通常の「演劇」という発想にとらわれず、常に自由な形式で「演劇」をつくり続ける劇作家・岸井大輔さん。彼が行う「東京の条件」は、参加者と会議をしながらさまざまなことについて話し合っていく「会/議/体」という企画をメインに活動しています。はたして、岸井さんのつくり出す演劇は、東京という街をどのように捉えるのでしょうか?
(インタビュー・テキスト:萩原雄太 撮影:菱沼勇夫)
パブリックスペースの崩壊を食い止めたい
―まず、「東京の条件」のコンセプトを教えてください。
このプロジェクトは、政治哲学者ハンナ・アーレントの『人間の条件』という著書にちなんで名付けられています。この本は「公共」とは何かということについて、まとまって書かれているのですが、議論の前提をヨーロッパ・アメリカに設定しているためか、日本には沿いにくい部分もあるんです。例えば、日本でパブリックスペースと言うときは、他の国々のように「みんなの土地」というよりも「誰のものでもない土地」として考えられています。そうした公共性の違いを考えるためにも、まずはアーレントの考えに沿って「公共」という概念を考えてみて、日本の状況を考えるのに足りない点やそぐわない点を見つけることができないかと考えています。
岸井大輔(劇作家)
―岸井さんが「公共」という問題に対して自覚的になったきっかけは何でしょうか?
2008年頃に、神社を壊してマンションをつくる現場を見たのがきっかけです。神社がいまのような形態になってからだいたい1,000年くらい経つんですが、その間どんなに社会が変化しても、そこがパブリックスペースであるという位置づけは人々の間で変わらなかったんです。けれども、神社がマンションへ建て替えられてしまう重大な事件が起きる時代になってしまった。みんなが集まる場所が壊されていっているんじゃないかという危機感が、僕の中に湧いてきました。みんなが集まれる場所がないと演劇はできないわけですから、それをつくり出さなきゃいけないと思うようになったんです。
「2時間黙って座る」のではない演劇を
―けれども、「東京の条件」のような活動を「演劇」と名付けることは、一般的にあまり馴染みがありませんよね。
会/議/体
kai/Gi/Tai
僕の肩書きは劇作家なので、作品を見るためには劇場で2時間黙って座り、鑑賞しなければならないと思われやすい。けれども、劇場で黙って鑑賞するという形式の演劇が生まれたのはつい最近のことで、むしろ歴史的に見れば特殊なことなんです。高校生の頃からそういった演劇に対して疑いを持つようになり、もっと「普通」の演劇をしたいと思うようになりました。例えば、現代アートの作家でほとんどは絵を描かない人もいますよね。けれども、そんな彼らに対して「どうして特殊な表現をするの?」とは問いません。演劇も近い将来にはそういう風になっていくでしょう。演劇だって、もっと自由にやっていいだろうと考えているんです。
―岸井さんは東京という都市をどのように捉えていますか?
東京はある意味で最先端の社会ですから、現在東京が抱えている問題が、近い未来に世界の他の都市で起こってくるのではないかと思います。逆に言えば、東京で成功した事例は他の都市で役に立つのではないか。もし東京でアートによってパブリックスペースが守られたという事例ができれば、他の都市でもそういった活動がしやすいと思います。僕らが問題を解決できなければ他の街でも無理かもしれないので、多くの人に対して責任を背負っているのではないでしょうか。
―行政からアートへの支援のあり方について、アーティストとしてはどのように感じていらっしゃいますか?
「東京の条件」は東京文化発信プロジェクトにおける「東京アートポイント計画」プログラムのひとつなんですが、僕はこの「ポイント」という言葉がとても気に入っています。例えば僕は、神社のようなパブリックスペースを再生させる手段としてアートを使おうとしていますが、「点」にアートが絡まりあう、アートが介在することよって人の集まる場所ができるというイメージが素晴らしいんですね。アートイベントであればどこの国でもやっていますが、アートポイントというのは世界中でも稀な試み。行政が主導でアートポイントをつくるというのは、とてもカッコいいことだと思っています。
その他、東京にはたくさんの文化プログラムがあります!
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