『モーニング』編集長・島田英二郎に訊く、漫画の未来
『島耕作』シリーズ、『沈黙の艦隊』『ブラックジャックによろしく』『宇宙兄弟』『GIANT KILLING』など数々の人気漫画を輩出し、ファンから絶大な人気を誇る漫画雑誌『モーニング』。創刊30年を迎えた同誌は、早くからウェブ漫画など先進的な取り組みを行っていることでも知られ、2013年5月からは週刊コミック誌として史上初となるiOSでの定期購読サービス『Dモーニング』をスタートさせた。スマートフォンやタブレット端末の普及が進み、エンターテイメントを楽しむ環境が刻々と進化している中、日本の伝統文化とも言える漫画はどこへ向かうべきなのか。5代目編集長の島田英二郎さんに新しい時代に求められる編集者像や漫画の未来について聞いた。
インタビュー・テキスト:宮崎智之 撮影:野村由芽
- 島田英二郎(しまだ えいじろう)
- 1966年東京都出身。90年講談社入社。92年よりモーニング編集部。2006年月刊モーニング・ツーを創刊。10年よりモーニング編集長
島田英二郎 (asashima1) on Twitter
Dモーニング
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新人漫画家に必要なのは、適当なところで手を打って思考停止せず、アタマを使い続けること。
―お忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。
島田:こちらこそ、ありがとうございます。
―本日は『Dモーニング』など先進的な取り組みについてのお話を通して、漫画の未来を探っていければと思うのですが、まず初歩的な質問から始めさせていただければと思います。そもそも「漫画の編集者」とは、どういうお仕事なのでしょうか?
島田:作家のもとに原稿を取りに行って、そこで次回のストーリーを打ち合わせして、ネーム(ラフ画のようなもの)のやり取りがあって、作画した原稿を取りにいって……ということを繰り返す仕事。わかりやすいのはそんなとこ。本当はそこから先が本番ですが(笑)。
―ネームのやり取りでは、「ここが違う!」と作家さんと激しいやり取りをすることもあるんですか?
島田:ケースバイケースですね。そこで何か言うことが仕事だと思っている編集者も多いんですが、面白いものについては何も言わない選択を取ることも大切です。そうなっちゃうと、編集者のやることがなくなっちゃうんですけどね(笑)。
―なるほど(笑)。
島田:もちろん、決定的に作品が変わるような指摘があるときは言ったほうがいい。例えば、ある登場人物をサラッと描いてしまっているけど、実はそのキャラクターがこういう発想で動いていたとしたら物語が根底から変わるんじゃないか、とかね。言っても言わなくても大して変わらないようなことなら私は黙ってますね。世の中でそれまで価値を見出されてなかったものに新たな価値を見出すことこそが、編集者の本質的な仕事ですから。今はそれを面白いと思っていないけど、ちゃんと読んでもらえば面白いと思う可能性のある人に届けることとかね。
『Dモーニング』
―コマ割りなどの専門的な知識はどうやって学ぶのでしょうか?
島田:それは徒弟制みたいなもので、とにかく見て覚えろというシステムになっていて。ちょっと効率が悪いなという思いはありますよ。映画を撮る場合は、専門的な知識を学ぶ学校に行ったりするでしょ。漫画もコマ割りやドラマツルギーの作り方などを学ぶシステムを作った方がいい。誰か参考書を作らないものかな。
―確かに、漫画編集者用の参考書は書店で見かけませんね。作るのが難しいのでしょうか?
島田:いや、理論化できる部分はかなりあります。理論を学ぶと皆が同じになっちゃって個性がなくなると言う人がいるかもしれないけど、将棋の定石と同じで、定石を知らないと何も始まらない。そして定石を学んでも、一人ひとり打つ将棋は全く違うでしょ。理論は個性を殺したりしませんよ。
―新人作家さんの持ち込みは頻繁にあるんですか?
島田:ありますよ。毎日のようにある。そこで作品に力があれば新人賞に応募するように勧めます。
―どこを見て、「この人は才能がある」と判断するのでしょうか?
島田:本当のことを言うと、才能なんてそんなにいらないんですよね。まったく絵が描けない人はさすがに困るけど、新人賞で何らかの賞を受賞するような人は、基本的にその基準は超えています。才能の種みたいなものがあったとして、それがもの凄く大きい種であるか、小さい種であるかはあんまり関係がないんです。種を持ってさえいればいい。
―では、何が必要なのでしょうか?
島田:大切なのは「思考停止しないかどうか」なんです。適当なところで手を打って思考停止せず、アタマを使い続けること。努力家であったり、根性があったりするのも重要なんですが、やっぱり闇雲に努力しても厳しいと思うんですね。例えば野球のイチロー選手は、高校生のときはそこまで有名な選手ではありませんでした。身体のバネだの動体視力だの、フィジカルな能力だけでいえばそれこそイチローより大きな種を持った選手はいくらでもいたでしょう。なのに、世界的な選手になれたのは、やっぱり考え方が凡人とは違ったからだと思うんです。
「モーニングはみだし3兄弟@CINRA出張所」の特設サイトでも、
『モーニング』関連作品を連載中。
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