紅白出場の櫻坂46、『Nobody's fault』が描く未来への一歩

10月12日と13日に配信されたラストライブをもって欅坂46の5年の歴史に幕を閉じ、10月14日から新たな坂を登り始めた櫻坂46が、2020年の最後を飾る音楽番組『第71回NHK紅白歌合戦』に初出場する。

グループカラーも「緑」から「白」に変わり、12月8日には2016年に欅坂46がデビューカウントダウンライブを開催した会場と同じ東京国際フォーラム ホールAから全国の映画館への中継でデビューカウントダウンライブを行なった、この生まれたばかりのグループを、12月9日にリリースされた1stシングル『Nobody's fault』が描く世界から眺めてみたい。

櫻坂46と欅坂46の関係性。断ち切られたのではなく、地続きにある

櫻坂46は、欅坂46を卒業、脱退したメンバーを除いた1期生11人と2期生15人の計26人で構成されており、1期生、2期生という分け方は欅坂46を踏襲している。

2期生は、2018年8月に最終審査が行なわれた『坂道合同オーディション』の合格者で構成されているが、同年11月に欅坂46に加入した9人と、その時点では乃木坂46、欅坂46、けやき坂46のどのグループにも配属されず、「坂道研修生」として活動した後、今年の2月に欅坂46に配属された6人で構成される。フィジカルリリースという意味では欅坂46のシングル曲に参加していない2期生にとって『Nobody's fault』が初のシングルであり、1期生にとっては欅坂46の最後のシングルとなった8thシングル『黒い羊』が発売された2019年2月27日から数えると、およそ1年10か月ぶりのシングルとなる。

櫻坂46『Nobody's fault』通常盤ジャケット
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けやき坂46から改名した日向坂46(参考:日向坂46が紅白初出場。“キュン”で体現する「ハッピーオーラ」)とは違って櫻坂46が欅坂46の楽曲を披露することはなさそうだが、両グループ名の由来とされる六本木の「けやき坂」と「さくら坂」は実際に隣接しており、欅坂46のラストライブでは「その角を曲がると、新しい坂道が続いてた」という小林由依の語りと共に映像が流れ、欅坂46を脱退した平手友梨奈のソロ曲には“角を曲がる”という楽曲があり、冠番組『欅って、書けない?』は『そこ曲がったら、櫻坂?』に生まれ変わり、Twitter、YouTubeのアカウントもそのまま引き継がれ、メンバー自身もパフォーマンスを通じて楽曲のメッセージを届けるという欅坂46で培った姿勢を受け継ぎつつ新たな挑戦をしていきたい、という内容のことをたびたび語っているように、改名にあたって両者の関係が断ち切られたわけではなく、むしろ櫻坂46は欅坂46と地続きの関係にある。

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新たに導入された「櫻エイト」とセンター3人体制。全ての楽曲を14人編成で披露する狙いは?

櫻坂46が欅坂46と大きく、もっと言えば、乃木坂46、日向坂46とも異なるのは、櫻坂46の1stシングル『Nobody's fault』で採用された「櫻エイト」という新システムと、センター3人体制である。

全7曲収録の1stシングルでは、森田ひかる、藤吉夏鈴、山﨑天といういずれも2期生の3人が各楽曲のセンターを担当し、全ての楽曲が14人編成でパフォーマンスされる。14人の内1列目2列目の8人は「櫻エイト」として全楽曲の1列目2列目に参加し、3列目の6人は楽曲ごとにメンバーが変わる。歌割りやデビューカウントダウンライブでのフォーメーションの動きから、14人編成とは、魅力あるメンバーを埋もれさせないための策、つまり、櫻坂46が掲げる「全員で、輝ける、未来へ。」を実現するためのものであるという印象を受けた。

櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-Aジャケット。3人のセンターが並ぶ
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ベールを被ったメンバーの姿は何を意味する? 複数形態のジャケット全体で描く「進化」の過程

常田大希(King Gnu、millennium parade)主宰のクリエイティブチーム「PERIMETRON」がアートワーク、同集団所属のOSRINがアートディレクションを担当した1stシングル『Nobody's fault』のジャケットに目を向けてみると、計5タイプの内のTYPE-Aのジャケットには、センター3人体制を象徴するように――欅坂46時代とは異なって――森田ひかる、藤吉夏鈴、山﨑天の3人が三角形をなすように配置されている。

それぞれがセンターを務めた楽曲から、森田ひかるセンターの表題曲“Nobody's fault”、藤吉夏鈴のセンター曲“なぜ 恋をして来なかったんだろう?”、山﨑天のセンター曲“Buddies”の3曲についてはMVが制作されているが、坂道シリーズではカップリング曲のMVはリリース後にショートバージョンになることが多い中、今回はそうなっていないことや、機会は少ないもののカップリング曲も音楽番組で披露されていることから、完全に同等とは言えないにしても、この3曲がトリプルA面的な扱いであり、1stシングルではこの3人をグループの「顔」としていくという姿勢が窺える。

櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-Bジャケット
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TYPE-Bのジャケットは、3人のセンターを除いた櫻エイトのメンバーと、ベールのかかった3列目のメンバーがその後ろに控えるという構図になっているが、通常盤ではベールを手にした山﨑天を中心にいまだまどろみの中にあるような3列目のメンバーが花の蕾のような、TYPE-Dでは藤吉夏鈴を中心に蕾が花咲こうとしているような、TYPE-Cでは花が咲き舞い踊るような陣形をとっており、ジャケットを裏返すとそれぞれのメンバーがベールを被っていたりいなかったりしていることから、ベールで覆われた状態とは、やがて花咲くことを内に秘めた種のような状態を暗示し、ジャケット全体で「進化」の過程を描いているように見える。裾が櫻色に染められた白のロングスカートは腰を下ろすと花のように広がる。

櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-Cジャケット
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櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-Dジャケット
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以上を踏まえつつ、“Nobody's fault”“なぜ 恋をして来なかったんだろう?”“Buddies”の3曲が「まだ何色にも染まっていない」櫻坂46の1stシングルの世界をどのように彩っているのか見てみたい。

グループの「新生感」を打ち出す始まりの楽曲“Nobody's fault”

それが表題曲であるという意味において櫻坂46の始まりの楽曲である“Nobody's fault”は日本語にすると「誰のせいでもねえ」を意味する。センターに選ばれた森田ひかるは、欅坂46時代にも2019年末の『CDTVスペシャル!年越しプレミアライブ 2019 → 2020』での“黒い羊”と、今年10月にリリースされた欅坂46のベストアルバム『永遠より長い一瞬 ~あの頃、確かに存在した私たち~』の収録曲“10月のプールに飛び込んだ”でセンターを任せられており、2期生の中で唯一センターを経験している。

冒頭から<この世界を変えようなんて><自惚れてんじゃねえよ>とべらんめえ口調で畳み掛ける“Nobody's fault”では、<勝手に絶望してるのは 信念がないからだってもう気づけ!>といった命令形や、<生き方を改めようなんて できるわけないって逃げるのか?>といった疑問形、いずれも二人称もしくは自分自身に向けた歌詞と共鳴するようなダンスに、ロングスカートの特性を活かした振付を採り入れるなど、ミリタリー風制服の膝丈スカートや、パンツルックが特徴的だった欅坂46に対してビジュアル面での変化も見られる。

森田ひかるがセンターを務める櫻坂46“Nobody's fault”MV

「自由への渇望と絆」をテーマに佐渡島で撮影された“Nobody's fault”のMVは、「薄明」「船の汽笛」といった「始まり」をイメージさせるモチーフにはじまり、<もう一度 生まれ変わるなら>という歌詞にあわせて衣装が制服からロングスカートに切り替わり、欅坂46のオマージュと思しきシーンを盛り込みながら、最後は青空のもと櫻の花びら舞う坂道を駆け上がっていく、というように「新生感」を打ち出している。胸元で作る三角形のポーズは、11月29日に配信された菅井友香の『SHOWROOM』によると「坂道から未来を覗いている」という意味が込められているという。

森田ひかる個人PV『革命前夜』予告編(櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-D収録)

「全員で、輝ける、未来へ。」のメッセージと呼応する“なぜ 恋をして来なかったんだろう?”

「なぜ」と「恋」の間の「 」が“Nobody's fault”の歌詞<一つが残る椅子取りゲーム>における「椅子」のように見えなくもない“なぜ 恋をして来なかったんだろう?”のMVでは、鐘の音と共に櫻の花びら舞う螺旋階段を舞台に、<まるで盛りのついた猫だ>と恋することを<今までずっと バカにしてた><私>が恋をしましょうと、疾走感ある楽曲と共に<微笑み>を振り撒きながら、<盛り上がり中>の<私>をときに冷笑的な眼差しで眺め、ときにマリオネットように佇む周囲をやがて笑顔にしていく姿が描かれる。<私>が周囲を解放していく姿は欅坂46の“アンビバレント”を彷彿とさせる。

藤吉夏鈴がセンターを務める櫻坂46“なぜ 恋をして来なかったんだろう?”MV

MV後半部、カメラワークが瞬時に切り替わり、中盤では眠っていたメンバーたちを「主人公」のように次々と映し出していくシーンは、<恋は主人公になるべきよ><そばで見ている観客より><幸せは 参加すること>、つまり、観客であるより積極的に主人公であれ、という歌詞内容と呼応して、「全員で、輝ける、未来へ。」に通じるエールになっているように見える。『EX大衆』2021年1月号の増本綺良へのインタビューによるとMVではひとりひとりキャラクターが設定されていたというが、「全員で、輝ける、未来へ。」の未来とは、誰か、何か、によって与えられるのではなく、「輝く」が自動詞であるように各々が自ら主人公になることによって辿り着くことのできる場所なのだろう。

藤吉夏鈴個人PV『藤吉さんを笑わせたい』予告編(櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-C収録)

進化していくグループの先を見据える“Buddies”

最年少15歳の山﨑天がセンターを務める“Buddies”のMVでは、<真っ青な空><季節の風><花の香り><緑の木々><漏れる日差し><大地>といった歌詞が表す「自然」と、新宿や渋谷に聳える高層ビルという「人工物」とが、「反射するビルの窓」「ビルの窓から漏れる明かり」「太陽の逆光」「蛍光灯」「白い衣装」「薄明」「床の返照」「川の照り返し」「夕日」「笑顔」といった「光」の属性の多用によって、まさしく“Buddies”が「仲間」を歌うように調和している。

調和の中、<生きよう><歩こう><未来へ>と繰り返し歌われることで、ここからよりよい未来へと向かってもう一度新たな物語が始まることを予感させる“Buddies”のMVは、ドローン空撮による映像の雄大さもあって、10月18日深夜放送の『そこ曲がったら、櫻坂?』で「変化ではなく進化していきたい」と語った山﨑天のグループ全体を見渡すような頼もしさを描いているようである。

山﨑天がセンターを務める櫻坂46“Buddies”MV

“Nobody's fault”との関係で言えば、“Nobody's fault”の<この世界を変えようなんて>の世界が「悪い状態の世界」、“Buddies”の<Yo! 世界は何も変わっちゃいない>の世界が「よい状態の世界」であるとするならば、“Buddies”の「世界」とは、“Buddies”の衣装が「未来的」であるように、“Nobody's fault”の三角ポーズから見える未来なのかもしれない。<全てを奪った嵐は もう通り過ぎた>のだ。

山﨑天個人PV『蒼天』予告編(櫻坂46『Nobody's fault』TYPE-C収録)

あらゆる色となる可能性を秘めた、未来を切り開く「白」

ここまで見てきた3曲は異なる表現方法においてそれぞれの色を出しながら、いつの日か満開となった未来へと向かう第一歩を描いていると言えるだろう。グループカラーの何色にでも染まれる「白」とは、やがて赤だとか青だとか緑だとかの特定の色に染まるのではおそらくなく、あらゆる色となる可能性を内に秘めながら、新たな挑戦の中で新たな色となることで未来を切り開いていく、そういう「白」なのだろう。

『第71回NHK紅白歌合戦』では、井上梨名と関有美子が出演した12月21日放送の『ゆうがたパラダイス』によると26人全員で“Nobody's fault”が披露される。26人でパフォーマンスされる“Nobody's fault”が櫻坂46のどのような色を見せてくれるのか、同放送で「櫻坂の全員で出るという意味をみなさんにお伝えできたらいいなと思います」と語った関有美子の言葉を噛み締めながら当日を待ちたい。

櫻坂46ロゴ


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