウェイヴ、コンテンポラリーR&B、シティポップバラード、フィリーソウルなど往年のダンスミュージックとモダンなサウンドセンスの両刀を振るった楽曲群で彩られ、グループの成熟と変革の意志を音楽性から伝えている。

TWICE『Eyes wide open』ティザービジュアル

過去のカルチャーを現代の感覚をもって再構築するスタイルは近年において世界的な勃興をみせているが、このムーブメントを代表する一作『Future Nostalgia』を世に届けたDua Lipaが『Eyes wide open』のラストナンバー“BEHIND THE MASK”の楽曲制作陣に名を連ねている点は、グローバルなシーンを眼差す音楽的志向へと転換をみせた本作において重要性を持つとともに、アルバム全体を貫くサウンドテーマを強く裏付ける要素でもある。

また前作『Twicetagram』に続いてメンバーが作詞に携わっていることに加え、カムバックショーケースで語られたように本作では作詞を担当した各メンバーがパート分けも担っているほか、「シティポップバラードを取り入れたい」というチェヨンの希望により“SAY SOMETHING”が収録されるなど、彼女たち自身の声がサウンド面において影響を及ぼしていることもグループにとって新鮮な試みだ。

Dua Lipa“Physical”MV

TWICE“SAY SOMETHING“ 5周年記念ライブより

JYPエンターテインメントを通じて発表された一問一答のなかで、メンバーのサナが「今回のアルバム収録曲を聴いてみると、今までのTWICEの曲が持っていた雰囲気とは大きく違うと感じることができると思います」と語っているように、彼女たちの新たなイメージが一聴から感じられるこの『Eyes wide open』は、表向きには冒頭で述べたようなパブリックイメージとしての「TWICEらしさ」とは一線を画す作品と印象づけられるかもしれない。

しかし本作によって遂げられた音楽的な志向の成熟と変革こそ、まさにTWICEというグループを体現しているように感じる。そしてその思いは収録曲すべての歌詞と向き合ったとき、より強固なものとなる。『Eyes wide open』というアルバムを通じて映し出されているのは彼女たちの「軌跡」と「現在地」であり、それこそが本作のコアとなっているのではないか、と。

TWICE『Eyes wide open』を聴く(Apple Musicはこちら

“MORE & MORE”から“I CAN'T STOP ME”へ。「欲望」と「私」の関係

『Eyes wide open』を読み解くにあたり、サナはこんな解説で我々にヒントを与えている。

9枚目のミニアルバム『MORE & MORE』に続く世界観をお見せしたいです。純粋な雰囲気と魅惑的な雰囲気を行き来しながら新しい感覚を知ったことを表現した『MORE & MORE』からさらに一歩進んでストーリーを拡張させたんです。2つの作品の関連点を注意深く見てください!(前述の一問一答より)

今年6月にリリースされたミニアルバム『MORE & MORE』と本作が精神的続編であることは、それぞれのリード曲である“MORE & MORE”と“I CAN'T STOP ME”のMVとティーザー(リリース前に公開される予告画像や映像)において、齧られた林檎などの共通のモチーフが登場していたことからも示唆されていた。では“MORE & MORE”と“I CAN'T STOP ME”の2曲は何を分かち合い、どんな変化をみせているのだろうか。

TWICEのミニアルバム『MORE & MORE』を聴く(Apple Musicはこちら

まず“MORE & MORE”における以下のフレーズに着目したい。

<君の耳を何度も塞いでも / 私を遠くに突き放しても><私がまた君を呼べば / 私の声を聞けば / You're gonna be mine again / You're gonna say more(君は「もっと」と言う)>
<私が元々欲張りなのを知らなかったらごめんね / 先に謝っておくよ / Cuz I want you more more(君がもっと欲しいから)>

これらのフレーズを並べて興味深く思えるのは、前者では「君」から「もっと」と求められていた「私」が、後者では「君」を求める立場へと転換している点だ。この箇所以外にも「君」と「私」の間で求む・求められる主体がスリリングに行き来する描写がみられる同楽曲は、欲望というものが生む喜びを純粋に、魅惑的に伝えている。

TWICE“MORE & MORE“MV

続いて“I CAN'T STOP ME”の歌詞を参照しよう。

<答えはわかっているじゃない / でも向かっているじゃない / こんなことしたくないの / 私のなかに私がもう一人いるみたい / 私は求めているのに / 求めてはダメなの>

ここでは“MORE & MORE”において「君」と「私」の間で駆け引きのように揺れ動き、両者に喜びを与えていたはずの欲望が、今度は「私」を動かし「私」の喪失にも向かわせる危険な力へと姿を変えている。

TWICE “I CAN’T STOP ME”MV

このように<止めるのは嫌 / だからもう一度>と歌う“MORE & MORE”と、<I know it's not right / I can't stop me(ダメだとわかっていながら、自分を止められない)>と歌う“I CAN'T STOP ME”には「欲望の力」という共通の主題が跨りながら、前者はそれを喜びとして、後者は危機として描いている点が対照的に映る。そしてこの2曲が立ち上げる「欲望の力」の両義性は、まさに多方面から「欲望の力」が衝突し合うK-POPシーンの第一線を走り続けてきたTWICEというグループの立場を率直に示しているように感じられるのである。

2曲を繋ぐ「欲望の力」。TWICEを止めどなく動かしているものとは何か

ここであらかじめ断っておきたいのは、“I CAN'T STOP ME”をはじめとする『Eyes wide open』の収録曲はいずれも、多面的な解釈を与える普遍性を持つということだ。特に“I CAN'T STOP ME”については、曲中の「私」と「君」の関係から、恋愛ソングであると受け取るリスナーも少なくないと思う。

しかしその上で、筆者は本作の内容から彼女たち自身の姿を思い描き、そこから目をそらすことができないでいる。それは恐らく、筆者自身が彼女たちのいちファンとして、本連載の第1回(「笑顔だけではないTWICEの物語。“Feel Special”が歌う痛みと愛」)で綴った「ファンの呼ぶ声がアイドルの力になっている」ことを実感する喜びを知りつつも、その後の記事(「K-POPのファンダムの力を考察。自主性と連帯が生む熱狂と危険性」)内で触れた、ファンがアイドルを求める力こそアイドルを追い込んでしまっているという危機感、そして対談(「多様化するK-POPコンテンツとファンコミュニティ、その魅力と課題を考察」)内で語った、アイドルがステージを渇望する想いの行方のなかで葛藤する気持ちを抱えたまま、このアルバムと対峙しているからである。

だからこそ“I CAN'T STOP ME”MVのラストシーン、デビュー曲“Like OOH-AHH”のMVでバスに乗っていたときと同じ座席位置に腰を下ろした9人が、暴走する列車に身を預けたまま崖の上から今にも落下しそうになっているさまを見て、その列車を止めどなく動かす力となっていたのは何かということに想いを馳せてしまうのだ。

TWICEのデビュー曲“Like OOH-AHH”MV。2015年リリース

“Feel Special”の引用や、1stアルバムとの対比。過去作との連続性と発展

“MORE & MORE”と“I CAN'T STOP ME”の2曲間に見られるような連続性と発展は、『Eyes wide open』の収録曲とTWICEの過去作との比較からも見いだすことができる。

例えば『Eyes wide open』に収録されている“GO HARD”では、昨年リリースされた“Feel Special”の歌詞のフレーズが次のように引用されている。

<言ったでしょ / 世界がどんなに私を落ち込ませようとしても / You make me feel special>
<辛い辛い言葉が私を突き刺して傷つけても / You make me feel special>(“GO HARD”)

しかし印象的なのは、“Feel Special”の歌い出しが痛みを打ち明けるものだったのに対し、“GO HARD”では歌い出しで力強さとともにどこか孤独をまとう姿勢が打ち出されていることである。

<こんな日がある / 急にひとりぼっちだと感じる日 / どこに行っても私の居場所じゃない気がしてうなだれる日>(“Feel Special”)

<私はただ歩いていく / あの光が導くままに / 簡単にやめたりしない / 私は小さくても弱くない / なんだろうと関係ないから>(“GO HARD”)

そのためこの2曲は同じフレーズを分かち合いながら、“Feel Special”では相手へ語りかけるような、“GO HARD”では自分自身を奮い立たせるために発しているような響きをもつ点で異なったニュアンスを与える。

TWICE“Feel Special“MV

また、1stフルアルバム『Twicetagram』に収録された“JALJAYO GOOD NIGHT”は聴く者に安らぎを与え眠りへ誘う内容だったのだが、本作に収録された“UP NO MORE”は、「私」が眠れない夜に抱く不安を吐露するものとなっている。

<今日一日どうでしたか? / 辛い出来事はなかったですか? / そんな風に一日一日生きていけばいいのでしょう / もう少し頑張って 私を思って>(“JALJAYO GOOD NIGHT”)

<闇が濃く立ち込めたこの夜に一人 / 今も明るい私の一日を終われずにいる>
<こんな日がまた何か月かになって何年にもなって / 私はさらに崩れていく>(“UP NO MORE”)

作詞を手掛けたジヒョがテーマを「不眠症」であると明かしている“UP NO MORE”には、人々に夢を見せるような内容であった1stアルバムには描かれていない現実性が呈示されている。

ジヒョが作詞を担当した“UP NO MORE”のパフォーマンス

TWICEの「現在地」が示すファンへのまなざし

さて、ここで「TWICEらしさとは何か?」という問いに改めて立ち返りたい。本稿冒頭において、この問いに対する答えは一つではないことを述べたが、先に挙げた“LIKEY”及び『Twicetagram』に表されていない彼女たちの側面は、“Feel Special”に見ることができる。

詳しくは前述の本連載「笑顔だけではないTWICEの物語。“Feel Special”が歌う痛みと愛」に綴ったとおりだが、「アジアNo.1ガールズグループ」として活動するなかで背負う痛みを知らせた本楽曲は、<You make me feel special / 世の中がどれほど私たちを落ち込ませようとしても / 痛くて苦しい言葉が私たちを突き刺しても / 君がいるから私はまた歌う>と歌うことで、彼女たちとファンがこれまでに築き上げてきた特別な関係を伝えていた。

TWICEのミニアルバム『Feel Special』を聴く(Apple Musicはこちら

しかし実のところTWICEが負う痛みは、その「特別な関係」によっても生みだされるものであるということに、筆者を含むファンは気づいているように思う。日々、こちらが消化するのがやっとなほど豊富なコンテンツを生み出し続ける彼女たちに、どこまでも「あるべき姿」を望むのはいつも私たちファンであり、時にはその期待が彼女たちの肉体と精神を追い詰めてしまっているという現状があるからだ。“Feel Special”で歌われていた、TWICEを特別な存在にする<私を呼ぶ君の声>は、彼女たちを乗せる列車を止めどなく動かす危険な「欲望の力」にもなっている──そんな切実なメッセージが発せられる本作にこそ、TWICEの「現在地」がありのままに示されていると感じる。

日本で今年9月にリリースされたベストアルバム第3弾『#TWICE3』通常盤ジャケット

前作『MORE & MORE』リリース時に行われたインタビューにて「キュートでエネルギッシュとして知られるTWICEとしての既存のイメージと、アーティストや個人としての進化が感じられる本作の新たなイメージとのバランスをどのようにとったか?」と問われたミナはこう答えている。

そのバランスは、私たち一人一人が誠実で、偽りがなく、自分らしくいるかどうかということにかかっています。TWICEはファン、そして世界と共に進化しています。私たちは私たちであり続けながら、グループの成長とともに新しい音楽、振付などに挑戦することを大切にしています。
2020年6月19日掲載「BuzzFeed」インタビューより(外部サイトを開く

TWICEがTWICEであり続けながら新たな表現に挑戦することがTWICEにとっての「誠実で、偽りがなく、自分らしくいる」ことだとすれば、『Eyes wide open』はまさにそんな彼女たちの理念を体現した、「誠実で、偽りがなく、TWICEらしい」作品だ。

そしてそこには、昨年活動を休止していたミナが、休養期間後に初めてファンの前に姿を現した場でチェヨンが明かした、次のような意志が表れているように思う。

私たちにとって、私たち自身のことを表現して伝えることはとても難しいことですし、それはどんなに長い手紙を書いても伝えることが出来ないと思います。私たちは作品やステージを通してしか、私たちのことを伝えることが出来ません。なぜなら、それが私たちの務めだから。
(昨年のデビュー4周年ファンミーティング『ONCE HALLOWEEN 2』より)

最後に、本作のカムバックショーケースにおけるラストナンバーとしてナヨンの「ONCE(TWICEファンの総称)へ、私たちの信頼と勇気を込めた曲です」という言葉とともに披露された“BELIEVER”の歌詞を紹介して本稿を締め括りたい。TWICEが『Eyes wide open』を通じて彼女たちの「軌跡」と「現在地」を伝え、勇気ある変革を遂げたいま、彼女たちを動かす危険な「欲望の力」たるファンのあり方も改めて問われているのかもしれない。

<この歓喜の中に 荒れた雨の中に / 私が愛するその無謀な夢と明るい微笑みを見せて / Cause I see the light / 君はできるよ / 私が君を信じているじゃない>

TWICE“BELIEVER”ライブ映像



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