では、「あちら側」にはどんな世界が広がっているのか? これもまた、さよポニが不定期にアップする断片的な情報をもとに推測するしか手だてが無かった。そしてそのほとんどは、制服に身を包んだ3人による学生風景。ごくありきたりな学校の一コマや、自宅、通学の場面が描かれており、「こちら側」と全く変わらない日常を生きているようでもある。
ところが、MySpaceで公開された“思い出がカナしくなる前に”や“まったりしてしまったり”のMVには、日常の風景とはかけ離れたファンタジーな世界も登場しており、果たしてそれが彼女たちの夢や妄想なのか、それとも彼女たちの学生生活と地続きに存在しているものなのか、イマイチ釈然としない状態が続いていた。
※『魔法のメロディ』収録音源とは別バージョンで、初音ミクがフィーチャリングされている
そこで気になるのが、アルバム『魔法のメロディ』と同時に発売される漫画『きみのことば』の存在だ。前作からたった半年で新しいアルバムをリリースするのだから、それだけでも大変な作業だろうに、わざわざ136ページに及ぶ漫画まで作り上げたのは何故なのか。
『きみのことば』には、毎朝うさぎに乗って通学するみぃながいたり、学校でロマンスが展開されたり、ワールド全域に蝶注意報が発令されたり、『風の谷のナウシカ』に類似する深い自然が描かれたりと、かなり自由度の高い世界が広がっている。こうして「さよポニワールド」が初めてまとまったボリュームで描き出され、そこで営まれる物語が明らかになったことで、さよポニの音楽がより鮮明な色彩を帯びていくようになる。漫画を読んだ後に『魔法のメロディ』を聴くと、漫画のワンシーンの心象が歌われていることに気がつき、より深い理解のもと感動が増幅するのだ。
こうしてさよポニは、わざわざ異なったメディアで作品を同時にリリースすることで、より立体的な物語を生み出している。しかもさよポニワールドは、普通のアニメや漫画と違い、ネットを通じて現実の世界とも繋がっている。本人たちから手紙が届いたり、twitterでコミュニケーションが取れることによって、その物語が現実世界のなかで膨らんでいくという、これまでにない立体構造を作り出しているのだ。
さよポニの音楽を分かりやすく説明しますと、ユーミンなどに代表される、女性ボーカルの王道なポップスと言っていいただろう。今年4月にリリースされた『モミュの木の向こう側』は、ギター、ベース、ドラムというスタンダードな編成を基調に、要所でキャッチーなシンセリードが現れる実にシンプルなアレンジだった。その分、切なくて甘い極上のメロディと、拙いけれど繊細で生々しいみぃなの歌声が、すごく近しい存在として心に寄り添ってくる。歌唱力で人を感動させるのとは違って、この「身近さ」が心地よいのだ。女の子の淡い恋心を、リリカルな歌詞に乗せて、静かだけど一生懸命に歌うその歌声は、聴き手を問わず琴線に触れる素晴らしい力を持っている。
初の実写映像となった”無気力スイッチ”のPV。写真家・青山裕企監督作品。 『魔法のメロディ』収録音源とは別バージョン
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