みうらじゅんが教える、「ない仕事」の作り方
インタビュー・テキスト:さやわか 撮影:三野新
いつもふざけてる人がたまに真面目なことやるんじゃなくて、真面目な人が真剣にふざけたことをやらないとダメ。
―仏像や「アウトドア般若心経」もそうですけど、みうらさんは広い意味で「日本らしさ」を持つものに関心を持っているように思います。そこには怪獣やゆるキャラも含まれると思うのですが。
みうら:一度、その「土着」を流行らせようと思ってね、『ドチャック』っていう漫画を描いたんですけどね、今ひとつですねえ。やっぱりヤングにまだ土着が浸透してない……って偉そうに言えることではないんですけど(笑)。「ドチャック」ってキャラは鼻がチンポでね、口のところがキンタマなんですよ。鼻の先からは陰毛が4本生えてるんです。土着って、そうしたもんでしょ。ところがこれを大きく誤解したテレビ局から「アニメ化します」という話をいただいて。アイドルの方が司会してる番組で、ドチャックのぬいぐるみをアイドルが抱きながら「これ、かわいいですよね〜」って言われたんですが、俺からすると「それ、チンポなんだけどな」って(笑)。
―番組的には、ドチャックはどういう動物だということになっていたんですか(笑)。
みうら:一応、テレビ局サイドでは「アナグマ」ってことになってました。シャレが利いてますよね(笑)。なんか、スイートな誤解があるんですよね。そもそもは、1970年代に土着文化をポップにする流行がありまして。俺は後からそういうのを知った世代だから、もっと単純に「土着」っていう言葉の響き自体がおかしいなと思ってた。日本が好きなのはやっぱり、日本語の響きが「おかしい」からなんだよね。
―言葉の響きの「おかしさ」から、日本文化全般のおかしいところに愛着を持つ感覚につながっているのかもしれませんね。
みうら:『へうげもの』ってタイトルも、やっぱり語感がいいですよね。「へうげ」っていうのがおかしい。英語で言うと全くおかしくないじゃないですか? 英語って基本的な言語だから、隙がないんだよね。アメリカで「ゲッツ!」とか言っても、特にウケないでしょ? 日本人には語感としての「ゲッツ!」がおかしいんですよね。そういうふうに、日本に取り込まれるとおかしくなるものがいっぱいあるでしょ。日本語はその点、意味や歴史があって、いろいろこねくり回されて今使ってる言葉になってるから、そこがまた面白い。たとえばみんな「エッチした」とか言うけど、エッチって「変態」の頭文字でしたからね、そもそも。だからセックスイコール変態なんだよね。変態行為に及んだときに相手から「困ります」と拒否されたとしても、「変態だからしょうがないじゃん、それがノーマルプレイなんだよ」でしょ、言葉的には。
―日本人はもっと笑いに対してセンスがあったはずなのに、取り澄ました、きれいでカッコいいものがよしとされちゃってる。千利休の侘び寂びの思想にしても、後世の人間がイメージを作っちゃった部分もあると思いますけど、カッコよすぎますよね。
みうら:「へうげもの」と呼ばれるような人は、そういうことにも疑問があったんじゃないですかね。それで「価値がないものにこそ価値がある」というようなことを言ってみせて、真面目な顔して広めていくんじゃないでしょうか。真面目な顔してないと殺されちゃう時代ですもんね。いつもふざけてる人がたまに真面目なことやるんじゃなくて、真面目な人がふざけたことを真剣にやらないとダメですよね。常識を理解した上で、あえて非常識なことをやる。ふざけてるって思われたら仕事は来ないですからね(笑)。
―古田織部は、それで本当に腹を切らされているんですよね。常識を覆す価値観を出し続けていたら、ある種の政治思想犯みたいな扱いになっていって。
みうら:そうらしいですね。この間、山田五郎としゃべってたら「へうげものって、あんたのことや。でもあんた、言っとくけど最期は切腹やで!」って言われました。「そんな、オチを先に言うなよ!」って言ったんですけどね(笑)。
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