最新作『MOA』には、“よるのいろ”を皮切りに、自身の方向性に正直たらんとする曲ばかりがおさめられている。
Neat's:今回の『MOA』のきっかけになったのは、絶滅動物図鑑だったんですよ。図鑑で見たMOAっていう絶滅した鳥が、同じく絶滅しかけてる自分に重なったんです。「この子、絶滅しちゃったけど、もし輝かしい不死鳥として世の中に紹介されてたら、この闇は取り除かれるんだろうか?」っていう疑問から曲を作っていきました。
—歌詞の世界観のファンタジーな手つきはこれまでのNeat's作品を引き継いでるけど、今回は特に、主人公と自分の姿を重ね合わせてたんですね。
Neat's:そうですね。闇みたいな海の中で、誰にも見つからずに、何の賞賛も得ずに死んでいったMOAという鳥が、未来の図鑑に載って「こういう生き物がいたよ」と紹介されることってすごく切ないなと思ったんです。でも、人間もいつかはその運命をたどるし、私もMOAと同じだなって思ったんです。そしたらもう、人の評価が云々とかどうでも良くなって、これまで死ぬほどのところにいたからかもしれないけど、どうせいつか死んじゃうんだったら、死ぬほどに生きたいっていう逆の感情が湧いてきて。
—中でも、“黄昏れに雨”はかなり自分の不安や悩みをストレートに出されていますよね。<自分はこうだって叫ぶことが 難しいのは私もそうだと 諦めてしまえば楽だけど 胸の奥が死んじゃうわ>っていう歌詞だとか。
Neat's:いやー、うーん……。落ち込んでいるときに、良い曲ができるっていうのは間違ってないんですよ。自分の気持ちに向き合わざるを得ないから。“黄昏れに雨”もまさにそういうときに作ったんですよね。作ってる間中、溜息しか出てこなくて、曲が溜息のテンポになってるの。
—でも、“よるのいろ”で方向性が吹っ切れた後に作った曲なんですよね?
Neat's:“よるのいろ”で、自分がやるべきことに覚悟ができたからこそ、今回のアルバムは全部、自分の心に対して嘘をつきたくなかったんです。「これ、かっこいいでしょう?」っていう曲作りを止めて、全曲心と向き合って、心がふるふる震えちゃうぐらいの、涙が出ちゃうぐらいのメロディーじゃないと自分の中でOKしなかったから。前作までも10曲中2曲ぐらいは、そういうものがあったかもしれないけど、心がそのまま音楽になるようなものって、そう何十曲もできるものじゃないと思うんですよね。でも、今回は全曲それを作るってことに挑戦したんです。
Neat's:……制作のことを思うと、また涙が出ちゃう……。
—え、ここで!? ええと、制作が辛かったんですか?
Neat's:いや、辛かったんじゃなくて、この作品ができて本当に良かったと思うんです。今回は、嬉し泣きです(泣)。自分の心が死んでないって思えたから。“黄昏れに雨”は、自分の中でも特に心に向き合ってできた曲だから、聴いた人に、今言ってもらえたみたいに気がついてもらえて、何かが震えてくれたと思うだけで嬉しいし、心に正直な音楽ができたことが、連載の始めに言っていた「人間になりたい」ってことの答えなんじゃないかなと思います。
—でも、歌詞としては今までの作品と同じように「私とあなたはわかり合えない」といった切なさや苦しみを歌われていますよね? Neat'sさんはかつて、孤独であることを不安と捉え、「繋がりたい!」という欲求のために無理してしまった部分も大きかったと思うのですが、そこに変化はあったんですか?
Neat's:基本はもう空虚なんですよ。それはずーっと変わらない。すごく充実した日も夜空を見てポカーンとなっちゃうし、いきなり涙が出ることもあります。だけど最近は、それもすごく美しいもののような気もするんですよね。だって、人はみんな一人ひとり産み落とされて、別々の人生を歩むけど、想像力を持ってお互いを思い合ってどうにか理解しようとしている。その行為って、美しいじゃないかって思えるようになったんです。
—孤独を受け止められるようになったのは改めてなぜ?
Neat's:この作品ができたからでしょうね。本当にそれに尽きるんです。そこに描いているビジュアルや色合い、自分で監督・編集したミュージックビデオも含めてこの作品を通しての質感は申し分ないです。私のこれまで抱えてた世界への驚きや、空虚ってものが、切なくて儚いけど美しいものなんだっていうふうにパッケージすることができたから、本当に救われました、このアルバムに。
社会が社会として成り立つためのルールと、ごく個人的な願望。両者の埋まることのない溝から生まれる孤独や不安を、かつては取り払おうと必死になっていた。だが、その負の感情ときちんと向き合い、ファンタジックな音色やビジュアルに変換してパッケージしたのが今回の『MOA』だ。世界や自分の中にある「孤独」を認めて、自分の生きる力にみるみる変えていくこと。音楽のみならず、同世代の女子クリエイターたちの力を得て、ビジュアル面や世界観も満足のいくこの作品が、「あくまでもポップに、五感で感じる音楽」を目指すNeat'sの新たな代表作であり、今後の指標になったことは疑いようがない。
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