みんな何でそんなに真面目なのかなぁ? 写真家・ホンマタカシが伝えるへうげ心
インタビュー・テキスト:内田伸一
「体(てい)のいい物語」に対する疑問があるのかな。僕にとって「いい作品」とは、やっぱり実生活と繋がれることが条件だと思っていて。
―ホンマさんが『へうげもの』をお好きと聞いて意外に思った理由の1つは、この漫画は登場人物も性格も作るものもアクの強い個性派ばかりなのに対して、ホンマさんの作品は「ホンマタカシの写真」というものを押し出さないというか。もしくはその表現の仕方が、他のいわゆる「個性派作家」とは違う気がしたからです。
ホンマ:日本で写真について語るときって、だいたい作家論になるんですよ。写真そのものより「こういう背景を持ったあの人の撮った写真」とか。でも僕は、どちらかというとそこからは離れた1枚1枚の写真で評価されたい。それで、『ニュー・ドキュメンタリー』という個展の中では、他人の撮った写真を使って「Widows」という未亡人シリーズをやったんです。まず未亡人のポートレートを自分で撮り、さらに彼女たちが持っている写真(自分の若い頃や亡くなった夫の写っているもの)も撮って、両者を同列に展示しました。
「ニュー・ドキュメンタリー」展示風景
―写真の主体を問いかける、もしくは写真について考える写真、みたいなことでしょうか?
ホンマ:これは、手法的には「ファウンドフォト」と言われるものですけど、僕はどちらかというとそういう試みのほうに興味がある。それと「体(てい)のいい物語」に対する疑問があるのかな。そういうのって、その場では楽しめるけど、そこで終わっちゃうんですよね。たとえば映画でいうと、「あ~よかったね、じゃ、夕ご飯何食べていこうか?」ってすぐ切り替わっちゃう。でも僕にとって「いい作品」とは、やっぱり実生活と繋がれることが条件だと思っていて。
―なるほど……。
ホンマ:僕が『へうげもの』を好きというのも、物語も世界観もトータルで興味があるのとはちょっと違っていて、『へうげもの』にときどき入ってくるお色気は、自分にとってはあんまり……だったり(笑)。それよりも、さっきみたいな名台詞のワンシーンを好きになって、切り取っちゃうわけです。それは、自分の実感に重なるところがあるから。映画もそうで、みんな物語のエンディングについて話題にしたりするけど、僕はワンシーンでも自分にとっていいところがあればそれでいい。
―まさに心に残ったシーンを1枚の写真としてとらえるような感覚ですね。
ホンマ:だから、写真が好きなのかもしれません。あと『へうげもの』の形式がいいと思うのは、史実としてはすでにみんな知っている物語を使って、それぞれの生き様をときにはオーバーに(笑)、すくい上げるところ。利休の最期も関ヶ原の戦いも、歴史上の結末は読む前に知ることもできる。だから『へうげもの』では、「次回どうなっちゃうんだ?」という物語の続きを追いかける楽しみとは違うところを描きたいのかなって。それは僕が写真を撮るときも同じで、大きな物語より、小さなことを取り上げています。もし『へうげもの』と僕の写真のどこか似ているところを探すとすれば、そのあたりかもしれない。
表現っていうものには反骨も入り得ると思う。固定したイメージを壊したい気持ちは一貫してあります。
―ホンマさんの初期の代表的シリーズ『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』は、「東京」を撮るにあたって下町でも歌舞伎町でもなく、何の変哲もない郊外の住宅地を選びましたね。でも、それもまた1つの「へうげ」かと思うんです。唯我独尊みたいな態度ともちょっと違い、周りの状況を感じ取りながら、独自のスタンスを切り開いていく。以前のインタビューでは「へそ曲がりが自然体」ともおっしゃっていました。
『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(1998)より
ホンマ:そんなこと言ってたかな?(笑) ともあれ、それは「反骨」とも言えますよね。さっき話題に上げた『へうげもの』のセリフに「反骨なぞどうでもいい」とはありましたけど、表現っていうものには反骨も入り得ると思う。その点でも、世の中、何でみんなこんなに真面目なんだろう? って日々感じます。残念なことだけど、織部の気持ちは現代には全然伝わっていないのかなあって。
―ホンマさんの写真のキーワードとして、「東京」と共に「New」もしばしば作品や写真集、展覧会で登場しますよね。先ほどもお話にでた、全国各地を巡回した個展『ニュー・ドキュメンタリー』もそうです。
Tokyo and My Daughter , 2006
ホンマ:「ドキュメンタリー」ってすごく強い言葉で、かつ、膠着したものだと思います。「ドキュメンタリー」と聞いてすぐイメージするのは、誰かにインタビューしたりとか、いわゆるジャーナリズム的なものですね。でも僕にはもうちょっと、この言葉の意味を広げたい、拡張したい想いがあるんだと思います。この秋の別の個展(2013年9月にTARO NASUで行われた『Architectural Landscapes』)でモチーフにした建築写真もそう。「建築写真とはこういうもの」という先入観に対して「いやいや、こういうのもあるよ」っていう。
Pinhole Revolution / Architectureシリーズより ©Takashi Homma Courtesy of TARO NASU
―マッチョな建築風景ではなく、建物の窓とそこから見える風景を撮ったものなどもありましたね。既存のとらえ方を広げるという意味で、あの窓には象徴的な感じも受けました。
Pinhole Revolution / Architectureシリーズより ©Takashi Homma Courtesy of TARO NASU
ホンマ:多くの人は、建築写真なりドキュメンタリーなり、ある分野を確立して「道(どう)」にしたいと考えるし、実際そうしちゃってますけど、僕は「いやいや、ちょっと待って」という感じですね。固定したイメージを壊したい気持ちは一貫してあります。そのことと、人間は変幻自在、変わって当然だっていう気持ちとは繋がるものだと思う。僕の中では、それが「へうげ」なのかな(笑)。
イベント情報
ホンマタカシ参加展覧会
『拡張するファッション』
2014年2月22日(土)~5月18日(日)
会場:茨城県 水戸芸術館現代美術ギャラリー
時間:9:30~18:00(入場時間は17:30まで)
出展作家:
ホンマタカシ
ミランダ・ジュライ
青木陵子
長島有里枝
スーザン・チャンチオロ
COSMIC WONDER
BLESS/小金沢健人
横尾香央留
神田恵介×浅田政志
パスカル・ガテン
FORM ON WORDS
休館日:月曜(ただし5月5日は開館)
料金:一般800円
※中学生以下、65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料
「モーニングはみだし3兄弟@CINRA出張所」の特設サイトでも、
『モーニング』関連作品を連載中。
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