インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作
uminecosounds
くるりが主催するNOISE McCARTNEY RECORDSよりソロアルバムをリリースしている古里おさむ(Vo&Gt)、髭のドラムとしても活躍するコテイスイ(Dr)、dipのヤマジカズヒデ(Gt)、ジム・オルークを始め様々なアーティストやバンドで演奏している須藤俊明(Ba)によるロックバンド。もともとは古里おさむのソロユニットとして活動を開始し、2009年5月13日に、CINRA RECORDSよりデビューミニアルバム『夕焼け』をリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL'09』にも出演を果たし、2010年1月には2ndミニアルバム『宇宙旅行』をリリース。そして2011年、表記を「uminecosounds」に改め、バンドとして再始動。2012年6月に1stアルバム『uminecosounds』をリリース。
http://uminecosounds.net
古里
(須藤は)宇宙人なんじゃないかと思いますね(笑)。めちゃくちゃ真面目だし、楽器も何でも上手いんですけど、常に独自の楽しみ方で楽しんでるというか、一人で全然違うことをしてクスクス笑ってるみたいな感じなんですよ(笑)。
こう古里が語るように、個性派ぞろいのuminecosoundsの中にあって、実は須藤俊明こそが最も特異なキャラクターの持ち主だと言ってもいいかもしれない。日本のアンダーグラウンドなパンクハードコアシーンの伝説的バンド、MELT-BANANAの初代ドラマーである須藤は、その長いキャリアの中で実に様々な活動を行ってきた。GOMES THE HITMAN、奇形児、MACHINE AND THE SYNERGETIC NUTS、LOUDS(ギタリストはヤマジ)など、ドラムやベースのプレイヤーとして関わったバンドは数知れず、HARCOや長澤知之、COMBOPIANO-1に至るサポート活動も実に活発、さらにはエンジニアとしてのキャリアも十分で、2009年にはgajiのギタリストとして知られる君島結と「ツバメスタジオ」を共同で設立している。最近も石橋英子やジム・オルークといった才能溢れる人物たちと活動を共にしていて、もはや日本の音楽シーンになくてはならない要人とさえ言えそうだ。では、彼はいかにして現在のスタンスへとたどり着いたのだろう?
須藤
たくさんのバンドに関わりたいっていうわけではないんですけど、いろんな人と演奏することによって、やり方とか考え方が違うのを見て学べる、それが楽しいですね。「こういうことはどうでもよくて、こういうことは大事」っていうのが、人によって違うから、それが面白いんです。例えば、メンバーの顔を見ながら演奏するのが当たり前っていう人と、バンドは客の方を向いているべきで、メンバー同士で顔を合わせるのはカッコ悪いっていう人がいる。そういう違いが面白くて。
そんな須藤と古里が知り合ったのは、ウミネコサンライズ時代にさかのぼる。須藤がエンジニアを務めたQuinka,with a yawnの音源を聴いて気に入った古里が、須藤をエンジニアに指名したのだ。その音源は結果的に発表されずに終わっているのだが、その後も須藤はコテイスイがバンドを離れた時期にドラムを叩いたり、ベースを弾いたりと、古里の活動を常にサポートし、ウミネコサウンズ時代を経て、自然とuminecosoundsのメンバーとなった。
須藤
(バンドになったことは)おさむくんが決めたことで、それがいいとかよくないとか思ったことはなくて、それについていってるだけなんです。だから、基本的にはバンドだろうと、バンドじゃなかろうと、そんなに変わってないですね。変わったとすれば、他の人がメンバーの代わりに演奏をしてライブをすることがなくなるぐらいじゃないかな。
自分が「こうしたい」と思うことを実現させるよりも、相手の意向に沿って柔軟に対応しながら、その中でその人と一緒にやることの面白味を見出していく。須藤がそんなスキルに長けた人物であることは、彼の経歴がそのまま示していると言っていいだろう。では、須藤が見る「古里おさむの面白さ」とは一体なんだろう?
須藤
録音してるときに、おさむくんはアレンジとかに対して、「こうした方がグッと来るよね」っていう言い方をするんですよ。「この方がいいよね」とか「かっこいいね」じゃなくて、「グッと来る」っていう言葉をキーワードに音楽を作ってるっていうのが、僕には面白くて。あと、演奏を録り終わったときに、「今何分何秒かかりました?」ってよく聞いてきて。それで、「何分何秒だったよ」って言うと、「あれ? いつもより2秒長いな」とか言ってて、この人はテンポ感じゃなくて、曲の長さで音楽を捉えてるんだなと。途中で速くなったり遅くなったりも含めて、最終的な曲の長さでいつもの感じが出てるかどうかを判断してる、それがすごく面白かったんですよね。
様々な楽器を弾きこなすと同時に、エンジニアリングも担当し、まさにスキルと知識を兼ね備えた「音楽人」といった印象の須藤。では、そんな彼が音楽の道へと足を踏み入れるきっかけとなった原体験は何だったのか? そんな質問に対する答えは、実に須藤らしいものだった。
須藤
それは僕にとって大したことじゃないんですよ。例えば、ジミヘンを見てギターを始めたとしても、1年ぐらい経てば興味が違うとこに移ってるだろうし、最初の何かがあって今も音楽をやってるわけではないんですよね。一昨日ぐらいに思いついたこと、考えたことが面白くて今やってるかもしれないし、昨日テレビで見た少女時代がよかったから明日もやろうとか(笑)、そういう感じなんです。
もちろん、コテイスイにとっての佐野元春のコンサートのように、須藤にとっても何らかの「スタート」地点は存在したのだろうが、そこを語ることには興味がないと言う。そして、それと同じように、彼は「ゴール」についても興味がないと言うのだ。
須藤
ゴール設定とか基本的にしないですね。ウミネコも「どうなったら一番いいか」は、考えないようにしてるんじゃないかな。「何ができるんだろう」じゃなくて、できることをやっていって、「どうなっていくんだろう」っていうことに興味があるんです。ただ楽しいからやってるわけでも、自分の理想像があってやってるわけでもなくて、「やっていったらどうなるのか」に興味があるんですよね。
「バンドをやってて一番満足感を感じる瞬間は?」という問いに、「思ったより上手く行ってるとき」と答える須藤。つまり、彼にとって重要なのは、「スタート」でも「ゴール」でもなく、その間で常に変化し続ける「過程」であるように思われる(本人は「そう言ってしまうと何か違うような……」と完全に同意はしていなかったが)。さらに言えば、その過程の中でひたすら考え続け、探求すること、その行為そのものに須藤の興味はあると言ってよさそうだ。そこからは、「音楽人」という印象とは異なる、「研究者」としての横顔が見えてくる。
須藤
そう、「音楽を(探求したい)」ってことでもないと思ってるんですよ。ただ、音楽について知ることが自分にとって楽だっただけで、相対性理論(もちろん、バンド名ではなく)とか数学とかに詳しかったら、そっちのことばっかり知りたいんじゃないかって思うんですけど、でもそっちのことはよくわかんないんですよね。でも、音楽のことは合ってる間違ってるに関わらずいろいろ知ってるんで、そこを基準にいろいろ考えていけるから、わかりやすいんです。
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