映像表現の「奥行き」をカラダで感じる『ビジュアル・サーカス』

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映像表現の「奥行き」をカラダで感じる『ビジュアル・サーカス』

テキスト:内田伸一 撮影:菱沼勇夫

明和電機:「誰でも15分だけ…」の名言を映像化社会流に解釈?

次に、会場入りした瞬間から気になっていた一角へ移動。奇妙な楽器群がセットされた特設ステージは、明和電機の体験型作品『15秒だけ明和電機』です。

映像表現の「奥行き」をカラダで感じる『ビジュアル・サーカス』

生き物のようなユーモラスでナンセンスな楽器作品や、それらを使ったパフォーマンスで知られる明和電機。この作品では観衆がその一員となり、15秒だけステージ上でパフォーマンスできます。しかもその様子は録画され、自動的にYouTube上へアップ。かつてアンディ・ウォーホルは彼の生きた時代を「誰でも15分だけ有名になれる」と表現しましたが、これを映像化社会の現代に当てはめて解釈したものとも言えそう?

といってもそこは明和電機、一筋縄ではいきません。彼らは日本の中小企業スタイルで活動する異色アーティスト。「社長」土佐信道のもとに、「研究員」「工員」が機に応じて集います。そんなわけで今回も体験者はまず、社員の制服にお着替え。bómiさんはワンピースタイプを選び、がぜん盛り上がってきたのかステージに向かいますが、そこへ「社員」さんが静かに進み出て、いきなり入社式が。短期雇用社員の辞令をもらい、晴れてパフォーマンス開始です。

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演奏するのは、音符(おたまじゃくし)の形をした「オタマトーンジャンボ」。フレットレスベースのように指で押さえたり動かしたりすると、不思議な電子音が響き渡ります。「なんだこりゃ〜(笑)」と笑いつつも、さすがはミュージシャンのbómiさん、アドリブのフレーズとステージアクションをビシビシと決めていきます。バックを固めるのは、花の形のマリンバ「マリンカ」や、パーカッション「ロボブラジル」などの無人楽器。ジャムセッションはつつがなく終了し、bómiさんもその瞬間で「退社」となります。ちなみに社員さんに恐る恐る「ほ、報酬のほうは…」と聞くと、「15秒間の楽しさ、ですかね」と『笑ゥせぇるすまん』ばりのナイスな返答でした。

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なお市販されている「オタマトーン」を使った演奏映像のコンテストも開催されます。現在、エントリーを絶賛受付中。会場では、土佐社長自ら出演し、地元川口市のみなさんも出演するユーモラスな応募呼びかけCMの映像も見ることができます。会期中の3月25日(日)には、ファイナリストが集うスペシャルパフォーマンスも開催予定。ぜひ参加、もとい短期入社してみては?

off-Nibroll:詩情あふれる映像美が紡ぐ、この世界のリアリティ

3組目の参加アーティストは、off-Nibroll。パフォーミング・アーツカンパニー「Nibroll」の映像ディレクターである高橋啓祐と振付家の矢内原美邦によるユニットです。今回は「方向性」を共通のテーマにした3つの作品が登場。なかでも圧巻なのは、会場の大きな壁面いっぱいに投影された映像作品『a world』です。

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100人以上の人々が歩くようすをひとりひとり撮影し、それを組み合わせてつくられています。無数の小さなシルエットをよく見ると、老若男女、実にさまざまな人の姿が見えてきます。おどけて歩く人、真面目に歩く人、そして踊りながら歩く人…、あ、これは思わず映像の前に進み出て一体化していたbómiさんでした。

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映像のバックに流れるのは、時を刻む振り子の音と、雑踏のざわめき。その音が一瞬消えた瞬間、歩いていた人々の姿は世界地図をつくりだします! 添えられた解説にはこんなメッセージが。「ひとりひとりの歩き方を見れば、それらはみなバラバラですが、全体を見ると、それらはみな大きな流れのなかにいるようです。(中略)私たちはどんなふうにそこに立っていて、どこへ向かって歩き出し、どんな形の世界を作ろうとしていますか」。いわゆるインタラクティブ映像ではありませんが、さまざまな意味で観衆との相互作用が生まれそうな作品です。ちなみに、世界地図が出現する瞬間、たとえばハワイを形づくる人影は実際にハワイ出身だったりするそうです。そんなエピソードもまた、想像力を掻き立てますね。

その他のoff-Nibroll作品も、この世界における個々人の「方向」にまつわるものでした。『NO DIRECTION』は、方位磁石を埋め込んだ石盤を持ち上げ、モニターの指示に従うもの。画面には「コンパスの針を北に合わせます」「今その方向に立っているのがわかります」などのメッセージが現れます。また「+」「−」の記号が刻まれた石盤の前で、モニターに現れる単語を見て観衆が反応するバージョンもあります。一生懸命石を触ったり、上に乗ったりしていたbómiさんですが、ときには「wrong」と表示され「えぇ〜(笑)」となる場面も。謎めいていますが、身体と映像の関係をさぐるような視点もそこには見られます。

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会場の片隅にある大きな段ボール箱も彼らの作品『NO DIRECTION』。実は、箱を開けると小さな座椅子とモニターがあり、中で映像作品を観賞できます。内容は実際に見てもらえたらと思いますが、AR三兄弟の『幻と影』とも不思議と呼応するような内容でした。こちらは死について想う映像空間というコンセプトだそうです。この世とあの世の行き来にも、不思議な「方向」のとらえ方がありそうです。bómiさんは「子どものころ、ときどき押し入れで過ごすのが落ち着いて好きだったんですけど、それと似てる感覚」との感想。武骨なこの段ボール空間は、死だけではなく、生まれ出る前の胎内のような感覚も呼び起こすのかもしれません。

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内田伸一

1971年生まれ。ライター、編集者。『キャプテン翼』命なのに卓球部の中学生、The Clashに心酔するも事なかれ主義の高校生、心理学専攻のモラトリアム大学生として成長し、初対面が苦手な編集者として『A』、『Dazed & Confused Japan』、『REALTOKYO』、『ART iT』などに参加。矛盾こそが人生哉。



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