2020年11月に実施したNulbarich・JQとの対談に立ち会い、そのロジカルに話す聡明な姿が深く印象に残ったVaundy。彼が12月27日という、2020年の年末に新曲“世界の秘密”を発表。今作も彼の聡明さがにじみ出る楽曲になっている。そこで今回、Vaundyのキャリアを振り返りながら、その魅力を改めてライター柴那典に考察してもらった。
あまりに「見えてしまう」観察力が表出した新曲“世界の秘密”
Vaundyのアーティストとしての才能の根源は「視力のよさ」にあると思っている。
いろんなことがとても遠くまでクリアに見えている。だから時代の空気感を的確に捉えて分析し、形にすることができる。聴く人の耳を掴む、絶妙なセンスを持っているのだ。
その一方で、彼の表現には「見えてしまう」がゆえの葛藤と諦念、それを踏まえた誠実さがにじんでいるように、筆者は感じる。トレンドの流れだけでなく、人の心の汚い部分や、世の中の矛盾、普段多くの人が無意識のうちに目を逸らそうとしているところまで、見えてしまう。だから、たとえば「愛」というテーマで表現をするようなときでも、その裏側にある痛みまで含めて描かれる。笑顔と悲しみが背中合わせになっていること、正しさが多面的であること。そういうモチーフがたびたび曲の中にあらわれる。筆者としては、彼の楽曲のそういうところに惹きつけられる。
先日リリースされた新曲“世界の秘密”も、まさにそういうタイプの曲だろう。コロナ禍の自粛期間に制作が始まったというこの曲。ゆったりとしたグルーヴと温かみのあるメロディーに乗せて、<アイムソーリー 気づいちゃったよ 世界のこと>と歌うこの曲。MVの映像で、特にカメラが俯瞰で引いていく(そしてよく見ると、紙吹雪が舞い全員が踊る中で1人踊らずに立ち尽くす青年がいる)最後の場面も含めて、とても深い意味性を感じさせる曲だ。
単に「おしゃれな曲を歌うシンガソングライター」ではない、問題意識の表現者
2000年生まれで現在20歳の現役大学生。作詞、作曲、アレンジすべてを自ら手掛け、アートワークや映像制作にも携わるマルチアーティストのVaundy。2019年5月に初のオリジナル曲“pain”をYouTubeに投稿し、活動を開始した彼は、同年9月に投稿された“東京フラッシュ”が約1カ月で再生回数100万枚を超えるなど大きな注目を浴びる。
筆者が彼のことを知ったのは、この曲が配信スタートした2019年11月の頃。後にインタビューなどで「今の流行りのサウンドやコード進行を分析して作った」と“東京フラッシュ”について語っていて、「なるほど」と納得した。ただ、さらに筆者が目を見張ったのは、その後に発表された“不可幸力”。<みんな心の中までイカレちまっている><そんな世界にみんなで寄り添いあっている><みんな心の中から弱って朽ちていく><そんな世界だから皆慰めあっている>と歌うラインが耳を掴んだ。
Vaundyは、天性の甘い声を持ち合わせ、メロウでお洒落なポップスを歌うシンガーソングライター、というだけではない。ポップソングを「社会に対する問いかけ」として表現する、鋭い問題意識を持つアーティストだ。たとえば米津玄師やサカナクションの山口一郎はそういうタイプのミュージシャンだが、彼もその系譜に連なる表現者だと思う。
そういうことから考えると、彼のスタート地点が“東京フラッシュ”ではなく、痛みをテーマにした“pain”から始まっていることも、とても重要なポイントだ。
着実なステップアップを重ねるVaundyに期待するもの
2020年に入ると、Vaundyの名前はそこかしこで聞かれるようになってきていた。実際、とある音楽番組で筆者も「2020年にブレイクするアーティスト」として彼の名を挙げたのだが、そのときに個人的に彼の可能性をもっとも強く感じたのは2020年2月に発表された“僕は今日も”だった。他者との会話から自分自身のアイデンティティーを掘り下げ「歌を歌う理由」にたどり着く歌詞をエモーショナルに歌い上げる、壮大な1曲だ。
5月27日には1stアルバム『strobo』がリリース。ドラマ主題歌に起用された“灯火”や“Bye by me”、SpotifyのCMソングに起用された“不可幸力”などのメディア展開もあり、この頃からどんどん彼の名は広まっていった。さらにはLauvからのオファーでのグローバルリミックスアルバムに参加し“Modern Loneliness (Vaundy Remix)”を発表するなど、海外にもその評価は伝わっていった。
Lauv“Modern Loneliness (Vaundy Remix)”を聴く(Apple Musicはこちら)
アルバムのリリース後はライブやコラボレーションも積極的に行ってきた。8月には4月から延期となった初のワンマンライブ『Vaundy 1st One man live “大人間前夜”』を無観客の形で開催。10月にはZepp Haneda(TOKYO)で2ndワンマンライブ『Vaundy 2nd one man live “strobo”』を行い、その高いミュージシャンシップを見せた。
さらに10月28日にはNulbarichの新曲“ASH feat. Vaundy”に参加。2人の対談(参考:Nulbarich×Vaundy対談 曲作りに秘められた頭脳戦)によると、フィーチャリングというよりも、プロデューサー気質を持つ両者がゼロから曲作りの過程をコラボした共作だったようだ。
こうして着実にステップを重ねてきたVaundy。2021年は彼にとって、さらなる飛躍の年になるはずだろう。事実、2021年1月8日に放送された音楽番組『バズリズム02』(日本テレビ系)では、毎年恒例の新春特別企画「これがバズるぞBEST10 2021」で1位に選出された。音楽関係者149人へのアンケートをもとにしたランキングで、これまでの1位は、WANIMA(2016年)、ヤバイTシャツ屋さん(2017年)、CHAI(2018年)、King Gnu(2019年)、Novelbright(2020年)という並びで、いわば「成功が約束された」ランキングでもある。ちなみに、これが初めての地上波出演となった彼。番組プロデューサーの前田直敬氏はこんな風にツイートしている。
「次は10→100だ」。そこには筆者も同意する。ただ、彼の進む道の先には「人気が出る」とか「ランキングで1位になる」とか「ライブの動員が増える」だけではない、なにかしら「時代を射抜いてしまう」ポップソングが生まれる未来が待っているような気がしている。
Vaundy“世界の秘密”を聴く(Apple Musicはこちら)
- リリース情報
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- Vaundy
『世界の秘密』 -
2020年12月27日(日)配信
レーベル:株式会社SDR
- Vaundy
- プロフィール
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- Vaundy (バウンディー)
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作詞作曲からアレンジまでを自身で担当し、アートワークのデザインや映像もセルフプロデュースする20歳の現役大学生マルチアーティスト。2019年秋頃からYouTubeに楽曲を投稿し始め、「東京フラッシュ」「不可幸力」のYouTubeでの総再生回数が8000万回を突破するなどSNSを中心に話題を集める。2020年5月に、Spotify PremiumのテレビCMソング「不可幸力」やFODオリジナルドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌「灯火」などを収めた1stアルバム「strobo」を発表。10月には東京・Zepp Haneda(TOKYO)にて自身2度目となるワンマンライブを開催した。
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