でんぱ組.inc 夢眠ねむと行く『見えない世界のみつめ方』展
テキスト:タナカヒロシ 撮影:菱沼勇夫
3. 新しい形の世界の見方を提示する、新しい作家たち
第3章のテーマは、本展示のタイトルともなっている「見えない世界のみつめ方」。ここまでは、世界の見方に大きな影響を与えてきた作品や出来事を紹介してきましたが、第3章ではこれまでの世界像にとらわれず、新しい形の世界の見方を提示する作家を紹介しています。
「あれ? 南極がこんなところにある!」とねむきゅんが驚いたのは、鳴川肇さんが提唱している『オーサグラフ』と呼ばれる新しい世界地図。これまでの緯度経度を基準にした世界地図では、本来約4万kmあるはずの赤道も、すぼんでいるはずの北極や南極付近も、矩形で表現されるときは同じサイズになっていました。それに対してオーサグラフは地球を96分割して平面展開し、できる限り面積の誤差が起きないように作られたもので、より実際の面積比に近い地球が描かれています。
鳴川肇 AuthaGraph World Map 2009年
「えー! いままで見ていた世界地図は、こんなに誤差があったんですね。人類はこんなに発達しているのに、こんなに雑な世界地図を信じていたなんて、ちょっとダサいですね…」。
さらにこのオーサグラフの説明の先には、今回の展示の目玉とも言えるオーサグラフを使った巨大な世界地図年表が待ち受けています。この年表には紀元前2700年から紀元後2010年まで、4千年以上の時間軸に起こった出来事が記録されていて、好きな年代を選択すると世界地図上にアニメーションで一斉に表示されるようになっています。
「世界史は好きなんですけど、哲学とか倫理とか得意分野以外はからっきしダメで…。でも、これだと同時代に何が起こったか一目瞭然になりますね。聖徳太子とムハンマドが同世代の人だなんて、全然気付かなかったなぁ」。
続いては、ダブルネガティヴス アーキテクチャー[dNA]という建築グループによる『スーパーアイ』の紹介。スーパーアイは奥行きまで含めた3次元の情報を2次元に変換する手法のひとつで、簡単にいえば360度を写したパノラマ写真に奥行き情報を加えたもの。一見しただけで理解するのは難しいですが、自分を中心に空間を平面に写し取ったものと考えればなんとなくイメージできるでしょうか。
今回の展示では、スーパーアイで見る地球、スーパーアイの集合で表した鳥の群れ、スーパーアイを使って自動で建築図面を起こす設計ソフトが紹介されていて、いずれもタッチパネルで体験できるようになっています。
ねむきゅんも「もうわかんなすぎておもしろい」と、不思議な動きをするソフトを直感的に楽しむことで精一杯なようでしたが、わからなくて当然。なぜならスーパーアイそのものが、既存の考え方では生み出せないデザインを設計するために作られた空間表記方法だからなのです。現代の建築物は四角い建物が多いですが、それはこれまでの図法や空間表記方法が原因だとしたら…? こうした発想から生まれたスーパーアイが、これまで想像もつかなかったような建築物を生み出す日も近いかもしれません。
最後の展示は小阪淳さんが作った『VIT 2.0』という宇宙の誕生から終焉までを究極的に圧縮して体感するゲーム。ユーザーは「あなたは○○です」という表示とともに土になったり、植物になったり、動物になったり、果てはウンチになったり、炭素の視点でその姿を変えていきます。しかし、数分おきにビッグクランチ(宇宙の終焉)が起こり、ゲームは強制終了。「あぁー、ふわぁぁぁー、夢に出そう」とつぶやきながら、ねむきゅんは何度もゲームにチャレンジしていました。
以上で展示は終了。ねむきゅんの感想は?
「いまの時代、『自由でいいよ』っていうがゆえに、全然なにも考えてないことが多いなと思って。この展示を見て、こんなに自由にやってる人たちがいるんだよって、すごく刺激をもらうことができました。特に第2章で、自由に考えただけなのに宗教で罰せられるような時代を目の当たりにしてから、第3章の自由な考え方を持った人たちの作品を見ることができたのは印象深かったです」
「でんぱ組.incは宇宙を救うためにいろいろ活動しているんですけど、こういうこと言ってるとバカだと思われるくらい変なことだと思うんですね。でも、地動説がバカだと思われてたのと一緒で、100年後とかに『でんぱ組.incのおかげで宇宙が救われた』ってなったらおもしろいじゃないですか。わたし自身、ちょっと頭が凝り固まってたところもあったので、今回これを見て、やっぱり自分で世界は変えられるし、変えていいんだなって背中を押してもらえた気がします。ガリレオ先輩! わたし、がんばります!」。
『映像をめぐる冒険vol.4 見えない世界のみつめ方』
2011年12月13日(火)〜2012年1月29日(日)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 地下1階展示室
時間:10:00〜18:00(木、金曜は20:00まで。入館は閉館の30分前)、2012年1月2日、3日は11:00〜18:00
休館日:月曜(1月9日は開館、翌10日閉館)、12月29日〜2012年1月1日、1月4日
料金:一般500円 学生400円 中高生・65歳以上250円
『出品作家による特別対談シリーズ』
2011年12月25日(日)15:00〜16:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階アトリエ
出演:市川創太、平田晃久(建築家)
定員:70名
料金:無料(展覧会の半券が必要)
※当日10:00から東京都写真美術館1階受付で整理番号付き入場券を配布
2012年1月8日(日)15:00〜16:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階アトリエ
出演:小阪淳
、飯田和敏(ゲームクリエイター)
定員:70名
料金:無料(展覧会の半券が必要)
当日10:00から東京都写真美術館1階受付で整理番号付き入場券を配布
2012年1月22日(日)15:00〜16:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階ラウンジ
出演:鳴川肇、田中良治(Webデザイナー)
定員:70名
料金:無料(展覧会の半券が必要)
当日10:00から東京都写真美術館1階受付で整理番号付き入場券を配布
ライブ『科学史の夕べ×SPACE SOUND』
2012年1月7日(土)16:00〜17:30
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階ラウンジ
講師:嘉数次人(大阪市立科学館主任学芸員)
ライブ:宮木朝子(音楽家)、高原聰子(笙奏者)、大石将紀(サックス奏者)
定員:70名
料金:無料
※椅子席先着50名、開場は開演の30分前より
『新春フロアレクチャー』
2012年1月2日(月)、3日(火)14:00〜14:45
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 地下1階展示室
解説:小阪淳、市川創太(dNA)、鳴川肇、山峰潤也(東京都写真美術館学芸員)
東京都写真美術館
http://www.syabi.com/contents/exhibition/index-1452.html
タナカヒロシ
1980年生まれの松坂世代。横浜市出身。いまはなき音楽フリーマガジン「BG MAGAZINE」で、立ち上げから数年間、編集・ライターをしたのち、フリーランスに。主に邦楽全般、K-POP、なぜかクレジットカードについての記事も執筆。最近はアイドルを中心としたアジア全般の音楽についても研究中。おもしろいと思ったことは ノンジャンルでいろいろやってますので、やさしくしてください。
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