古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)
インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:田中一人
それまでは『十四部作』だったんですけど、震災のあとはそれでも足りないと思って、「コーマW」という、小説家が語っているむき出しのものを入れてみたんです。(古川)
―改めてお伺いすると、そもそも『南無』という作品を書こうと思ったのは、どんな動機があったのですか?
古川:とにかく阪神・淡路大震災とオウムの地下鉄サリン事件があった1995年が、誰にも総括されずに失われていってるのがヤバいと思ったんです。でも、直接そのものを書いたところで、やっぱり戯画化されてしまうというか、オウムというおかしな物語に吸収されてしまう。そんな作品は1995年以降いっぱい出ていて、何の価値もなくなってしまっている。だから、まったく別のことを書きながら、直接それだというものを作るしかない。作品全体がメタファーなのに、ノンフィクションみたいなものになるというか。それで、片方にロックンロールの話があり、片方に動物たちから始まっていく東京の黙示録的な世界があって、そこから肉薄していこうと思ったんです。
―それが、2011年を境に変化していったと。
古川:それまでは『十四部作』だったんですけど、震災のあとはそれでも足りないと思って、「コーマW」という、小説家が語っているむき出しのものをまず入れてみたんです。メタファーに力があったら返す刀で切られるだろう、じゃあ、切られてみようと。切られる器として主人公が小説家のパート、誰がどう読んでも古川日出男のパートを出したら、物語全体の最後の章、1995年を書けるところに何とかたどり着いた感じですね(解説:こうして『南無ロックンロール二十一部経』は、「コーマW」「浄土前夜」「二十世紀」という3つのパートが7章にわたって編まれ、全21部となっている)。
後藤:『南無』だと、「コーマW」の行きつく先が20世紀のピリオドみたいなところに着地するんですけど、一方で『舗装道路の消えた世界』(2012年11月刊行)が対になってるような気がして、こちらは新しい目覚めというか、書き手として背中を押されるように読みました。
古川:『舗装道路』の方がもっと即興ですね。長編を書くときは、考えて考えて、覚悟を決めてやるんですけど、あれはイラストレーターの黒田潔さんとのコラボレーションという瞬間的な作業がバックボーンにあるからこそ、無意識を全面に出していました。それがどこにたどり着くかわからなかったけど、そこに読者の後藤さんからすると希望が見えたというのは、嬉しいことですね。その黒田潔さんが装丁を描いた『LOVE』を、後藤さんが「THE BEATLESの『リボルバー』みたいだ」ってジャケ買いしてくれたって言ってましたけど、その『LOVE』を作った編集者が『南無』も作ってて(笑)。
―つながっていますね(笑)。
古川:『リボルバー』って1966年のアルバムで、俺が生まれてひと月経たずに出てるんですけど、その俺が生まれる直前にTHE BEATLESが来日して、翌月の8月29日にコンサートを一切やめちゃうんですね。あれってロックンロールだったTHE BEATLESが、ロックに変わる瞬間だった気がするんです。聴衆との一体感を捨てて、完全にスタジオだけで作るようになるっていう。だから、ロックンロールは俺が生まれる前にあった神話的なものというか、『リボルバー』というアルバムを境に変わってしまった世界全体に焦点を絞ることによって、今の世界に欠けてるものが手に入るんじゃないかと思う部分もあって。
―後藤さんは「ロックンロール」という言葉からどんなことを連想しますか?
後藤:“転がる岩、君に朝が降る”っていう曲はロックンロールのことなんですけど、よくライターさんには「転がる石」って、ローリングストーンの方と間違われたりします(笑)。あの曲のイメージは韓国でライブをやったときに生まれたんですけど、「音楽が僕をここに連れてきた」って思ったんです。
古川:ロールさせてね。
後藤:はい。「そうか、こうやって世界を転がっていけばいいんだ」って思ったんです。これがロックンロールっていうことなんじゃないかって。初めて自分の音楽が国境を越えて、5,000人以上のオーディエンスが僕たちの音楽を知っていて、輪になってモッシュをしていて、そこにある種の可能性を見たというか、ホントに不思議な体験でした。最初は石が飛んでくるかなって思っていたんですけど(笑)。あのステージで感じたエネルギーが、物理的にもイメージとしても僕らをどこにでも自由に連れて行く可能性を持っていて、「このまま転がっていきなさい」って言われてるような気がしたんです。
古川:国境を越えるのがロックンロールって、まさに『南無』でずっと書いてることです。それと同時にあの曲はすごく「何者でもない君らの側」というか、ただ「システムじゃない側を守る」っていう後藤さんの意思表示だったと思うし、それがロックンロールかなって気がするんですよね。
後藤:どれだけ地面が固く凍ってても、そこに芽を出す命っていうか、そういう一切の何かを俺は信じたい、その希望を書き留めておきたいと思ったんです。あの曲を作ったときは、僕はそういうことを歌い続けたいっていう気持ちもありましたね。
『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』
CINRA.STOREで『南無ロックンロール二十一部経』をご購入いただいた方を抽選で『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』にご招待致します。
2013年7月21日(日)17:30スタート予定
会場:東京都 青山 某所
定員:100名(当選者のみ入場可、座席有・自由席)
料金:入場無料(2ドリンク制)
※ご入場時にドリンク代(1,000円)をいただきます
『南無ロックンロール二十一部経』刊行記念『古川日出男×柴田元幸トークショー』
2013年5月16日(木)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 東京堂神田神保町店6階東京堂ホール
ASIAN KUNG-FU GENERATION
『ランドマーク』通常盤(CD)
2012年9月12日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-2122
1. All right part2
2. N2
3. 1.2.3.4.5.6. Baby
4. AとZ
5. 大洋航路
6. バイシクルレース
7. それでは、また明日
8. 1980
9. マシンガンと形容詞
10. レールロード
11. 踵で愛を打ち鳴らせ
12. アネモネの咲く春に
V.A.
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013』(CD)
2013年6月5日発売
価格:2,520円(税込)
KSCL-2246
Gotch
『The Long Goodbye』(アナログ7inch)
2013年4月20日発売
価格:1,000円(税込)
ODEP-003
1. The Long Goodbye
2. The Long Goodbye (P's O-parts Remix)Remixed by PUNPEE
※ダウンロードコード付き
The Long Goodbye / 後藤正文 | only in dreams
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』
2013年6月14日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月15日(土)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月17日(月)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:愛媛県 松山市総合コミュニティセンター
2013年6月19日(水)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:熊本県 熊本 DRUM Be-9 V1
2013年6月24日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新潟県 新潟 LOTS
2013年6月26日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa
2013年6月28日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 水道橋 TOKYO DOME CITY HALL
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『ファン感謝祭』
2013年9月14日(土)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『オールスター感謝祭』
2013年9月15日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-