私たちにとっての「デジタルコミュニケーションの未来型」をテーマに、実力派クリエイターや業界のキーパーソン、またこの世界に挑戦する人々を取材してきたこの連載。これまでデジタリハリウッドの杉山知之学長や、インタラクティブデザイナーの中村勇吾さん、またクリエイティブディレクターの伊藤直樹さんらにお話を聞いてきました。
今回も、同じクリエイティブ業界で大きな盛り上がりを見せている「ソーシャルカードゲーム」の世界にスポットをあてます。一岡亮大さん率いる株式会社MUGENUPは、コンテンツ業界の急先鋒であるカードゲームを舞台に、イラストレーターと企業を結ぶ新しい形を実現して注目されています。そしてこの試みは、やはりデジタルネットワークの発展を背景に登場した一面をも持っています。そこで一岡さんに、彼らによる「クラウドクリエイティブスタジオ」の仕組みと可能性を伺いました。また、デジタルハリウッド東京本校で行われたMUGENUPの講演の模様もレポートします。
一岡亮大
Creative Director, CEO
首都大学東京卒。三井住友銀行ホールセール部門を経て、フリーランスエンジニアへ転身。その後、株式会社MUGENUP代表取締役に就任。
http://mugenup.com/
MUGENUP代表の一岡さんは、かつてゲーム開発などに携わるプログラマーとして活躍してきた方。そんな経歴からイラストレーターとも身近な関係にありました。彼らの置かれた厳しい仕事環境を、急成長を見せるあるマーケットを舞台にして改善していけるのではないか? この発想が、いまの仕事を始めるきっかけだったといいます。
一岡:知人のイラストレーターたちの話を聞いていると、イラストの重要性や制作にかかる労力に比べ、対価などの待遇面では充分と言い難い厳しい状況にあることがわかりました。その中で、弊社ではソーシャルゲームという業界に注目しました。
急成長するソーシャルゲーム市場では、ビッグタイトルとして知られる『怪盗ロワイヤル』などに続いて登場した、『ドラゴンコレクション』『神撃のバハムート』などのカードゲーム勢がさらなる人気を開拓します。2012年のこの業界の売上は2400億円。コンテンツ産業でいえば邦画マーケットに並ぶ勢いで、コンシューマーゲーム界の売上にもやがて追いつくと予想されているそうです。
一岡:特に携帯やスマホで遊べるカードゲームは成長著しいのですが、こうしたゲームの成功は、魅力的な絵柄のカードを、スピーディーかつ大量に創り出せるかどうかの勝負です。いま1タイトルの製作期間は約3ヶ月で、100〜150枚のカードが必要。よほど体力のある会社でなければ社内のデザイナーがこなすことが大変難しくなっています。とはいえ外部から数十人のイラストレーターに依頼してまとめ上げていくのも、ノウハウなしでは難しい。そこで、僕らがイラストレーターと企業とを結びつけられないかと考えました。
カードゲームは絵のクオリティや世界観が命。かつ「ファンタジー」「武士もの」などジャンルによっても異なる絵柄が求められます。クライアントからの多様なニーズに応えつつ、個々のゲームの世界観を作り出し、大量のイラストを短期間に制作するには、かなり綿密なクリエイティブディレクションが求められます。これを実現するために、MUGENUPが試みた仕組みとはどんなものなのでしょう?
一岡:協力してくれるイラストレーターたちのネットワークをつくり、ゲームタイトルごとにチームを組んで、分業制でイラストを作っていきます。「キャラデザイン」、「作画」、「背景」、「着彩」といった要素ごとに、それぞれ適した担当者が協業していく形です。ここでイラストレーターたちの頑張りと同じく重要なのは、各段階でMUGENUPのアートディレクターが的確な指示を出していくことです。例えば腕を少し前に出しただけで迫力がぐっと増したり、瞳の色を変えただけでセクシーになる。経験豊富なイラストレーターでもある彼らの指導が、高いクオリティや世界観の統一、また予定通りの納期達成を実現しています。
下絵の段階で構図を決めていく。
上記は、腕の位置の修正を指示した際の画像。
現在は約200名ものイラストレーターが参加しているとのこと。こうしたシステムを実現可能にしたインフラとして、デジタルネットワークの発展も必要不可欠な要素でした。MUGENUPの分業型制作は、インターネットを介したやりとりを軸に行われます。ほとんどのやりとりは社内の独自のSNSのようなシステムを介して迅速かつ円滑に実現。これが「クラウドクリエイティブスタジオ」の呼び名の由縁で、東京を拠点にするMUGENUPが、イラストレーターのネットワークを日本中どころか、海外にも広げられている理由なのです。
一岡:やはり東京からの参加は多いですが、他地域からも大勢の優れたイラストレーターが参加してくれます。全国各地の美大生もそうですし、あとなぜか北海道の方が多いのも、同地出身の自分としては、そこで働く人を増やせれば地元に貢献出来ると感じています。また、韓国やアメリカなど海外の方もいます。日本語ができる人もいますし、英語でやりとりしているケースもあります。顔は知らないけど絵は知っている、という方も多いんです(笑)。
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