才能の育成といえば、この日のインタビュー後にもMUGENUPはデジタルハリウッド東京本校で講演を行いました。集ったのは、グラフィックデザイナー専攻やデジタルコミュニケーションアーティスト専攻など、ジャンルを超えた受講者たち。彼らの前で、その想いをときに熱く、ときにユーモラスに話す一岡さんの姿が印象的でした。
クリエイターの卵を前にしたこの講演では、取材時に伺った内容に加え、より現場感のある解説も加えられていました。例えば、日本のソーシャルカードゲームが北米App Storeなどでも売上ランキング上位を獲得するなど、世界で勝負できること。また、海外への進出に伴いローカライズも行っていることも、興味深い事実でした。MUGENUPもこうした国際的な動きを視野に、アメリカのイラスト制作スタジオと提携を結んでいるそうです。これもまた、「イラストを軸に世界をクリエイトする」ビジョンの具体的な施策なのでしょう。
さらに『探検ドリランド』のアニメ化ニュースなどにもふれ、近年はソーシャルゲームからグッズやアニメなど多角的な展開がなされるケースも出てきていることを紹介。その作り込まれた世界観が、さまざまな表現領域に広がり得る将来にも言及していました。
画像は仕様書の例
続いて、MUGENUPアートディレクター陣からも、越村華子さん、脇恭介さんが登場。実際に使われた原稿をもとに解説する贅沢なレクチャーを披露してくれました。まず、カードイラストを描く際の3つのポイントとして「迫力」「密度」「色気」を紹介。それぞれを効果的に魅せるための工夫を、構図の取り方や装飾・ディテールのテクニックなど、具体的なかたちで解説してくれました。
さらに、MUGENUPが実際に採っている作業フローを公開。カードゲームの各キャラ設定を整理した指示書をもとに、ラフ画をおこし、線画、背景、配色、塗り、背景、仕上げ・エフェクトと進むプロセスを解説します。会場に原稿が映し出され、それがどんどん魅力的に変化していきます。配色は3パターン用意して決める、などの実際的な手順に加え、アートディレクターが下絵に指示入れしていく様子をスクリーンでライブ実演するなど、制作現場の様子がリアルに伝わる内容となりました。
質疑応答の時間には、デジタルハリウッドの学生たちがこの世界への率直な関心をぶつけます。「1枚のカードの作業フローにかかる平均時間は?」との質問には「標準的なものであれば各パート約2〜3時間(=計8時間)」と回答がなされ、そのスピード感に改めて驚かされました(その後には制作元による確認の時間なども控えているとのこと)。いっぽう、MUGENUPの制作システムに参加しているイラストレーターたちは、自宅でもカフェでも、とにかく作業が進められるなら場所は問わないというフレキシブルな面も紹介されました。
また、レクチャーで登場したイラストの「空間づくり」について、より突っ込んだ解説を求める声もありました。これについては越村さんから「実際は今日紹介したことも含めた、細かい要素で成り立っているもの。それを事例ごとにディレクションしていくのが、まさに私たちの仕事です」と答えていました。
脇さんからは「いろいろなジャンルの絵柄研究も重要」とのアドバイスがあり、これを受けて一岡さんも「デッサンなどの技術力と別に、センスも求められる。ただしこれは『見ること』でストックされる面が大きいんです。音楽と同じで、例えば『70年代生まれに響く絵』みたいなことが的確に表現できる能力ということです」とコメント。さらに「行きたいジャンルがあるなら、誰よりもそこに詳しいと言えるようになるべき」と参加者にエールを送りました。
また一岡さんは「僕らのほうでも常に皆さんとディスカッションしたい気持ちをもっています。また機会があればぜひ」と、若いクリエイターの感性を旺盛に取り入れたい姿勢を表明。カードゲームの世界にとどまらず、広く表現全般において大切なヒントも多くちりばめられた講演となりました。
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