同い年の私からすれば新津は、例えばもっと自信満々なキャラクターであったとしても納得できるくらいの経歴を持っている。しかし、目の前にいる彼女の話から感じ取れる本当の姿は、弱くて、繊細で、とにかく必死だ。死に物狂いで、人と繋がろうとしている。どうして彼女はこんなにも生きづらさを抱えてしまったんだろうか。
ちなみに新津は、RYTHEMを解散した後、アルバイトの面接を受けたことがあるそうだ。「同世代の女の子と普通に会話が出来ること」だけが応募条件だった、その面接を受け、見事にNGを突きつけられた新津は「やっぱり自分は社会的ではないんだ」と自覚したらしい。
新津の話の中には、自分と他者を分ける言葉として、度々「9.5割」という数字が出てくる。従来の音楽業界マナーでビジネス論を展開する「9.5割」の人たち、アルバイト面接で自分とは対照的に上手に面接をこなしていく「9.5割」の人たち、子供の頃、嫌われまいと顔色を伺ってばかりいた「9.5割」の人たち…。あくまでも自分はその「9.5割」の人たちには属せないという強い孤独感が、新津の中にはあるらしいのだ。
新津が本当に孤独なのかどうか、それは私にはわからない。むしろ、今自分の目の前ではきはきと喋っている女の子が、アルバイトの面接に簡単に落ちてしまうほど社会性がないとも、もっと言えば、変わっていたり、異端であるとも思えなかった。しかし、日々のコミュニケーションのすれ違いや、自分の感性や作品に対して「NO!」と言われることを極端に恐れている新津は、不器用さゆえに、そんな恐怖や孤独とも対峙「しすぎて」しまう。
自分が「正しい」と割り切るために、みんなと自分は違うと思い込むし、その違いを肯定するために、またひとつ思い込みを用意していく。そうやってどんどん、自分自身に言い聞かせ、思い込ませてきた理屈こそ、冒頭に書いた「不自然さ」、つまり新津の的確な解答の正体なのだろう。
別に私は、そういった新津の自己防衛反応が間違っているなんて思わないし、誰だって、そうやって心の安定を図っているはずだ。ただ、新津にとってのそれは、彼女の音楽制作、今後の「Neat's」での活動に繋がっている問題でもある。その問題を無視して、この連載に先は無いと思った私は、思い切って新津に、その「不自然さ」の正体をぶつけてみた。そしてその返答はこれまでとは打って変わり、彼女の本質がありありと姿を表したものだった。
新津:自分のなかに悪魔がいるのはわかっていて。それが出てこないように、ずっとずっとごまかしてきたのかもしれない…。自分がネガティブに包まれそうになると、ネガティブになるのが怖いから、すぐに発想の転換をする。それの逆側を見る事で、楽しくしているだけかもしれない…。
—そうなったのは、いつからなんですか?
新津:そうなったのは…ずっとだな。ずーっとずーっとだな。何でだろう? そうやって発想を転換させること自体も、良い事のように自分では思っていたんだけど…。
受け入れたく無かったんだと思う、ルールを。「何で? 攻撃」っていうのもそれが理由で、自分が嫌だとかネガティブに思っていることの裏側を見たいがために「何で?」って質問をして、何とかその事実を受け入れないようにしたかったんだと思う。でも本当は、社会はその事実で成立しているし、それが正解なのかもしれない。けど、やっぱり私はそこに馴染めないから、馴染めないことが良いことなんだよ! って自分に言い聞かせちゃう…。これって、あれだね。「ルサンチマン」だね…。
ルサンチマン。弱い者から強者に向けた憤りや怨恨、憎悪、非難の感情を意味する言葉だ。自分を肯定するために行ってきた「発想の転換」の起源に、「こうはなりたくない」と思っていた人間像が浮かび上がる。自分の人生や人間性を肯定するために、自分で自分をだましてきた。話をしながら、そんな自分のやり方に気がついた新津は、その場で泣き出した。めそめそではなく、うわんうわんと。
新津:「馴染めないことがいいことなんだよ!」って、無理矢理言い聞かせて逃げてる。一番なりたくない…一番なりたくない人間だなぁ……。たぶん、本当は10代の時に気付いてたと思う。それで、「変わりたい、変われるはず」って努力したけど、ちっとも変わってなかった。
顔をぐしゃぐしゃにしながら、新津は語ることをやめない。
新津:逃げたくなるし、放棄したくなるし、捨てたくなるけど、でも、今私が思ってる疎外感とか、陰な部分を隠さずに生きていけたら、すごく素敵だと思ってる。これは、本当。
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