みうらじゅんが教える、「ない仕事」の作り方
インタビュー・テキスト:さやわか 撮影:三野新
俺、戦国時代だったら真っ先に殺されてると思います。
―あくまで自分の身近なところから興味と考察を広げていく、みうらさんの姿勢とは違うわけですね。冒頭でご自身のことを「へうげもの」だとおっしゃいましたけど、『へうげもの』の主人公である古田織部のような登場人物に共感するところはありますか?
みうら:いや、こっちは誰かに仕えてないし、切腹もないから気楽だよ(笑)。俺、戦国時代だったら真っ先に殺されてると思います。どんな戦いでも、最前線送りでしょ。いらない人間だから。
―みうらさんにとって「へうげてる」というのは、どういう感覚なのでしょう? 「粋」という考え方とは違うのでしょうか。
みうら:粋という考えは全くないですね。粋はもっとシュッとしてる人のことだと思いますよ。俺はシュッとなんか一度もしてないもん。それに、「粋」なんて聞くと突然面白くなくなるものなんですよ。「これはおかしみがありますね」と言われると「違うんですよ」と言いたくなる。「おかしみじゃなくて、バカですけど」って反発したくなる。
―みうらさんのことを、すごく粋な方だと思ってる人もいそうですけどね。
みうら:ないでしょ(笑)。粋な人って、怒るじゃないですか? 俺は怒る人がいる世界が嫌なので、人が怒らないジャンルに行きたかったんですよね。
―みうらさんは京都のご出身ですけど、東京に移られたのにはそのような気持ちが影響しているのでしょうか?
みうら:京都も実は嫌ですよ(笑)。あそこが苦手で東京に来ましたから。粋なものには、すでに世界というかジャンルができあがってるじゃないですか。そこに入っていってもしょうがないから、いっそのこと「ない」世界に行ったほうがいいと思ったんですよ。だから俺がやってるのは、「ない仕事」を、さもあるように見せてるだけなんですよね(笑)。だから、デビューした後、オナニーの漫画を描こうとしたんです。エロ漫画はあるけど、オナニーしてるところを親に見つかるオナニー漫画って、その頃なかったから。って、今もないですよね(笑)。
―『へうげもの』の作者である山田芳裕は、みうらさんのようになりたいというのがもの作りの原点だそうですよ。欲の深さというか、多ジャンルにわたるフィールドワークのきっかけを作ってくれた一人がみうらさんなんだそうです。
みうら:何だか嬉しいですけど、歳取った感じがしますねえ(笑)。俺はね、他の人の漫画を読むのが辛いんです。なまじ描いたことがあるから、絵を見て「このページで徹夜してんだろうなあ」と思っちゃうんですよね。「ここすごい描き込んであるな」と思うと、スッと読み飛ばせなくて。『へうげもの』は、すごく面白かったんですけど、海の絵のところとか、すっごい描き込んであるじゃないですか! 波のところを黒く塗って、さらに白く入れてますよね。しかも、回を重ねるごとにどんどん絵が上手くなっていってるでしょ。やっぱりノッてる人っていうのは、上手くなるんだよね。やっぱ『へうげもの』はこの絵じゃないと世界観が面白く伝わらないでしょ。タッチとテーマが一体化してるって、すごいことですよね。いちいち感心して読むのって疲れます(笑)。
―みうらさんは、かなり絵に注目して漫画を読んでしまうというわけですね。
みうら:俺はやっぱり絵を見てしまいますからねぇ。『へうげもの』の絵は、昔の『ガロ』の臭いがします。メジャーガロですね。
―山田芳裕も『ガロ』が愛読書だったそうです。
みうら:やっぱりそうでしたか。1コマあたりの黒の密集度が多いですもんね(笑)。
―漫画を描くのが嫌いということですが、実際に描いてたときは、どのように切り抜けていたのか、気になります。
みうら:話をつなげるために仕方なく横顔を描かなきゃならないのが嫌だったんですよ。説明のためにコマを割きたくないし、早くストーリーを進めたいから、あるときから全部正面向きで全く同じ表情をさせる方法にしました。今でも俺の描くカエルの顔は、あの表情しかないんですよ。たまに鼻息を描くぐらいで、あとはセリフで読者に勝手に喜怒哀楽を感じてもらうだけなんです。
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好き嫌いでものごとを判断するのはやめたんですよ。
「モーニングはみだし3兄弟@CINRA出張所」の特設サイトでも、
『モーニング』関連作品を連載中。
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