モーニングはみだし3兄弟@CINRA出張所

『モーニング』編集長・島田英二郎に訊く、漫画の未来

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『モーニング』編集長・島田英二郎に訊く、漫画の未来

インタビュー・テキスト:宮崎智之 撮影:野村由芽

週刊コミック誌をもう一度たくさん売るためには、ライトユーザーにもっと訴えなければという危機感はありますよ。

―時代の流れが速いからこそ、考えることがより重要になってきそうですね。

島田:本当にそうです。例えば20年前だったら、「どうやって売れるか」だけを考えていれば良かったんですけど、これだけ多様な世の中になってくると、「売れるとはどういうことか」から考えなければいけなくなる。「自分にとって成功とは何なのか」さらに言えば「そもそも俺は売れるべきなのか」と常に根源にさかのぼる問いを問い続ける必要があります。これは編集者も同じで、「雑誌とは何のために存在するのか」「編集者とは何か」「そもそも編集者は必要なのか」と、考え続けられる編集者じゃなければ生き残っていけないでしょう。

―読者のニーズも多様化していますか?

島田:多様化というより、コミック誌と単行本の読者層が乖離してきた感じはしますね。これは15年前くらいから出てきた現象で、本誌の中で人気があっても、単行本が売れるとは限らなくなってきた。読者層に2つ、あるいはそれ以上のクラスタが存在しています。

―詳しくお聞かせください。

島田:週刊のコミック誌は、そもそも「出会いがしら」の楽しさが求められるものです。だから毎号毎号、見せ場を作らなければいけないし、その号から初めて読んだ人でも楽しめるように作らなければいけない。それは昔から変わりません。一方、単行本の読者層は出会いがしらではなく、最初からその作者、作品を求めて買いにきてくれる層。そして漫画業界の成熟とともに、単行本派のリテラシーが高くなってきている。この層にウケるかどうか、単行本が売れるかどうかを判断するには書店員さんの反応を見ることが一番確かです。つまり、常に漫画に触れているプロの読み手である書店員さんと同じくらい、読者が漫画に詳しくなってきているということですね。

―確かに、少し難解で通好みな漫画が増えてきたように思いますね。

島田:文学でいうと、大江健三郎とか三島由紀夫とか小林秀雄とか、普通の人だとちょっと読むのが難しい作品でも大ヒットするのが、今の漫画業界です。知識と教養があって、高いセンスがなければキャッチアップできないような漫画が、ものすごく売れたりする。小林秀雄が100万部売れるようなもんで、これは恐るべきことですよ。逆に言うと、漫画を読みなれてない読者が簡単に読んで、簡単に楽しめる作品が減ってきました。

―週刊コミック誌はライト層、単行本は成熟層となると、作り手としては難しい時代になっていますね。

島田:もちろん、両立しなければいけません。それをずっとやってきたからこそ、漫画業界は発展してきたし、国内外から評価されてきたんだと思います。でも、週刊コミック誌をもう一度たくさん売るためには、ライトユーザーにもっと訴えなければという危機感はありますよ。このままいったら50年後には落語や歌舞伎のような伝統芸能になっているかもしれません。漫画を読めば高い文化が味わえるけど、わかる人は限られてくるという状態です。高い審美眼があり、それなりに芸術的な素養を積んだ人が享受できるという世界に、漫画は緩やかに向かいつつあると感じています。もちろん、リテラシーが上がることはいいことなんですけど、もっと裾野を広くしなければ新しい読者を増やしていくことが難しいという思いもあることは確かです。

歴代の『モーニング』
歴代の『モーニング』

読んでさえもらえれば少なくとも「面白い」とは思ってもらえる、という絶対的な自信を持っています。

―『Dモーニング』は、裾野を広げることにも一役買いそうですね。

島田:そうあって欲しいと思っています。さまざまなコンテンツが売れなくなっている中、漫画にはまだまだ力があると思いますが、今の子どもは昔ほど漫画を読まなくなってきているのも事実だと思っています。原因の1つに、エンターテイメントの多様化があることは間違いありません。子どもに限ったことではありませんが、電車の中を眺めてみても、最近では漫画よりスマートフォンをいじくっている人が多いです。その時間をどのようにすれば漫画に使ってもらえるかを考えなければいけない。『Dモーニング』は、ゲームなど他のコンテンツと同じ商品棚に漫画をおいて、「さあ、どれがいいか選んでください」というチャレンジなんです。

―電子書籍が話題になったときに、電子化したら紙の本が売れなくなるという議論がありました。

島田:もちろん、そういったご意見もあります。確かに、「面白い」だけだったら、電子版で十分っていう話になってしまうかもしれません。でも、「面白い」からさらに進んで「好き」になってもらえれば、読者は紙の単行本を買ってくれますね。われわれの仕事はまず漫画を読んでもらう、そして面白いと思ってもらうことからスタートします。そして、その次のステージでは「面白い」から「好き」になってもらわなければいけません。

―エンターテイメントが多様化している時代ですから、「面白い」から「好き」へ変えるのは、すごく難しいですよね。

島田:そうですね。この「面白い」と「好き」には大きな溝があって、それを越えさせるのが編集の仕事だと考えています。しかし、そもそも読者に届けることができなければ、「面白い」とすら思ってもらえません。だから、まずは「面白い」をたくさんの人に届けることが必要。そのために電子が利用できるならば、打って出ない手はないと思うんですよね。「好き」になってもらえれば、所有欲を満たすものとして紙を買いたくなるはずなので。

―作家さんの反応はどうでしたか?

島田:漫画を電子化することに、もっと抵抗があるかと思いましたが、拍子抜けするほどありませんでした。むしろ喜んでくれている方のほうが多いですよ。やっぱり作家としても読まれる機会が増えることは、嬉しいことなんだと思うんです。

―『モーニング』『アフタヌーン』『イブニング』合同の新公式サイト「モアイ」や、CINRAとの取り組み「はみだし3兄弟 モーニング@CINRA出張所」では、ウェブ上に漫画を掲載していますが、それも読んでもらえる機会を増やす取り組みですね。

島田:まずは読んでもらう裾野を広げなければ、何にも始まりません。コミック週刊誌は毎号毎号、常に盛り上がる見せ場を作って、初めてその号から読んでもどの作品も面白いと思わせるという、おそらく漫画以外のエンターテイメントでは求められない非常に高いハードルを設けて日々読者からの評価と戦い続けてきました。だから、読んでさえもらえれば、少なくとも「面白い」とは思ってもらえる、という絶対的な自信を持っています。

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リリース情報

『Dモーニング』

2013年5月16日からiTunes App Storeでリリース
料金:無料(定期購読は月額500円)

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