世界最大級の音楽国際見本市『South By Southwest 2010』レポート

毎年3月にアメリカ・テキサス州はオースティンで開催される音楽国際見本市イベント、サウスバイサウスウエスト(South By Southwest: 以下SXSW)をご存知だろうか。世界各国から1500組を超えるアーティストと音楽業界関係者が集まり、5日間にわたり開催される世界最大級の音楽フェスであり、新人アーティストの世界進出には欠かせない重要な場にもなっている。日本ではその様子を報じられることも少ないSXSWとは一体、どんなフェスティバルなのか? このレポートでは、「見本市」としてのSXSWの裏側を紹介したいと思う。

音楽を発信する街オースティン

そもそもSXSWが開催される「オースティンってどこ??」という方も少なくないかも知れない。テキサス州都であるオースティンは州のほぼ中央に位置し、アメリカ最大規模の大学、テキサス大学本部キャンパスが設置されていることもあってか、政治的に保守的なテキサス州にあって、例外的にリベラルな気質の人が多い。オースティンの標語「Keep Austin Weird (オースティンを奇妙な(変わった / 特徴ある / イケてる)街であらせ続けよう)」からも、リベラルかつ独特な街の気質を感じとってもらえるかもしれない。そして人口の4分1近くが学生ということもあり、アメリカの流行を左右する街としても知られている。

世界中の音楽業界関係者がオースティンへ

そんなオースティンに世界から1900を超える(!)バンドが集結し、ライブを披露、音楽業界人とのコネ作りや契約交渉、勉強会…などなどを行う驚異的なイベントがSXSWなのだ。今年2010年も3月17日から21日の5日間で2万人超の音楽業界人を招いて大々的に開催された。この期間、ライブハウスはもちろん、街の中心部にあるパブやレストランもPAシステムを導入してライブ会場となる。街中に音楽が溢れかえる濃密なイベントである。加えて、このイベントが世界中の参加者から絶賛される理由の一つが、イベントの運営および各ライブ会場の管理などなど、ほぼ全ての業務に市民ボランティアが大きな役割を果たしていることだ。オースティン市民にとってもSXSWは年に一度の巨大イベントなのである。

世界最大級の音楽国際見本市『South By Southwest 2010』レポート

SXSWは、これから頭角をあらわしてくる若手バンドをいち早くチェックできる絶好の機会。日本の大型ロックフェスティバルもこのイベントで出演交渉を行っているし、120名を超えるチームで参戦するイギリスのBBCをはじめ、各種メディアも今年の音楽シーンを占うイベントとして大きな取材体勢を確保している。

ライブ激戦区SXSW

今年のSXSWは5日間で1900バンドがライブを披露するものだから、事前に公開されるスケジュールと毎日にらめっこしても、新聞に掲載される批評家たちのレコメンドリストを見ても、インターネットや街なかで耳にする噂を参考にしても、どのライブをチェックすべきなのか決めるのが非常にむずかしい。

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そしてそのライブ激戦区の中、毎年日本人アーティストも多数参加している。今年もチャットモンチーやRiddim Saunterなど20数組のアーティストがこの地で海外の業界関係者に自らのパフォーマンスを披露し、これからの海外進出のチャンスを伺った。ではここで、今注目を集める日本のインストバンド sonodaband の現地での活動を追いながら、SXSWの裏側を紹介しよう。

まずはバンド自ら手配りでプロモーション

まずはプロモーション。SXSWには万人単位の音楽関係者が集まるが、その中で自分たちの音楽性を理解してくれて、かつ今後の活動に何らかの関わりを持ってもらえそうな人を集客するには、色々な工夫が必要だ。何よりも必須なのは、ショーケース日程と会場が掲載されたフライヤーとCD。これは基本中の基本であるが、バンドのキャラクターや質の高さを一発で視覚化するデザインが求められる。

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こうした配布物を「アーティスト自ら」が街中に溢れる関係者たちに配り歩くのがSWSXの特徴でもある。アーティスト本人の見た目や人となりは、他の何よりもキャラクターや音楽性を物語るものだからだ。英米の有名アーティストまでも自らプロモーションを行う姿を目にすることもある。街中、他のアーティストのライブ会場、日中セミナーや各種講義が開催されるコンベンションセンターなどで配りまくるのが基本なのだ。
(余談だが、今年のSXSWではアナログレコードをプロモーション用に配布するバンドが複数見られた。確かにCDでプロモーションされるよりも何倍もインパクトがあり、回収率も非常に高かった)

ストリートプロモーション

そして次に、ショーケース本番を行う前に、路上演奏でプロモーションを行う。sonodaband の編成は、キーボード、バイオリン、チェロ、ギター、ベース、ドラム。他のバンドに比べて弦楽器がメロディを担当する特徴的なサウンドを活かし、楽曲をアコースティック用にアレンジして路上演奏を行ったところ大盛況。フライヤーやCDが飛ぶように持っていかれていた。

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こうやってバンドに興味を持ってくれた人々には、SXSWオフィシャルサイト内に設置されるバンドのページに誘導を図る。このページは簡易SNS機能が搭載されており、バンドに関してコメントを書き込むとTwitterやFacebookといったソーシャルメディアにも転送されるようになっている。

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ショーケース本番

こういったところを外さずに有効活用して自らの宣伝に励み、いよいよショーケース本番に臨む。ただただ最高のライブを行うことだけが、最終的にはバンドの仕事である。世界の音楽シーンへの第一歩となるステージなのだ。

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演奏終了後。ライブが良ければ、数多くの関係者が名刺を持って飛びついてくる。ここがやはりSXSWのすごいところなのだ。SXSWに参加している人間ほぼ全員が新しい音楽との出会い、新しい才能の発掘、新しいビジネスの可能性を探しにオースティンまでやって来ているのである。彼らは尻込みという言葉を知らないので、ライブが良ければ誰よりも先に自分の名前を覚えてくれと言いにやって来る。sonodabandも、正真正銘もみくちゃ状態に巻き込まれていた。

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そしてその後…

帰国後、現地で自分たちに興味をもってくれた人たちとこれからの展開について協議を行うこととなる。インターネットが普及している現在、一度生で会って話せた人間とはクイックなやり取りが行える。本格的な海外進出も夢ではないかも知れないのだ。今後の sonodaband にぜひ注目して頂きたいと思う。

いかがだろう。SXSWというフェスティバルについて、ちょっとだけでもご理解いただけただろうか。これまでにも、このSXSWをきっかけにして、BECKやノラ・ジョーンズなど数多くのアーティストが世界へと飛び立っていった。日本の音楽マーケットが縮小していく中、一方ではインターネットが普及し、日本の音楽家たちが世界市場にその活路を見いだそうとする動きも強くなってきている。そうした中で、今後もこのSXSWは重要な役割を担っていくだろう。



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