第1回
湯山玲子×トミヤマユキコ対談男が日和る現代、女は仕事・結婚・性をどうすべき?
欲望は誰にだってあるもの。物欲、名声欲、食欲……さらには性に関わる欲望を表明し、実行するのは時に様々な壁が立ちはだかる。相手に引かれたらどうしよう、自分だけの特殊な癖だったらどうしよう……。そんなことを考えるたびに人間関係に思い悩むのは、男女の区別を問わない普遍的な思考回路だ。
今回から始まった連載では、女の欲望解放論を掲げ、これからの女の生き方(ひいては、男の生き方)を考えていく。第1回に登場していただくのは、アグレッシブなライフスタイルが他の追随を許さない著述家でディレクターの湯山玲子さんと、気鋭の漫画研究者にしてパンケーキのエヴァンジェリスト、トミヤマユキコさん。
世代の異なる二人が見る、現代社会の女の生きる道とはいかなるものか? 結婚、仕事、そして性欲の解放の話まで、くんずほぐれつ展開するトークから見えてくるものとは!
テキスト:島貫泰介 撮影:豊島望トミヤマユキコ
1979年秋田県生まれ。ライター、研究者。ライターとして『ESSE』や『図書新聞』などで執筆。早稲田大学などで、少女小説、少女漫画を中心とするサブカルチャー関連講義を行う。趣味はパンケーキの食べ歩き。著書に『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』など。
twitter男にとっての「ファンタジー」が
叶わなくなった現代社会
トミヤマ:湯山さん、つい最近新刊(『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』)を出されましたよね。面白く読みました。
湯山:ありがとうございます。あの本に書いてあることは、男性論と謳ってますけど、女性についての本でもあるんですよ。男がこういった現状だから、女性はそこに合わせざるを得ない、というところがある。女は男を好きになったら自分を抑える方向にいきますからね。30代で自己認識が低くて、恋愛に消極的な人たちを「こじらせ女子」と呼ぶ、ある種の世代論が最近もてはやされているけど、そういう人たちは私が若い頃からいっぱいいた。女を乗りこなせないタイプ、女を上手くやることに抵抗がある人たちね。私は、男と違って女に世代論はあまりないと思っているんですね。昔は「ロマンチックラブ」という名の私に言わせれば一種の「カルト宗教」が柱になっていたから、建前では「恋愛して、結婚して、愛する男と一生添い遂げるのが女の幸せ」なんて言って、その枠に自分を無理矢理あわせて、なんちゃってでもいいから実行しようとしたけれど、当時から頭のいい女はそのファンタジーに合わせながらも内心は「ケッ!」って思ってた。今、ようやく少数派だった「ロマンチックラブ」に従えない人たちが前面に出てきたってだけ。
トミヤマ:なるほど。
湯山:私も二枚舌の二刀流で、ファンタジーに従うふりをして、まだまだ強固だった男らしさをキープしようとし、実際に「か弱い女」を守ろうとして、経済力や権力もあった男を「立て」たりしていた時期もあった。しかし、申し訳ないが、今は男性たちと社会がそういう状況ではない。
トミヤマ:高度経済成長が終わり、バブルもはじけ、男にとってのファンタジーが壊れちゃったんですよね。ばりばり稼ぐことで「女を守ってやれる自分」みたいな姿が思い描けなくなった。
湯山:そうそう。一方で、男性原理のヒエラルキーが大嫌いと言って、社会組織の枠組みから飛び出した男たちがいるじゃない。体育会やオヤジ的な会社にアンチする文化系男子たちです。しかし、彼らとて、いやそれが経済原則に当てはまらない趣味的なものだからこそ、ホモソーシャルの男だけの集団で安定する。そこに出入りが許される女は、男たちの輪を乱さず、出しゃばらず、我慢して、じっと出番を待ち続ける、お酌女だけ。
トミヤマ:そのお酌女のこと、友人が「サブカルキャバクラ」って名付けてましたよ(笑)。文化的な付き合いを通じて、知識を与え合ったりしているんだけど、女が男に奉仕している感が拭えないというか。
湯山:キャバクラといっても、女がそこで恋愛モードで色気を振りまいたりするのは御法度。すると「私、女扱いされてないからさ」というホモソーシャルの紅一点、名誉男子としてのサバサバ女が出来上がるわけですよ。「こじらせ女子」たちは、そういう女が嫌だし、そうはなりたくない、という自意識があるんじゃないかな。そこは私も全く一緒。
トミヤマ:私は大学講師をしているので、20歳前後の男子と接する機会が多いんですけど、彼らは彼らなりに男らしさにこだわらない生き方を模索しています。でも彼らの父親の世代は、一流企業で男らしさを貫いてきた人たちなので、若い人たちの生き方が理解できない。せっかく就職活動をして内定をもらっても「高い学費を払って大学までやったのに、無名の企業に就くなんて」と失望される。父親に認められないのがとにかく辛いみたいです。
湯山:男もつらいね。
トミヤマ:母親と娘の場合は、ちょっとタイプが違って。自分は専業主婦を選んでしまったけど、娘にはもっと違う道を選んで欲しいっていう気持ちが強い。無名の企業に就職したとしても、娘が行きたい会社や業界に進めたことを一緒に喜ぶんです。だから女子は、けっこう希望を持って生きられる。でも男子は社会に出る前から親に否定されがちなんですよね。
湯山:でも息子の場合だと、今、母親はもうちょっと先を行っていると思う。今の世代の母親は、息子がダメダメでもよくて、のびのび自分の才能を伸ばしてくれればいいと思ってる。ただし「私のことはずっと愛して、あわよくばそばに置いてね」っていう想いが強烈なんだよね。世に言う「彼ママ」ですよ。彼女たちが息子に求めるのは「私が認められない、息子にとってメリットのない変な女を連れて来るな」です(笑)。まあ、ほとんどの女が母親は気にくわないわけですから。嫁姑問題は家制度が柔軟になって、昔ほどではないと言われるけれど、今の方がもっとこじれまくる。
結婚後「彼ママ」と上手くやるために
必要なパフォーマンス
湯山:今の若い女性は、戦略もなしに彼ママの甘言に籠絡されて「彼のママって、考え方若いし、友達みたいに気が合うの」ってなるわけ。で、結婚した瞬間に痛い目に遭うわけです。だって彼氏の方も、「友達みたいに気が合う」はお母さんの絶対的な味方なんだから。
トミヤマ:今の若い女の人って、自分なら上手くやっていけるって思ってしまいそう。特に社会人経験があると、男社会の中で上手くやれたという成功体験があるから、彼ママぐらいチョロいと思ってしまう。で、自分に対する過大な自信と、若者らしいピュアさだけで結婚に飛び込んでいってしまって、手痛い洗礼を受ける。その結果、妻としても女としても辛い思いを……。
湯山:私が結婚したのは1990年代前半で、きちんと招待客を呼んで式を挙げたんですが、まずそのパプリックな場で「嫁感」モードを出されてはいけないから、大会社のサラリーマンである夫の賓客スピーチが「お嫁さんには、企業戦士の銃後の守りをよろしくお願いします」系になりがちなのを読んで、対抗勢力のスピーカーを仕込みましたね(笑)。あらゆる手と人脈を使って用意周到にやりました。
トミヤマ:私も最近結婚したんですが、「これからも好き勝手するからな」アピールはめちゃくちゃしました!
自分の欲望を素直に表現するための「訓練」
湯山:「好き勝手にする」という言葉は、ネガティブに使われることが多いけれど、それが一般的には全く許されない状態から、やっとここまでになったという貴重な状態ですよ。その基本は言うまでもなく「自由」と「自立」で、自分の生き方を他人の意向や判断に任せることなく自分の判断でやっていくというのは、筋力がいるし大変だけど、身の丈でそれをやるしかない。
トミヤマ:好き勝手には、訓練が必要ですよね。みんなが「じゃあ、とりあえずビールで」って言っている中で「カシスウーロンで!」って言ってみる、みたいな小さいことの積み重ねで、少しずつ好き勝手できるようになる。
湯山:「私、世界で一番好きな飲み物はレモンサワーなんです!」って言ったら笑いになるでしょ? でもこれがワインだったら、結構「何、この女」ってなるんだよね。嫌われることは誰にとっても最大の恐怖だから、「空気を読むな」なんて言わない。空気を読みながら好き勝手やる訓練をしなさいと言いたいですね。
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湯山玲子(ゆやま れいこ)
1960年生まれ、東京都出身。著述家。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、全世代の女性誌やネットマガジンにコラムを連載、寄稿している。著作は『四十路越え!』『ビッチの触り方』『快楽上等 3.11以降を生きる』(上野千鶴子との対談本)『文化系女子の生き方 ポスト恋愛時宣言』『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』等々。クラシック音楽を爆音で聴くイベント『爆クラ』と美人寿司主宰。
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